梅雨のさなか。
今のところ、降り出しそうにない。だが、とても蒸し暑い夜だ。
このあたりは寺沢町七丁目。盛り場からは、少しはずれている。
汚くて細い路地を、女目当ての男たち。大方は酔った足取りだ。
「あらっ、あのー、あなた」
背後から、忍ばせた若い女の声。
私は構わずに歩いた。この辺りに、知り合いの女はいない。
「お逃げになるの!」
背後の声が、少しばかり尖ってきた。だが、どこかに艶があった。
つい振り向いてしまった。それが私の弱点なのだ。
「やっぱり一平さんだったわ」
女は手を口にあて、クスリと笑った。口元で、白い指が舞った。
常よりは情の残りし昼寝かな 鵯 一平
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