頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

青木の世界史B実況中継を読む

2010-02-13 | books

知り合いに薦められて読んでみた、大学受験の参考書。私が受験したときにはこんな本はなかった。山川の教科書+用語集、後は私は旺文社の参考書だった。高校の同級生のKてつ君は先生が薦めてくれた中公文庫の世界の歴史を読破して「なんか分かった気がする」とほざいて、私を驚愕させた。なぜなら私も面白く読んだが、何一つ記憶に残っていなかったからだ。後に彼が出版関係の仕事に就いたことも何か関係があるのだろうか。


さて青木の世界史実況中継。河合塾での講義を口語調でそのまま本にしているのだ。だから尋常でないほど読みやすい。すらすら読めるし面白い。最近の受験生はこんなに楽しやがってるのかと軽い怒りを覚えた。まあ青木先生の軽い左寄り思想がパリ・コミューンの説明のときなどに炸裂しないわけではないが、しかし平坦すぎる説明よりもインパクトがあるほうが頭に残る。文語と口語でこんなに違うとは。難点があるとすれば、口語なので全5巻になってしまうこと。でもあれだけ読みやすくて記憶に残るなら仕方ないだろう。

「もう一度読む山川世界史」が売れているそうなので、前に書店で手に取ったときは山川の教科書とどう違うかワカランと思ったのだが、再度手にとってみた。すると、教科書のアプローチとは違う、試験に出るからここ覚えておけ的アプローチの真逆アプローチでいいなあと思った。

つい先日地下鉄に乗っていたら、ドラマ「とめはねっ」の書道部の背の高い口の悪い女の子に似た(つまり私好み)女性が私の隣に座った。顔が好みと言っても、全身からギャルっぽい感じがしている。しかし彼女が鞄からだして読み始めたのはなんと「もう一度読む山川世界史」だった。こういう瞬間が私はとても弱い。ギャップというやつですよね。

で、青木実況中継ですが、世界史を履修しなかった人や、歴史アレルギーの人、歴史をもう一度学んでみたいなという人たちにとってもオススメである。もう一つ定評のある参考書があって、そっちは読みかけなんだけど、なんとその著者が高校時代の恩師だと分かって超驚いた。高校のクラスメートのみなさま、S先生の参考書売れてるんだよ。(高校の友達がこのブログ何人読んでいるか分からないけどね。)恩師が書かれた本を弟子がレビューすべきでないだろうと思うので、レビューしないつもり。

それと、「もう一度読む」は悪くないんだけどね。青木実況中継には負けるかな。勝負してるわけじゃないけど。とにかく面白い。知り合いの女性(親と同居)にこれ薦めたのさ。で、彼女が1巻を買って家に置いておいたら、勝手に父親が読んで面白いからとお金くれて「残り買ってきてくれ」だってさ。そのお父さんの気持ちはよく分かるよ。高校時代日本史しか履修してないYちゃんにも薦めている。

しかし参考書って安いのね。あれだけ書いてあって千円ちょっとで買えるとは驚きだ。出る部数の問題なのか、一度出すと何回も増刷がかかるからなのかよく分からないけど。山川の教科書が760円で売っていてのけぞってしまった。

小説を読むのと同じ感覚(=自分を楽しませる)で読むのにとてもいいし、自己啓発本なるモノを読むよりもいいんじゃないかな。


追記:
忘れてた。なぜか受験参考書「菅野日本史B実況中継」を読む を書いていたんだった。だいぶ前だけど。





NEW青木世界史B講義の実況中継 (1) (The live lecture series)
青木 裕司
語学春秋社

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NEW青木世界史B講義の実況中継 (2) (The live lecture series)
青木 裕司
語学春秋社

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NEW青木世界史B講義の実況中継 (3) (The live lecture series)
青木 裕司
語学春秋社

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NEW青木世界史B講義の実況中継 (4) (The live lecture series)
青木 裕司
語学春秋社

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NEW青木世界史B講義の実況中継 (5) (The live lecture series)
青木 裕司
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もういちど読む山川世界史

