私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

国民国家のイデオロギーの否定

2022-03-26 09:33:05 | 日記・エッセイ・コラム

 ブログ『釈迦に説法』へのコメントの形で大橋晴夫さんから「国民国家のイデオロギーの否定」の問題を提起していただきました。いま荒れ狂っているウクライナ紛争は、もし核戦争が勃発しなければ、帝国と植民地政策の時代が終わりを迎え、国民国家が次第に消滅し始めるという世界史の大変革時代の開幕を促すであろうし、ぜひ、そうなって欲しいというのが、いまの私の偽らざる心情です。私はその日を見る事は出来ませんが。

 その世界変革の萌芽は、よく目を凝らせば、世界中のあちらこちらに既に見つかります。私が特に関心を持っているのは、メキシコのサパティスタ運動とクルド人指導者オジャランの思想に基づく革命運動です。この二つの運動に関連する記事として次の二つの記事を掲げておきます:

https://roarmag.org/essays/ramor-ryan-interview/

https://anfenglish.com/news/dr-brauns-Ocalan-s-paradigm-can-end-wars-58760

 始めの記事の中にはオジャランとクルド人たちの革命運動についての長い言及が含まれています。二番目の記事は「オジャランのパラダイムは戦争を終わらせる事ができる」という魅力的なタイトルです。次の機会に翻訳したいと思っています。

 しかし、現在、目前の世界情勢は、国民国家のイデオロギーの衰退を夢見るにはあまりにも苛酷なものです。米国とロシアの覇権争い、いや、米国がロシア国民を厳しく痛めつけてプーチンを失脚させ、ロシアという国の「レジーム・チェンジ」を遂げようと、ウクライナの一般国民をスケープゴートにして、猛烈にロシアに襲いかかっているのが現在の状況です。

 3月2日に行われた国連のロシア非難決議の投票結果は次の通りです:

193カ国中、賛成は141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国

棄権(35):アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ、キューバ、エル・サルバドル、赤道ギニア、インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギスタン、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、タンザニア、ベトナム、ジンバブエ

意思を示さず(12):アゼルバイジャン、ブルキナファソ、エスワティニ、エチオピア、ギニア、ギニア・ビサウ、モロッコ、トーゴ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベネズエラ

これを見ると、賛成しなかった国の数は52カ国に登ります。忖度の上の賛成を除外することにすれば、積極的賛成は5指に満たないかも知れません。

 賛成を表明しなかった国として多数のアフリカの国家が含まれていることは注目に値します。アフリカ大陸の大国である南アフリカのラマポーザ大統領はウクライナ紛争について明確にNATOを批判する姿勢を表明しました:

https://www.reuters.com/world/africa/safricas-ramaphosa-blames-nato-russias-war-ukraine-2022-03-17/

アフリカは全体としてロシアを支持していると主張する別の記事、

https://libya360.wordpress.com/2022/03/21/africa-supports-russias-operation-in-ukraine-and-advocates-a-revival-of-the-non-aligned-movement/

によれば、ラマポーザ大統領は昔懐かしい“非同盟運動”の復活を提案しています:

In light of the conflict in Ukraine, South African President Cyril Ramaphosa called for a revival of the Non-Aligned Movement and also spoke of the weakness of the UN in the current situation. It should be recalled that the Non-Aligned Movement was an international organization, founded in 1961 during the Cold War, which brought together states in Asia, Africa, Latin America and Europe that adhered to the principle of non-alignment with any military bloc. Speaking to South Africa’s parliament, President Ramaphosa said: “We must work to revive the Non-Aligned Movement so that those countries that are not in a rivalry for hegemony between the major powers can work together to build world peace.” At the same time, he pointed out that while South Africa was in solidarity with the UN position calling for an end to military action in Ukraine, the entire situation demonstrated “the weakness of the structure and practical actions” of this organization. There is a need for a multilateral approach to peace and security issues, he said.

 世界中の国々を脅迫して自分の側につけたい米国は、「ロシアのウクライナ攻撃に賛成なのか反対なのかをはっきり表明しないのは人道上許されない」と公式に脅し文句を発して、前回のロシア非難決議から一月も経っていない3月24日に再度の国連総会を開き、再度の表決を強制しました。その結果は以前に紹介した青山弘之氏のサイトに詳しく出ています:

国連総会は特別緊急会合で、ロシア軍によるウクライナでの民間人やインフラ施設の無差別攻撃を非難し、即時停止を求める決議を140カ国の賛成、5カ国の反対、38カ国の棄権で採択した。

反対票を投じたのは、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリア。

棄権したのは、アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、ボリビア、ボツワナ、ブルネイ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、中国、コンゴ、キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア共和国、エスワティニ、エチオピア、ギニアビサウ、インド、イラン、カザフスタン、キルギス、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、南アフリカ、スリランカ、スーダン、タジキスタン、トーゴ、ウガンダ、タンザニア、ウズベキスタン、ベトナム、ジンバブエ。

軍の即時撤退などを求めた3月2日の決議の賛成国数141から1カ国減り、棄権国は3カ国増えた。

決議案はフランスとメキシコが作成し、日米など計90カ国が共同提案した。(以下略)

