出世ミミズ

「出世ミミズ」(アーサービナード 集英社 2006)。

集英社文庫オリジナル。
著者はアメリカ生まれの日本語詩人。
この本はエッセイ集。

ふしぎなタイトルは、英語では、ミミズは大きさで呼び方がかわることから。

日本語がうまいなんてとうに通り越して、エッセイがうまい。
軽くて、マメ知識が豊富で、話運びがみごと。

ひとつ例を。
「パッキングも大切」という文章。

まず、とっている新聞の話から。
日本語の新聞を一紙とっている。
英語の新聞は図書館で拾い読み。

親族や知人から送られてくる小包みに、ときどきパッキングとして新聞が入っていて、そんなときはしばし読みふける。

話はここから、聖パトリックの日に母方の祖父が送ってくれたカードへ。
聖パトリックは、「三位一体」の教義を説くためにクローバーの葉をつかった。
では四つ葉のクローバーは?
四つ葉のクローバーはマルタ風の十字架に形がそっくりなので、これもめでたし。

で、クローバーの和名はなんだろうと英和辞典を引いてみる。
「シロツメクサ」がそう。

さらに国語辞典で調べる。
「江戸時代に渡来したギヤマン(ガラス製品)を入れた箱の詰め物としてつかわれた」ことが、「白詰草」のその名の由来。

幕府はそれをていねいに取り出し、種をあつめ、栽培してそれが日本中にひろまった。
ひょっとすると、日本で最初に発見された四つ葉のクローバーも、ギヤマンのあいだから拾われたのかも、というのがオチ。

新聞→パッキング→祖父のカード→クローバー→シロツメクサのパッキング。
じつにみごとな話運び。

この本におさめられた、すべての文章がこの水準なのだから、恐れ入ってしまう。

くつろいで、楽しく読了。
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