山川出版社

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風邪ひいた

2010-02-12 | days


何日か前からのどが痛い。熱も出てきた。声が出ない。風邪ひくってこういうことなんだ。そうなんだ。

こんなとき、自分は生きてるって実感す・・・るわけねいやい。

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店名にツッコンでください7

2010-02-11 | laugh or let me die



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『順列都市』グレッグ・イーガンが未来を駆け抜ける

2010-02-10 | books

「順列都市」(上下)グレッグ・イーガン 早川書房 1999年
PERMUTATION CITY, Greg Eagan 1994

2000年代最高のSF作家と言われるグレッグ・イーガンの初期長篇である。

2500年、人間をスキャンして、デジタルのデータとして「コピー」を作ることが可能になった。自分のコピーと自分そのものはどう共存在し得るのか、自分が死んだ後、コピーが生き続けるとはどういうことなのか。分子生物学、量子力学、人工生命、科学的な根拠を元に縦横無尽に駆け抜けるイーガンの世界。

いやいやいや。これはスゴイぞ。冒頭いきなり巧い。

もし我々が、ヴァーチャルな存在であって、コンピュータープログラム上に存在するだけの存在であると分かったらあなたはどうする?

と胸躍らせて読んでいたのに、下巻で急激に難しくなったので再読した。つまり読むのにすごく時間がかかった。猛烈に読みにくい。カラマーゾフの兄弟の新訳よりリーダリビリティが低い。フロイトの精神分析入門より読みにくい。資本論と同じくらいかと思う。しかし噛み締めているうちに段々と味が分かってきた。

そもそもミステリ読みであってSF読みではない私がとても良く出来たレビューを書こうとするのはおこがましいし(ということを言い訳にして)実は巧く書けないのだ。すまぬ。翻訳した山岸真さんのあとがきを読むのを薦める。大森望さんと並んで、この人の書く訳者あとがきは実に巧いので、あとがきを読むとつい買ってしまうのだ。

順列都市とはPermutation Cityの直訳である。本文に出てくる重要な理論「塵理論」は読んでいて、それって真実かもと思ったのにグレッグ・イーガン自身はそういうことはないだろうとオフィシャルサイトに書いている。おいおい。それはないだろう。

それとですよ、

私たちって、もしかしてコピーかも知れないよ!


以下にやや脱線しつつ。

グレッグ・イーガン自身が詳しいサイトを立ち上げている Greg Egan's Home Page

Greg Eaganが参考に挙げていたSimulation, Consciousness, Existence
Hans Moravec, 1998
によれば、

http://www.frc.ri.cmu.edu/~hpm/project.archive/general.articles/1998/SimConEx.98.html

A possible world is as real, and only as real, as conscious observers, especially inside the world, think it is.
(拙訳:世界というものはさーリアルなんだけど、それは我々が見ている程度にリアルって事に過ぎないんだよね。特に内部世界では)

こんな論文は普段読まないので実に刺激的。興味のある方はぜひ読まれたし。この論文の最後にシェークスピアのハムレットからの引用がある。これを読むと、なんだか全てがすとーんと収まった。引用の引用をして今回のレビューを終わりにする。

To die, to sleep;
To sleep: perchance to dream: ay, there's the rub;
For in that sleep of death what dreams may come
When we have shuffled off this mortal coil,
Must give us pause: there's the respect
That makes calamity of so long life;
For who would bear the whips and scorns of time,
The oppressor's wrong, the proud man's contumely,
The pangs of despised love, the law's delay,
The insolence of office and the spurns
That patient merit of the unworthy takes,
When he himself might his quietus make
With a bare bodkin? who would fardels bear,
To grunt and sweat under a weary life,
But that the dread of something after death,
The undiscover'd country from whose bourn
No traveller returns, puzzles the will
And makes us rather bear those ills we have
Than fly to others that we know not of?
Thus conscience does make cowards of us all;
And thus the native hue of resolution
Is sicklied o'er with the pale cast of thought,
And enterprises of great pith and moment
With this regard their currents turn awry,
And lose the name of action.








