日本語の森を歩いて

「日本語の森を歩いて」(フランス・ドルヌ 小林康夫 講談社 2005)。

副題は「フランス語から見た日本語学」。
講談社現代新書の一冊。

著者はフランス人の言語学者。
フランス語の世界から日本語を見ると、違和感をおぼえる表現がいろいろある。
本書はそれをとっかかりにして、日本語を考察したエッセー。

ことばの話はむつかしい。
ことばでことばについて考えなければならないから、読んでいると脳みそがでんぐり返りそうになる。

比較的わかりやすくて面白かったのは、「お湯を沸かして」という話。

フランスでお湯は、「eau chaude」というそう。
chaude(熱い)、eau(水)の意味。

しかし日本語にはお湯ということばがあり、しかも「お湯を沸かして」なんていう。
「水を沸かして」とはいわない。
論理的に不可能なことをいわれているようだと著者。
たしかにそうだ。

話はここから自動詞と他動詞のペアに移るのだけれど、このへんは省略。
結論をいうと、「沸かす」とは、お湯が「沸くようにする」こと。
きっかけをあたえる。

さらに話は「わく」ということば全般へ。
「お湯が沸く」、「水が湧く」、「虫がわく」、当てた字はちがうけれど、イメージは一緒。
下から上に、自然に立ちのぼっていく感じ。

そして、ひとは、お湯に対しては「沸くようにするきっかけ」をあたえることができるのだ。

ふだんなにげなくつかっているいいまわしから、するすると話を広げていくさまが楽しい。
わずかなことばにも、その言語の体系が反映されている。

しかし、無意識につかっていることばを意識にのぼらせるのは相当に大変。
ことばの微妙な重みや振る舞いを見逃さないようにしなくてはいけない。

頭が丈夫じゃないとできないことだなあと痛感。



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