なぜこの店で買ってしまうのか

「なぜこの店で買ってしまうのか」(パコ・アンダーヒル 2001 早川書房)。

副題は「ショッピングの科学」。
訳は鈴木主税。

友人が、この本をイチ押ししていたので読んでみることに。

著者は、小売店での買い物客の振る舞いを調査するのが仕事。
ひたすらビデオをまわし、それを分析。
買い物客に悟られないように追跡、記録。
この、一次情報を得るための努力には感服する。

内容はいかにもアメリカの実用書。
語り口はユーモラス。
やたらと明快。
やたらと具体的。
そしてやたらとエピソードが豊富。

話を、さかのぼれるだけさかのぼったところからはじめるのが嬉しい。
「買い物客は人間で、人間らしく動きまわる」
ここからはじめるのだ。

・買い物客は店にいる時間が長くなるほどたくさん買う。
・客が店内にいる時間は、その場がいかに快適で楽しいかによる。
・買い物客と従業員の接触がふえるほど売り上げが伸びる。
・店に入ってすぐは、まだ気持ちが店にきていない。買い物客には滑走路が必要。
・滑走路に掲示物を置いてもそう見られない。
・掲示物は店に入ってくる客と、出ていく客にむけて変える。
・客に買い物カゴをもたせるだけで売り上げが伸びる。
・カゴは店全体に置く。
・ひとは歩くと右に寄り、自然と右に曲がる。
・ひとは鏡を見ると減速する。
・客には暗示やヒントだけで充分。なにかを発見する喜びまで奪ってはいけない。
……

これはほんの一例。
さらに客を年齢別性別などに分け、また買い物という行為をいくつもの場面に分けて考察。

・ティーンエイジャーはどこにあろうとほしいものを探し出す。
・高齢者へはなるべくからだを曲げずにすむように陳列すべき。
・買い物客は1分半以上待たされると、長く待たされていると感じる。
……

などなど。
しかし!
ここまで知恵をしぼっても、客というものは思惑通りに買い物してはくれない。

・レンタルビデオ店で、新作をほしがっている客にほかのもので気をそそろうとしてもうまくいかない。いちばんいいのはそれにつきあうこと。

なんだか自然科学の、フィールド・ワークの本を読んでいるよう。
観察と洞察に満ちた本として、とても楽しめる。
読み終わると買い物にいったとき店のなかをうかがってしまうことうけあいだ。

先の友人は、この本で得た知見を実行し、店の売り上げを倍にしたそうですよ。

ところで。
書店にはカゴを置くべき、と著者は力説しているけれど、カゴのある本屋さんというのは、ちょっと思い出せないなあ。
図書館はよくあるけれど。
あ、ブックオフにはあるか。


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