はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

女子用?

2010-04-05 21:55:14 | ペン&ぺん
 「ヤバい。間違って女子トイレに入ったか」。新八代駅でトイレの便座に腰を下ろした時のことだ。目の前に赤ん坊を座らせる補助椅子がある。椅子に「幼児を立たせるな」との注意書きも。明らかにママさん向け? ここって女子用か。催したはずの便意は遠のいてゆく。
 まずい。ここを出た所で、うら若き乙女と遭遇し「きやあ-っ、ヘンタイ」と叫ばれたら、変態ではなく大変である。
 耳を澄ます。ドアの向こうに人の気配はない。恐る恐るドアを開く。あれっ? あります。いわゆる男性用小便器が、確かに。
 これも男女共同参画社会のなせる技か。
     ◇
 トイレと言えば、多少品のないタイトルの文庫本が昨年、講談社から出版された。題して「女はトイレで何をしているのか?」。副題は「現代ニツポン人の生態学」。著者は毎日新聞夕刊編集部。かつての同僚が執筆陣にいた。
 その一節に最近、男子トイレでもカバンからへアワックスを取り出し整髪する若い人や、香水や化粧品の話を続ける男性を見かけるとか。
 ちなみに、私の長男。昨年春に大学に進学して独り暮らしを始めた。夏休みに帰省した時には、髪の毛の色が変わっていた。冬休みには、ヘンテコリンな帽子をかぶって帰宅した。本人いわく「この近所を歩いていると、なんか、オレ、浮いてるし」。

 さて、11年ぶりに鹿児島勤務となりました。鹿児島で幼稚園児だった息子は、生意気な□を聞く年齢に。こちらが老けるはずです。
 鹿児島中央駅に降り立った時は浦島太郎の心持ち。玉手箱を開くのが楽しみなような、半面ちょっと怖いような。まずは親しかった人にあいさつ状を書こうと思います。
 「また、お世話になります」と。
 鹿児島支局長・馬原浩 2010/4/5 毎日新聞掲載


サクラ咲いた

2010-04-05 21:17:37 | はがき随筆
 「見て見て」
お世話になった人のもとに孫をつれて駆けつけた。
 「由井ちゃん、頑張ったね、よかったね」
 みんな、自分のことのように喜んでくれた。理由(わけ)ありの孫とは、会うことを条件に親権を渡したが、なかなか会えなかった。
 1年4ヵ月ぶりに、願いがかなった。弁護士のS先生、志布志のH先生、義兄のMさん、警察署のI課長さん、その他多くの方に力を借りた。6歳(女)と4歳(男)の孫は、息子の手を片時も離さなかった。
 今年のサクラは、ひとしお輝いて見える。
  阿久根市 別枝由井(68) 2010/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はibokichiさん

本物の魅力

2010-04-05 20:54:49 | かごんま便り
ある地場企業の幹部からこんな話を聞いた。

 業界団体の大会が開かれた時のこと。全国から訪れる人たちを鹿児島自慢の品でもてなそうという話になり、社長命令が下った。「芋焼酎の『3M』を取りそろえろ」。都会では目玉が飛び出るような高値がつくプレミアム焼酎ばかりで、地元でもおいそれとは手に入らない。八方手を尽くして何とか確保し、お陰で社長は鼻高々。自分も面目を保ったのだ、と。

 くだんの銘柄は私もうまいと思うし、特に県外の人々は大いに喜ぶだろうから、幹部氏のお手柄?にケチをつける気は毛頭ない。でも当地にはうまい焼酎がごまんとある。当然ながら価格に比例して味の序列がある訳では決してない。つかの間の旅人たちに「鹿児島には皆さんの知らない、うまい焼酎がこんなにたくさんあるんですよ」とアピールする手もあったのではないかと思った。

 左党ゆえ、つい酒の話になったが、鹿児島には誇るべき素材がいろいろある。ダイナミックで豊かな自然、時代を彩った歴史遺産の数々、極上の食べ物などなど。原口泉・鹿児島大教授は「洗練こそされていないが素材が魅力の『雑穀文化』」と評した。県のポスターのうたい文句「本物。鹿児島県」にも同じ思いが込められているはずだ。

 ただ、せっかくの優れたお宝が地元以外では余り認知されていない気がする。「鹿児島はPR下手」などと愚痴を言っても始まらない。本物はその良さが知られてこそ本物たりうる。本物の魅力をどんどん発信できる鹿児島であってほしい。

長いようで短かった2年9ヵ月。4月1日付で福岡本部に異動することになりました。まだまだ見たいもの知りたいものが山ほどある鹿児島を、後ろ髪を引かれる思いで去ります。後任は西部本社整理部デスクの馬原浩記者です。どうか引き続きご愛読ください。

鹿児島支局長 平山千里 2010/3/29 毎日新聞掲載