順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房

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順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房

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本読んでますか

2010-02-09 | books


私が人生を知ったのは、人と接したからではなく、本と接したからである。<アナトール・フランス>

A book must be an ice-axe to break the seas frozen inside our soul. <Franz Kafka>

人の品性は、その読む書物によって判ずることができる。<スマイルズ>

The smallest bookstore still contains more ideas of worth than have been presented in the entire history of television. <Andrew Ross>

読書で生涯をすごし、さまざまな本から知恵をくみとった人は、旅行案内書をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようなものである。<ショウペンハウエル>

何はともあれ、自分の純粋な楽しみのため日本を、特に小説を読むのはひさしぶりのことだった。この何年間の間に読んだ本と言えば、法律関係の本か、あるいは通勤の電車で簡単に読めるような間に合わせの本ばかりだった。誰が決めたわけでもないのだが、法律事務所で働いている人間が多少なりとも読みごたえのある小説を手にすることは、不品行とまでは言わないまでも、あまり好ましくない行為であるとみなされていた。人々はきっと皮膚病にかかった犬を見るみたいに僕のことを見ただろうと思う。そしてきっとこういっただろう。「ふむふむ、君は小説を読むのが好きなんだな。僕も小説は好きだよ。若いころはよく読んだなあ」と。彼らにとっては、小説というのは若いときに読むものなのだ。ちょうど春に苺を摘み、秋に葡萄を収穫するように(「ねじまき鳥クロニクル」第一部45頁より引用)

A life without books is safe, but that is not what a man is built for. @full

おんながいなくても生きてゐけるけど、本がなかったら生きてゆけぬ @full



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映画『ゴッドファーザー PART II』

2010-02-08 | film, drama and TV

シリーズ第2作。第1作からあまり時間を空けないで観た。父親ヴィトの昔を回顧するシークエンスと現在を交互に描く。若き日のヴィトがまさかロバート・デニーロだとは。しかも観ていて「どっかで見た顔だな」と思って、観ながら手元でiPhoneをいじってWikipediaで調べて分かったとは。

20世紀が始まってすぐの頃のアメリカへの移住。故郷シチリアを追われてやって来たヴィト少年はどんな気持ちだったろうか。自分が10歳のときに、言葉も分からない国へ行かなければならないとしたら、入国したときに何を思ったろうか。期待だけじゃなく不安で押しつぶされてしまうに違いない。移民国家であるアメリカ合衆国はこんな勇気ある人たちのおかげで成立しているのだね。

ヴィトは地元のイタリア移民の「ため」に動いているうちに、「ドン」と呼ばれるようになった。人を殺したとは言え、それは犯罪とも言えないような善行だった。私が読んだ、イタリアマフィアがアメリカで登り詰めていった様より随分と美化されている感じはするが、エンターテイメントなのだから何でも現実をそのまま描けばいいってもんでもないんだろう。

今回はユダヤ系のマフィア、ロスとの対決がメインである。最初は極めて穏健なおじいちゃんに見える彼の曲者ぶりが見事だ。それと使えない兄フレドの裏切り。全身からダメ男オーラを放出するこの役者(ジョン・カザール)も巧い。私が気に入ったシーンは、裏切りがバレ、弟マイケルと絶縁状態になるフレド。後に、父親の葬式にやって来る。フレドはマイケルと会いたいを頼むがそれは難しいとトムに言われる。しかし、後にマイケルが客がたくさん来ている応接室に入って来る。ドンが入ってきたのだから空気が変わったはずである。フレドは椅子に腰掛けふてくされてタバコを吸っている。目の前にマイケルが立つその瞬間までドンがこの部屋に入ってきたことに気づかない。

そう。そうなのである。フレドがダメなのは気がつかないからなのだ。周りの空気が変わったことに何も感じない。そんな奴だからこそのあの体たらくなのだ、と分かると全てが腑に落ちる。ふむ。

IMDBによると、Controversy occurred during the filming. While the studio was unaware of his condition, the director, Michael Cimino, knew about it. As Cazale was evidently weak, he was forced to film his scenes first. When the studio discovered he was suffering from bone cancer, they wanted him removed from the film. His co-star and fiancé, Meryl Streep, threatened to quit if he was fired. He died shortly after filming was completed.

