労働ダンピング

「労働ダンピング」(中野麻美 岩波書店 2006)。

岩波新書の一冊。
タイトルが素晴らしい。
なにが書いてあるか一目瞭然。

現在、雇用は液状化してしまった。
きっかけは1999年の改正労働派遣法。
この規制緩和が、雇用市場を一気に拡大させ、労働の商品化を過熱させた。

非正規雇用職員は、使用者にとって、とても都合のいい労働力になった。

つらい話がたくさん載っている。
請負業者から、同じ賃金で深夜勤務を命じられ、断ったら解雇された。
競争入札があり、仕事は維持できても時給は400円以上ダウン。
生活が維持できなくなった。

きょうから個人事業主としてはたらいてくれ、といわれるケースもあるそう。
そうすれば、使用者は労働法の責任を一切負う必要がなくなる。

また、同じ仕事をしているのに、賃金に差がある。
自治体ではたらく臨時・非常勤職員のアンケートでは、正職員の給料日やボーナス支給日には、心理的に出勤できなくなるという声も目につくという。

さらに期間満了時に、契約条件の変更を通告される。
契約期間の細切れ化も進む。

使い勝手がいいということは、たいへんな競争力があるということ。
当然、正規職員も巻きこまれる。
完全歩合制になったり、きびしいノルマを課せられたり。

グローバル時代での競争力を維持するため、規制緩和がおこなわれたが、それは要するにコストを外部化、個人化することだった。

成果が上げられない現状が、個人の責任となる。

たとえば外食産業などで、店長が過酷な労働をさせられる。
管理監督職が、最低賃金法以下の時給ではたらくようなことが起こる。

労働基準監督署に申告すると、使用者からこういわれる。
「時間外労働は命じていない」
「時間外になるのは能力がないから」
「割増料金を支払わなくてもいい管理監督職だから」

最低賃金は上回っても、生活保護給付以下にしかならない低賃金労働も増えているそう。
著者いわく「反憲法的低賃金労働」。

契約更新というのはハラスメントの機会につながる。

笑ってしまったのは、1995年に問題となった南海放送の話。
女性アナウンサーを契約社員として採用し、4回かぎりの更新で雇用を打ち切っていたそう。
ロコツだなあ。

また、もともと補助的な仕事しかあたえられていなかった女性職員は、成果主義のもと圧倒的に不利になる。
差別は、能力や業績に置きかえられてしまう。

この規制緩和によるコストの個人化現象は、各国で見られるものだとのこと。

雇用条件をよくするのに成功した話も載っている。
でも、不都合が起きるとすぐ雇用を打ち切られる現状では、なかなかむつかしい。

著者は弁護士。
読んでいて、とても怒っていることがつたわってくる。

ことばづかいは、もうちょっとわかりやすいほうがうれしかった。
「月例賃金支給日」は、ひらたくいうと「給料日」のことだと思うけれど。
ちがうかな。


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