『漆の文化史』

2010-11-29 17:10:06 | 本の話
四柳嘉章著、岩波新書『漆の文化史』

漆も知っているような気がするものの
一つです。

英語でジャパンというくらいだ、とか
縄文時代から日本でも作られていたとか。

日本の伝統工芸を代表すものでもあり
日々使うものでもあります。

山を歩いてウルシにかぶれた、ということも
私たちの子供時代にはありましたね。

漆は身近とはいえ、知らないことも多いと実感させる
本でした。
この年になって知らないことだらけというのも
情けない話ですけれども。


人間の技術というものは特別なことを除いては
進歩するものです。

縄文土器→弥生土器→陶器→磁器のように
時代とともに技術や品質が上がっていきますね。

では、ここに異なる遺跡からでた二種類の漆器が
ありますが、それぞれ何時代か当ててみてください。
賞品は出ません。

A 下地塗りは柿渋 上塗りが2層の漆 

B 下地が漆2層 上塗りが7層の漆

答えは
Aが中世たとえば鎌倉時代以降
Bが何と縄文時代

Bの例として三内丸山の腕輪を挙げておられます。

中世にくだる方が木も安い代用品、古代のほうが
良い木でしっかりとした多層塗なのです。
もちろん古いほうが「持ち」がよろしい。

筆者によると「今日の(漆塗りの)技術の基本は
すでに縄文人が完成させていた」

漆の木を管理栽培し、樹液を精製加工(なやし、くろめ)
丁寧に濾して多層塗しています。
温度や湿度の管理、一層塗るたびの研ぎ出し・・

では中世ではなぜ「手抜き」に「落ちた」のか?
一般の人の手に入るように安価な普及品の多量生産が
始まっていたのです。

時代が下る方が良い物が出土するなんてシロートの
イメージなのでした。

場合により様々なのですね。

それにしても縄文のポシェットといい上記の腕輪といい
「狩猟採集の縄文人」というイメージとは違う立派な
文化を育てていたものですね。


近世の輪島塗そのほかの話も興味深いもので
読んで得する一冊でした。