ジョン・カザールはゴッドファーザーPART I、II、IIIの三部作以外に「カンバセーション~盗聴」「狼たちの午後」「ディア・ハンター」にしか出演していない。ディア・ハンターの撮影中に骨髄腫であることが判明したからだ。監督のマイケル・チミノはそれを知っていた。カザールが衰弱していたのでチミノは彼のシーンを先に撮らなければならなかった。彼の病気について知ったスタジオ側は降板させようとするが、フィアンセのメリル・ストリープはもし彼を辞めさせるなら私も辞めると脅した。結果、撮影終了してまもなくカザールは亡くなった。享年42歳。

話を戻す。観たという友達に、早速PART1とPART2どっちがいいかきかれた。 私は流れの中で捉えているので、どっちがいいかという質問には、小説の第一章と第二章どちらがいいときかれても困るのと同じで答えられない。友達はPART2は最後がハッキリしないことが多いのでそれってPART3へ残していったのだろうと言った。しかし私はフレドもロスも死んでスッキリハッキリしたと思うのだが。







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サンキュウベリーマッチの変

2010-02-07 | laugh or let me die

いちごさんが言った。

「サンキュウストロベリーマッチ」

くらんべりーさんとらずべりーさんが言った。

「サンキュウクランベリーラズベリーマッチ」

インドのとある街で休む女性たちの闘い。

「産休デリーマッチ」

三球投げる間にリードを取れ!

「三球で、リー待ち」

マッチが言った。

「サンキュウベリイィ~ マッチィーでぇーす」











さぶい



日曜の朝6時からわしは何を書いてんねん
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マハラジャの社長が歌っていたのが懐かしい

2010-02-06 | music


映画「イントゥ・ザ・ワイルド」というタイトルを目にして、即座に「イントゥ・ザ・ナイト」を連想したのは私くらいではなかろうか。いんとぅ~ざぁ~なぁ~っい~おぉおぉ~♪と口ずさんでしまったのは私くらいではないだろうか。

バブル全盛期盛り場カルチャーの先陣を切っていたのがディスコ。最も有名だったのはマハラジャ。そこの成田勝社長が何を思ったのかCDを出した。しかしそれが意外なほど悪くなかった。むしろ時代とフィットしすぎていたぐらいだ。







テレビ番組の終わりに流れていた映像。1分40秒しかない。

さらにこんな映像を見つけて驚いた。






夜ヒットのような音楽番組の映像。右側に三人の女性がバックコーラスをしているのだが、向かって左はアン・ルイス、真ん中は中森明菜!右が分からない。三原じゅん子だろうか?

YouTubeが恐ろしいのは、こんなのを見つけると芋づる式に色んな映像を見てしまうからだ。いい暇つぶしになっているともいいエンターテイメントになっているとも言えるし、またそんなに簡単に手に入ってしまうとありがたみがないなーなどとも思う。

まあしかし、レトロスペクティブもたまには悪くないだろう。

VIVA80年代!





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『船に乗れ!III 合奏協奏曲』藤谷治

2010-02-05 | books
「船に乗れ!III合奏協奏曲」藤谷治 ジャイブ 2009年(webマガジンブンゲイ・ビジュアルに連載、書き下ろし)

<81頁を読んでいたら、本の右半分をギュッと右手で強く握った掴んだ。まるで大切な人を守るために。まるで自分と大切な人を守っているようにずっと強く掴んだ。ずっと掴んでいたら、120頁に差し掛かった時に気づいた。私の目はずっと潤んでいたことを。鼻も湿気を帯びていた>

深夜2時ごろに読み終わったとき、こんなことを紙切れに書いていた。翌朝テーブルに置いてあるのに気がついたので、そのままアップしてみた。キモイのか美しいのかたぶん前者だろう。


藤谷治さん自身のプロフィールを見ると、洗足高校の音楽科を卒業しているのに、大学は日大芸術の映画。もし「船に乗れ!」が自身の記録に近いとすればいつか主人公サトルはチェロをやめてしまうということになるが・・・

いやいや。相変わらず内省的でなんとも形容できないほど良かった。読み終わったとき思わず今回記事の冒頭に挙げたようなことを思い、そして書いてしまった。思うのと書くのは少し違っていて、書くというのはそれをどこか残したいからであって、それだけ感じることが多かったからだ。ブログを書くということではなく、そこら辺にあった紙に手で書いたこと。捨てるであろう紙に書くのは記録として残るブログに書くのとはまた違う。