3月2日と3月24日の評決結果をまとめて比較しましょう。

前回:総参加国193、賛成141、反対5、棄権35、無意思表示12

今回:総参加国193、賛成140、反対5、棄権38、無意思表示10

これを見ると、米国が発した脅し文句にもかかわらず、賛成票が1つ減り、意思表示を避けた国が2つ減り、棄権の票は3票増えました。つまり、米国批判ムードは拡大の兆候を示しているという事です。米国は脅しと宣伝の力を過信し、世界の人々の知能と感受力を見くびり過ぎています。アフリカや中南米の人々だけでなく、日本人やドイツ人も米国を牛耳っている好戦的支配権力の醜悪さを次第に見抜き始めているのだと私は感じます。

 私がプーチンより遥かに重罪の戦争犯罪人として挙げたマデレーナ・オルブライト全米国国務長官が3月23日に亡くなりました。クリントン大統領の下の国務長官として、米国がウソの理由を立ててイラク戦争を開始した時、食糧や医薬品の輸入封鎖という残酷不法なサンクション政策を実行し、そのため50万人のイラクの子供たちが死にました。それに対してこの女性は“It was worth it”(それだけの値打ちがあった)と言い切りました。歴史に残る暴言です。イラクの50万人の子供たちの命を犠牲にして、米国は一体何を得たのでしょうか。

藤永茂(2022年3月26日)


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8 コメント

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Unknown (一読者)
2022-03-27 04:54:19
私は前々から経済制裁の偽善性に憤りを感じていました。以下一般論となりますが、経済制裁は「非民主的な独裁国家」に対し課されます。しかし制裁に苦しむのは一般庶民です。どんなに制裁で一般大衆が貧しくなろうと一握りの独裁者とその取り巻きが贅沢な生活を送り続けるのは容易です。なら制裁の目的は何なのか?貧しい大衆に心痛めた独裁者が政策転換を図ることを促す?あり得ませんね。追い詰められた貧民が反乱を起こす事を祈る?血も涙もない独裁者相手に!?結局経済制裁は独裁に苦しむ庶民に二重の苦しみをもたらすだけの結果に終わります。実際経済制裁を受けて政体変化が実現した例が歴史上あるでしょうか?一刻も早く馬鹿なマネはやめるべきです。
国家とは? (山椒魚)
2022-03-27 11:45:44
国を考えるとき、寺山修司の歌
「マッチするマッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」
を思い出します。
 国民が身を捨てても良いと考えるような国家はあるのでしょうか
 私は我が子を国家のために死ねとは言いません
Unknown (nobara)
2022-03-27 20:28:45
ひと月の間に2度国連でロシア非難の決議を取られ、2度目にはアメリカの脅しがあったのに、アメリカ追随の賛成票は減ったとのこと。アメリカの影響力が弱まっていることを知るのは嬉しいことです。
 日本人の多くは、ウクライナが過去どんな状況であったかを知りません。そのことがロシアの行動を理解するのにとても深刻な影響を与えていると思います。平和なウクライナにロシアが突然襲いかかったと思っているのです。
 知らせる努力をしていかねばなりません。私は、友人に、藤永茂先生のこのブログのURLを知らせて「一番中立的でわかりやすいからぜひ読んで」と知らせたり、田中宇さんのニュース解説の中のこれはと思うものをコピーして友人に配ったりしています。SNSで不特定多数に流すことができる方はぜひ知らせていただきたいです。
ウクライナ (ワタン)
2022-03-27 21:25:04
こんな動画をみつけて、やつぱりと思ひました。ウクライナも一筋縄ではいかぬ複雑な国なんですね。

2022.3.26【ウクライナ】世界各国のネオナチがウクライナに結集!【及川幸久−BREAKING−】
https://www.youtube.com/watch?v=pvzZoguPUVM
粒子か波か (大橋晴夫)
2022-03-31 12:27:33
藤永さんの二つのブログを取り違えたわけではありません。国連総会でのアラファット演説を詳細に見てみると、と前置きして、堀田善衛は「国境・境界を特定しない二国家・・・・。これは、実状としてどういうことになるものであるのか、容易なことでは見当もつきかねるのではあるけれども、それは“国家”というものに関しての、新しい考え方であろうとだけは言えるであろう。」と書いています(時空の端ッコ11頁)。世界は帝国化するのか国民国家の分立に戻るのかと問題をたてるひとがいます。そうしたひとはきまって、誰が国境線を引いているのかを語りません。帝国化でも分立化でもない道を考えることは、日本の国境問題にも必要でしょう。
Unknown (竹村正人)
2022-04-07 11:58:38
トーマス・サンカラの暗殺について、ついに判決が下されたようです。
https://www.aljazeera.com/amp/news/2022/4/6/hold-burkina-faso-sankara-trial
ウクLieナ (ワタン)
2022-04-13 17:16:07
<ウクLieナ>紛争はをはりなのでせうか、田中宇氏や藤原直哉氏は総括してゐる気配が。
https://www.youtube.com/watch?v=TEjSxPbZzBs&t=285s
大局観 (グリーンサムライ)
2024-02-12 14:17:31
最近ではChatGPTや生成AIブームによって、人工知能の数学アルゴリズムブームが引き起こされて、文系・理系問わず興味が集まっているようです。そんな中、企業経営者の間では、ブラックボックス問題の対応から材料物理数学再武装という大学の講義資料が受けているようですね。その源流はものづくり国学とも呼べる日本刀やマルテンサイトにまつわるものだとか。

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