ピー・アイ・マン

「ピー・アイ・マン」(アルフレッド・ベスター 創元推理社 1969)。

訳は大西尹明。
尹明でただあきと読むとは知らなかった。

アルフレッド・ベスターはSFの古典的名作「虎よ、虎よ!」の作者。
これは読んだことがあるけれど、いまいちピンとこなかった。
では短編集はどうだろうと思い読んでみる。

短編は7つ。
面白かったのは、まず「時間は裏切りもの」。
超人的な洞察力をもつジョン・ストラップの物語。
ストラップは殺された恋人とそっくりな女をさがしている。
しかし、ストラップをかつぎ上げている企業の幹部たちは女が見つかることに反対。
女が見つかれば、洞察力もなくなってしまうかもしれない。
ストラップの友人アルセステは、生命合成法の博士に依頼して、殺された女を復活させ、ストラップに会わせようとするが…。

「マホメットを殺した男たち」
これはへんてこ時間SF。
妻を寝とられた大学教授が、タイムマシンをつくり妻の父親になる男を殺害。
でも、現在は変わらない。
ならばと歴史上の偉人たちをどんどん殺す。
でも変わらない。なぜか?
フレドリック・ブラウンみたいなオチ。

「ピー・アイ・マン」
これはまさしく奇想小説。
均衡というものに憑かれた男の話。
つりあいをとるために、いろんなことばでしゃべったり、得た金を捨てたり、愛したぶん犠牲を払わなくてはいけないので自分を侮辱する女を誘ったりする。
文体もこの作者らしい奔放なもの。

「昔を今になすよしもがな」
訳者あとがきでは、作者の書く小説をソフィストケイデットと評していた。
これもそんな作品。
人類が滅亡し、最後に残った男女がくっついたりはなれたりする。
ソフィストケイデットな作品はまわりくどすぎて、つきあうのが面倒になるけれど、これは人類の滅亡と男女の閉塞感がよく合っていると思う。

ぜんたいに、へんてこなことを書いても変な書きかたはしない。
おかげでどれも読みやすかった。


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