全3巻を読んであらためて、クラシック音楽の奥深さと、そこでもがいている若者あるいは若くない者たちがいることを感じる。クラシックという道具を使いながら、サトルの3年間は描かれたわけだが、クラシックを抜きにしてもリアルで明るくない青春ものとしてかなり高い評価をしたい傑作だ。

若い頃、特に中学・高校・大学というモラトリアム期間内に、直接稼ぐということと無関係な事にどれだけ懸命に血の小便が出るまでやり尽くしたかがその後の人生に大きく影響してくると、最近すごく思う。部活動でもバンドでも何でも。結果としてインターハイでは勝てなかったとかいうことは重要ではなく、自分の出せる力、自分の使える時間、エネルギーをもうこれ以上は出せないという全て使い切った明日のジョー状態になった経験があるかどうかということ。

あの子はやればできるのよとか、ボクはやればできるんだ、ではなくて、やったか、あるいはやっているか、ただそれだけだと思う。サトルが燃え尽きた三年は後の人生にポジティブな影響を与えるに違いない。そう信じて読んではいたが、未読の方は以下は読まないで欲しいややネタバレ的な引用をする。この本を決して読むことはないであろう人はむしろ以下の引用だけでも読んで欲しい。長くて恐縮。



 楽しみもあった。恋もした。けれどそんなときでさえ、僕は自分の人生を、基本的には間違いだと思っていた。こんなはずじゃなかった。電車の中で週刊誌を読み、サービス残業でくたくたになり、酒に飲んで支店長と肩を組んで歩き、日曜日に昼過ぎまで寝るような、こんな人間になるために、生まれてきたはずなかった。もっと別な、ましな人生があったはずだ。
 自己啓発とか自己開発とかいう言葉が、サラリーマンの間で流行したことがあった。そんな類のセミナーに、勧められて参加もした。得られたのはそれまでに倍する自己嫌悪と空しさだった。現状に不満なら、満足出来る方法を見つけて、それに向かって努力すればいいと、にこにこした人が言うのを僕は聞いた。努力?僕が努力で何かを得られる人間なら、今こんなところにいやしない。努力が実らないと思い知らされたところから、今の僕は始まったんだ!けれどそれが、どんな努力だったか、何を努力したのだったかは、できるだけ思い出さないようにした。そういうものだ、それが大人になるということだと、哀愁のため息をつきながら悟ったつもりになっていた僕は、驚いたことに、まだ未熟だった。人生にはその先があった。(中略)
 船はまだ揺れているのだ。(中略)
 時間が流れていった。だが今の僕は、時の経過はひたすら人生を衰退に向かわせると嘆くような、若々しし差を持っていない。と言って、人生はこれからだとか、生きてりゃいいこともあるぜとか、そんな軽薄を口走れるほど、すくすくとも生きてこなかった。僕は何も分かっていない。何も解決させていない。あの頃と何も変わっていない。それでいい。のろのろと、しかし絶え間なく、波に揺られながら、航行は今も続いている(233頁~237頁より引用)



なんでもかんでも前のめりに牽強付会気味(?)に自分に結び付けてしまうのは私の悪いクセだが、これを読んだときに、自分のことを描写しているとしか思えなくて背筋が冷たくなった。そして暖かくなった。


「船に乗れ!」というタイトルの意味がやっと分かった。この引用の少し前に書いてある。

船に乗ろう!みな船に乗ろう!俺も船に乗る!君たちも乗ろう!さあ!






part1 合奏と協奏のレビュー
part2 独奏のレビュー





船に乗れ!〈1〉合奏と協奏
藤谷 治
ジャイブ

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船に乗れ!(2) 独奏
藤谷 治
ジャイブ

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船に乗れ! (3)
藤谷 治
ジャイブ

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不毛地帯観る人観ない人

2010-02-04 | film, drama and TV

友人Yちゃんが言った。「ドラマの不毛地帯あるじゃん。あれ職場で観てる人ほとんどいないのよー。でもこないだの女子会でさー不毛地帯の話になったら、みんな観てるのよー。なんでだろうね?」

高校の仲良かった友達同士で随分前に女子会というのを結成して月一回だかなんだか知らないが持ち回りで幹事をやって毎回違う旨い店を食べ歩いているそうだ。女子じゃねえだろ?もう?などというツッコミは厳禁である。

