頭の中は魑魅魍魎

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『順列都市』グレッグ・イーガンが未来を駆け抜ける

2010-02-10 | books

「順列都市」(上下)グレッグ・イーガン 早川書房 1999年
PERMUTATION CITY, Greg Eagan 1994

2000年代最高のSF作家と言われるグレッグ・イーガンの初期長篇である。

2500年、人間をスキャンして、デジタルのデータとして「コピー」を作ることが可能になった。自分のコピーと自分そのものはどう共存在し得るのか、自分が死んだ後、コピーが生き続けるとはどういうことなのか。分子生物学、量子力学、人工生命、科学的な根拠を元に縦横無尽に駆け抜けるイーガンの世界。

いやいやいや。これはスゴイぞ。冒頭いきなり巧い。

もし我々が、ヴァーチャルな存在であって、コンピュータープログラム上に存在するだけの存在であると分かったらあなたはどうする?

と胸躍らせて読んでいたのに、下巻で急激に難しくなったので再読した。つまり読むのにすごく時間がかかった。猛烈に読みにくい。カラマーゾフの兄弟の新訳よりリーダリビリティが低い。フロイトの精神分析入門より読みにくい。資本論と同じくらいかと思う。しかし噛み締めているうちに段々と味が分かってきた。

そもそもミステリ読みであってSF読みではない私がとても良く出来たレビューを書こうとするのはおこがましいし(ということを言い訳にして)実は巧く書けないのだ。すまぬ。翻訳した山岸真さんのあとがきを読むのを薦める。大森望さんと並んで、この人の書く訳者あとがきは実に巧いので、あとがきを読むとつい買ってしまうのだ。

順列都市とはPermutation Cityの直訳である。本文に出てくる重要な理論「塵理論」は読んでいて、それって真実かもと思ったのにグレッグ・イーガン自身はそういうことはないだろうとオフィシャルサイトに書いている。おいおい。それはないだろう。

それとですよ、

私たちって、もしかしてコピーかも知れないよ!


以下にやや脱線しつつ。

グレッグ・イーガン自身が詳しいサイトを立ち上げている Greg Egan's Home Page

Greg Eaganが参考に挙げていたSimulation, Consciousness, Existence
Hans Moravec, 1998
によれば、

http://www.frc.ri.cmu.edu/~hpm/project.archive/general.articles/1998/SimConEx.98.html

A possible world is as real, and only as real, as conscious observers, especially inside the world, think it is.
(拙訳:世界というものはさーリアルなんだけど、それは我々が見ている程度にリアルって事に過ぎないんだよね。特に内部世界では)

こんな論文は普段読まないので実に刺激的。興味のある方はぜひ読まれたし。この論文の最後にシェークスピアのハムレットからの引用がある。これを読むと、なんだか全てがすとーんと収まった。引用の引用をして今回のレビューを終わりにする。

To die, to sleep;
To sleep: perchance to dream: ay, there's the rub;
For in that sleep of death what dreams may come
When we have shuffled off this mortal coil,
Must give us pause: there's the respect
That makes calamity of so long life;
For who would bear the whips and scorns of time,
The oppressor's wrong, the proud man's contumely,
The pangs of despised love, the law's delay,
The insolence of office and the spurns
That patient merit of the unworthy takes,
When he himself might his quietus make
With a bare bodkin? who would fardels bear,
To grunt and sweat under a weary life,
But that the dread of something after death,
The undiscover'd country from whose bourn
No traveller returns, puzzles the will
And makes us rather bear those ills we have
Than fly to others that we know not of?
Thus conscience does make cowards of us all;
And thus the native hue of resolution
Is sicklied o'er with the pale cast of thought,
And enterprises of great pith and moment
With this regard their currents turn awry,
And lose the name of action.








順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房

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順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房

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