私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命よ、生き残れ(4)

2019-11-06 22:35:50 | 日記・エッセイ・コラム

 前回の記事の終わりに書いたように、トルコとロシアの間の了解事項をまとめた覚書の第2項: 

2. They emphasize their determination to combat terrorism in all forms and manifestations and to disrupt separatist agendas in the Syrian territory.

を読むと、

シリア北東部の三角形地域を支配しているクルド主導の民主的自治行政機関(Democratic Autonomous Administration of North and East)(今後はDAANEと略称します)のやっていることは、シリア領土内で行われている分離主義者的行動方針、政策(separatist agendas)の一つに含まれると考えても何の不思議もありません。実際、イラク北部のクルド人自治区政府は、2017年9月に、独立の賛否を問う住民投票を実施、賛成が9割以上を占め、独立を求める民意が表明されました。この住民投票騒ぎについてのマスコミ報道の典型例として、2018年10月2日付けのNHK特集「クルド住民投票1年“独立の夢”の行方は」を挙げておきます:

https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/10/1002.html

注意すべきは、この報道には誤謬と偏向が含まれていることです。私は、この独立騒ぎは米国とトルコとイスラエルが仕組んだ偽旗作戦ではなかったかという強い疑念を持っていますが、これについては別の機会に論じましょう。

 このイラク北部のクルド人自治区の先例から、ロジャバ革命をシリア北東部の三角形地域に拡大しているDAANEが、その支配地域のシリアからの分離独立のアジェンダを秘めているとしても不思議ではありません。しかし、私は、それはないと信じます。ロジャバ革命が基づいている思想は骨太で明快です。民族国家形成への希求をはっきり超克しています。戦術的に、時宜に即して、表明されたものではありません。エルドアン、トランプの類はともかくとして、プーチン、アサドはそのことを十分弁えていると、私は判断しています。当面というか、短期的には、プーチンの声明(前回訳出)の中に、

「これに加えて、シリア政府と北東部のシリアに居住しているクルド人たちの間の広範な対話が開始されなければならない。シリアという多民族国家の不可欠の一部としてのクルド人のすべての権利と利益は、そのような包括的な対話を通してのみ十分に考慮されるであろう。」

とあることに安堵を覚えます。シリアのアサド大統領はこの対話に真摯に従事するでしょう。彼は国家という政治的枠組みの中で問題の解決を目指しますから、シリアのクルド人たちは、現在のDAANEのステータスから一定の後退を余儀なくされると思われます。しかし、アサド大統領は、強権的な冷血残忍なタイプの政治家ではありません。この私の判断は、最近あらためてロジャバ革命の支持を強調したチョムスキーのアサド評価と異なります。最近(10月31日)シリアのテレビ局が行ったアサド大統領の長時間にわたるインタビューの内容全文(英訳)が発表されました:

http://www.syriatimes.sy/index.php/presidential-activities/44616-president-al-assad-s-interview-with-the-syrian-tv-and-the-syrian-alikhbaria-tv

https://syria360.wordpress.com/2019/11/01/president-assads-interview-with-to-al-sourya-and-al-ikhbarya-tv/

ここに含まれている質問あるいは話題は広範 にわたり、大統領の発言は直裁で、極めて興味深い内容です。サンプルとして、その米国大統領観を引用します:

**********

As for Trump, you might ask me a question and I give you an answer that might sound strange. I say that he is the best American President, not because his policies are good, but because he is the most transparent president. All American presidents perpetrate all kinds of political atrocities and all crimes and yet still win the Nobel Prize and project themselves as defenders of human rights and noble and unique American values, or Western values in general. The reality is that they are a group of criminals who represent the interests of American lobbies, i.e. the large oil and arms companies, and others. Trump talks transparently, saying that what we want is oil. This is the reality of American policy, at least since WWII. We want to get rid of such and such a person or we want to offer a service in return for money. This is the reality of American policy. What more do we need than a transparent opponent? That is why the difference is in form only, while the reality is the same.

**********

 このインタビューの中で、シリアのクルド人問題も詳しく明快に語られています。上にすでに述べたように、アサド大統領はシリア・アラブ共和國という統一国家の元首として、現在の政治的時点に鑑みて当然の語り口で、語っています。ただし、この部分はかなり長いので、ここで適切に議論するわけには参りません。私として申し上げたいことは、同化政策の対象、さらには民族浄化政策の対象としてしか、クルド人問題を考慮することの出来ないトルコのエルドアン大統領とは正反対に、シリアのアサド大統領は、個人的には、ロジャバ革命の世界史的意義を理解しているに違いない、ということです。そして、おそらく、ロシア連邦のプーチン大統領についても同じことが言えるでしょう。

 ロジャバ革命が生き残ることを強く願う私が、シリア情勢の近未来、中東の近未来について、あえて予言を試みるとすれば、それはエルドアン大統領の失脚による中東情勢の激変です。今年、2019年の初頭に、クルディスタン労働者党(PKK)の指導者ムラト・カラユランが、年頭の挨拶として、「今年は我らの決定的勝利の年となる」と言っていたことを思い出します。2019年も余すところ2カ月足らず、年内は無理でしょうが、新しい年に希望を託すことにします。

 

藤永茂(2019年11月6日)


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