彼女は「職場の方が平均年齢が低い→若い者は不毛地帯のようなドラマは観ない」と言っていた。正しいリアクションかどうか分からないが、私の反応は
「そりゃさー君の高校偏差値高いじゃないのさ。知的レベルの差じゃないの?」

とかなんとか言いながら巧みに彼女にゴマをする私。そのゴマすりの瞬間、彼女はone of 職場のメンバーであるということを忘れ、one of 偏差値高い高校の卒業生 であるということしか覚えていないのだから、嬉しそうな顔をする。それはそれでいいだろう。いいのか?いいだろう。

しかしである。ふむ。若い者たちは不毛地帯を観なくて、年寄りは観るのだろうか?たぶん違うような気がする。もし年寄りがやや小難しい物語を好むのなら、電車の中でポール・ケネディでも鶴屋南北でも円朝でもハックスリーでもマルクスでもなんでも読んでいるかと思うが、私が目撃した年寄りの書物は佐伯泰英ばかりである。だからと言って不毛地帯を観ていないとかなんとか言い切るのも難しいけれど。正直、想像と偏見でしかない。

でも、若い人は小難しい物語を避け、大人たちは小難しい物語を好む、ということは全然ないように思う。三つ子の魂百までと言うけれど、不毛地帯のようなドラマは観る人は中学生のときでも、70歳になっても観るし観ない人はずっと観ない、それだけのような気がする。だから不毛地帯の低視聴率は10年後に放送された場合でも10年前に放送された場合でも、変わらないように思う。天勉也さんが「昔も良くなかった」という名言を書かれていたが、もしかすると良いのは今も昔も良くて、良くないのは今も昔も良くない。良し悪しだけじゃなくて、壮大なのも、ショッパイのもいちびっとるのも今も昔も変わらないのかも知れない。NOT諸行無常 BUT千古不易

話は変わるけど、個人的な嗜好としては、推定73歳のじいちゃんが、ハンナ・アーレントの「人間の条件」だとか、「革命について」を読んでいたり、推定68歳のばあちゃんがシモーヌ・ヴェイユの「重力と恩寵」を読んでいる姿を見たら胸がキュンとしてしまいそうである。年寄りにはそうあって欲しいと願う。

しかしですね、面白いですよ不毛地帯。私は好きでございます。私のような下賤な者が好きだというのもおかしいものですけれどもね。おほほ。では、ごきげんよう。




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光浦靖子@朝日新聞

2010-02-03 | days

朝日夕刊のマリオン情報芸能というところに哲学のコーナーがある。伊集院光が書いていたりしたこともあった。今日2月3日から始まったのが光浦靖子さん。文章がうまくておー!と思った。私自身の文章でないものをここにアップするということに何らかの躊躇を感じないわけではない。しかし、本になったりすることはないだろうから以下に紹介させて下され。


 お正月、ニューヨークに人生初の海外一人旅に行って来ました。目的は、ナンパされること。日本人の恥だと思わないで下さい。真面目に考えたんですから。
長いこと彼氏がおらず、アンビリーバボーなことに、もう17年になります。はじめは「幸せな女のどこが面白い?」などと、片意地張った職業プライドから、あえて一人でいたのですが、5年もすると彼氏の作り方が分からなくなりました。10年もすると片思いもなかなかしなくなり、15年もすると男友達もぐんと減り、接し方すら分からなくなり、そして今では・・・・・・。仕事に対する慣れと、甘えと、お年頃なホルモンバランスの崩れのせいか、現場でイライラすることが多くなり、「あのババア怖えぇ。めんどくせぇ」と異性(特に年下)から一歩引かれるようになりました。どうしようもないところにきています。
 昔のように男性とイチャイチャしたいだけじゃないんです。もう、生きていくための「自分のため」だけでは限界があると言うか、「いいや、やめちゃえ、やめちゃえ」と立てない日があるんです。「家族のため」「誰かのため」という足かせが、逆に必要なときがあるんです。切実です。
 何とかせねば。でもいい人いないし・・・・・・あ、外国人?へりくつで凝り固まった私も、異文化という名の下には手も足も出ず、逆に素直になれるのでは?
仕事で会った、旅慣れた女子アナにいいことを聞きました。ニューヨークは安全で、女一人旅でも平気だと。そしてヒールの靴をはいて、小綺麗で可愛い格好をして、地図を広げ困った顔をしていれば、必ず誰か(男性)が助けてくれると。日本人女性は海外ではもてる。もはや、ブランドと言っても過言ではないと。「ここだ!ここしかない!」
 私はNYに夢をたくしました。つづく。




