はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「時の流れを」

2009-12-08 22:42:55 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   吉岡 賢一

 母の1周忌を終えた。母のお城であり寝室であった部屋は、今やソファがどっかり応接間に変身した。

 毎朝、起きがけにシャッターを開ける。人けのない寒い部屋が急に明るく生気を取り戻す。壁や天井に埋め込まれた母の目を感じるときがある。そのたびに、もっと優しく、ああしてこうしてあげたらよかったのに、と頭をもたげる自責の念は相変わらずだ。ただ目の前の悲しさに追われるだけではなく、遠い昔や幅広い母の全体像を思い出すゆとりが、出てきはじめた。

 1年という時の流れか、気持ちは随分柔らかくなってきた。
   (2009.12.07 毎日新聞「はがき随筆」)岩国エッセイサロンより


「冬の木漏れ日」

2009-12-08 22:39:44 | 岩国エッセイサロンより
2009年12月 7日 (月)

岩国市  会 員   山下 治子

 37回忌までは覚えているが、その後何年たったのか。その夜は空っ風が吹き、小雪が舞っていた。母に付き添う私に、医師が言った。「今夜が峠でしょう」
 
 皆が来るのを待ち、父が指示した用事を急いで済ませて戻ると、母は病室からいなくなっていた。私だけが死に目に会えなかった。涙があふれ止まらない。置き去りにされ、棄てられた子供のような気持ちになった。

今年の始め、母や先祖の加護のおかけで早期発見でき、余命が延びた。母の年を幾つ越えただろう。明後日は命日。山裾の山下家の墓を借りて、母としばし語ってこよう。  
   (2009.12.06 「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載  

しぶ柿の味

2009-12-08 11:25:59 | はがき随筆
 「わあ、鈴なりだあ」
 裏の畑の柿の木が、わんさと実をつけた。しぶ柿だ。ダイダイ色で頭がとがっていて、かわいい。そのまま食べれば口がとんがるほどしぶいのを知ってか、カラスもつつかないようだ。
 母がどっさりもいできた。焼酎にさっと通して、ビニール袋に入れて暗所に置いておく。
 もう食べられるかな。しばらくして食すると、何とも言えないおいしさ。「よくあおれているね」と母。しぶ柿が焼酎を飲むとこんなにおいしい柿になるとは……。親せきや近所の方にも配って、喜ばれた。
 お母さん、ありがとう。
  出水市 山岡淳子(51) 2009/12/8 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はkusatomoさん