以上で引用終了。どうだろうか?私は光浦さんの無様な姿を皆さんにお見せしたくてここに載せたわけじゃない。彼女の魂の叫びとそれを描写する様がなんとも心を打つのだ(いやそれはちと言いすぎだろうか)「自分のため」だけじゃなんとも前に進まないというのは必ずしも彼女だけのことじゃないだろう。私にも経験がある。時に足かせはあった方がいいのだ。うんうん。NYではなくて、ローマの方がいいんじゃないだろうかとか、都会じゃなくて田舎とか、それこそロッキー山脈を登山しているほうがより助けてもらう率は高まるとか余計なお世話なアドバイスをしたくなるくらい、彼女はプリティだ。活字の中でだけ。


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映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

2010-02-03 | film, drama and TV

ブラッド・ピット演じるベンジャミンは生まれた時赤ん坊なのにしわしわ、老衰状態でも精神的には赤ん坊。まだ若いケイト・ブランシェット演じるデイジーが12歳の頃お互いが好意を持つようになるが、ずっとすれ違いの人生。ベンジャミン49歳デイジーが43歳の時やっと結ばれる。

物語は年老いて病院のベッドで語るデイジーと娘との会話が現在進行しており、ベンジャミンの日記を娘がデイジーに読んで聞かせると、その日記に書かれた内容が映像となり、何十年も前の数奇なエピソードが蘇ってくる。

うーむ。なんと言う物語だろうか。長いが嫌いじゃない。むしろ好きだ。映画館で観ていたら尻が痛くなりそうだが。

強く思ったことは、ケイト・ブランシェットはやはり美しいということと、どんどん若返るというある意味みんなの夢を叶えたような人生を送ることは、とても悲しいのだなということ。中身と外身が同じように成熟してゆくというフツーな事が一番幸福なんだな。皺をとったり脂肪を吸引したり様々な外見改革があるけど、それは中身が幼いから仕方なくそれに見合った幼い外見に変えようという意思の表出なのかも知れない。健全なのは外が年を食っていったと同じだけ中身も成熟してナチュラルな、何の無理もしていない姿が気がついたら出来上がっていることなのかも。









ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [DVD]

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テキサスバーガー

2010-02-02 | laugh or let me die



普段は全く行かないマクードに行って来た。いやマクックと略すのが正しかっただろうか。

近頃話題沸騰中のテキサス・バーガーというのを食って来た。正確に言うとそんなものの存在は知らなかったんだが、通りかかったら個数限定で発売中だと言うので食ったのが正しかった。

周囲を見回すとほぼ全員がこれを食っている。よほど旨いのだろうかと期待大にして食ってみたところ、確かに旨い。揚げたタマネギもいいが、ソースが好みだ。

旨かったので、友人Sにメールした。

マックでよー あまりにも旨いバーガー喰ったから お前のところにドス持って乱入してやる!









敵刺す








それ以降何の音沙汰もない。


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映画『イントゥ・ザ・ワイルド』

2010-02-01 | film, drama and TV

冒頭バイロン卿の詩の引用がある。思わずテレビの画面を写してしまった。







エモリー大学を優秀な成績で卒業したクリス。卒業式に来てくれた両親の前でついにキレてしまった。親が、周囲が信じる物質主義にどうしても馴染めないのだ。貯金2万ドルは寄付し運転免許証も社会保障カードも捨て車も捨て西へ北へアラスカをめざす。ただそれだけの話。

いやいやいや。これが実話だとは驚く。彼がアラスカに到着するまでどのように旅をして来たかという過去と、アラスカに棄てられたバスで一人荒野でどう過ごすかという現在が交互に描かれる。2008年に行ったアラスカはクリスが行ったような大変な場所ではなかったが、それでもしかしちょっと外れた所に行けば死が近くにある。そう言えば旅行記は未完だった。アラスカで歩いて氷河を

より高価なモノを得ようとする物質文明に反対しようとするクリスの姿勢に激しく強い共感を覚える。その共感がないと単に頭がおかしい人の話でしかない。そんな汚い貧しい彼なのに、憧れを持って見てしまうのはなぜだろう。我々が余計なモノを持ちすぎているからだろうか。

金持ちになろうとすることに反対するとすれば、クリスは何を信じて生きているのだろうか。彼自身それを探しながら旅していく。冒頭のバイロン卿の詩のように、自然こそが彼の友達なのだろうか。必ずしもそれが答ではない。

棄てられたバスの中で読むトルストイ。その中でpeopleという単語を目にして彼は動揺する。極端なまでに孤独な生活は人の心を蝕んでゆく。しかし極端なまでに人と近い生活もまた人の心を蝕んでゆく。死にかけている彼が本にhappiness only real when shared(誰かと共有できるときだけが真の幸福)と書くシーンがあってそれが何とも響く。YouTubeで見つけた動画を貼っておく。







冒頭の詩について調べたら原典はChilde Harold's Pilgrimageの中のThe Dark, Blue Seaという部分らしい。いくらなんでも著作権を気にしなくてもよいであろうから全文貼り付ける。


There is a pleasure in the pathless woods,
There is a rapture on the lonely shore,
There is society where none intrudes,
By the deep sea, and music in its roar:
I love not man the less, but nature more,
From these our interviews, in which I steal
From all I may be, or have been before,
To mingle with the universe, and feel
What I can ne'er express, yet cannot all conceal.-

Roll on, thou deep and dark blue ocean-roll!
Ten thousand fleets sweep over thee in vain;
Man marks the earth with ruin-his control
Stops with the shore;-upon the watery plain
The wrecks are all thy deed, nor doth remain
A shadow of man's ravage, save his own,
When for a moment, like a drop of rain,
He sinks into thy depths with bubbling groan,
Without a grave, unknell'd, uncoffin'd, and unknown.

His steps are not upon thy paths-thy fields
Are not a spoil for him-thou dost arise
And shake him from thee; the vile strength he wields
For earth's destruction thou dost all despise,
Spurning him from thy bosom to the skies,
And send'st him, shivering in thy playful spray,
And howling, to his gods, where haply lies
His petty hope in some near port or bay,
And dashest him again to earth: there let him lay.

The armaments which thunderstrike the walls
Of rock-built cities, bidding nations quake,
And monarchs tremble in their capitals,
The oak leviathans, whose huge ribs make
Their clay creator the vain title take
Of lord of thee, and arbiter of war;
These are thy toys, and, as the snowy flake,
They melt into thy yeast of waves, which mar
Alike the armada's pride, or spoils of Trafalgar.

Thy shores are empires, changed in all save thee-
Assyria, Greece, Rome, Carthage, what are they?
Thy waters washed them power while they were free,
And many a tyrant since: their shores obey


The stranger, slave or savage; their decay
Has dried up realms to deserts:-not so thou,
Unchangeable, save to thy wild waves' play-
Time writes no wrinkle on thine azure brow-
Such as creation's dawn beheld, thou rollest now.

Thou glorious mirror, where the Almighty's form
Glasses itself in tempests; in all time
Calm or convulsed-in breeze, or gale, or storm,
Icing the pole, or in the torrid clime
Dark-heaving; boundless, endless and sublime-
The image of eternity-the throne
Of the invisible; even from out thy slime
The monsters of the deep are made; each zone
Obeys thee; thou goest forth, dread, fathomless, alone.

And I have loved thee, ocean! And my joy
Of youthful sports was on thy breast to be
Borne, like thy bubbles, onward: from a boy
I wanton'd with thy breakers-they to me
Were a delight; and if the freshening sea
Made them a terror-'twas a pleasing fear,
For I was as it were a child of thee,
And trusted to thy billows far and near,
And laid my hand upon thy mane - as I do here.


以上。バイロンの詩をあちこち探していたら結構いいものが見つかったのでその内まとめて読もうか。

ネオンのある都会にしか住みたくないと思っていたはずなのに、詩とミュージカルは大嫌いだったはずなのに、人とはなんとうつろいやすきものなのだろうか。







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