はつ冬の宇治を歩す初日の最終目的地、宇治川右岸にある老舗旅館“亀石楼”へ。辺りはもうすっかり暗くなっていた。
宇治川の清流にたたずむ閑静な旅館とある。確かに。歴史を繙くと、明治二十四年に建てられ、昭和十年には松下幸之助氏の別荘となり、昭和三十年頃には松下電器産業の保養・研修施設として利用されてきたとあった。昭和六十三年から現在の会社が旅館として経営されている。
レトロな木造建築。そこに佇むとやはり心が落ち着くというか癒される感じがする。久しぶりに集まっての会食である。
こんなお料理は懐かしい。なんか昭和の頃の社員旅行を思い出してしまった。私が入社した昭和五十年半ば、毎年社員旅行があった。新人は必ず芸を披露しなければならなかった。それから時代は進み、若い社員から社員旅行に拒絶反応が出たりして、福利厚生は個々の旅行に補助をするというシステムになった。そしてバブルも弾けてそれも廃止になる。しかし、最近またやはり社員旅行がいいと言う機運もあるようだ。歴史は繰り返すのだろう。私はこういう皆が集まって会食するということは良いと思う。と言いながら私も若い頃は拒否派であった。しかし行けば行ったで楽しかったのも事実である。
取り立ててグルメ好きを堪能させるということではないが、昔ながらの旅館の宴会料理はどれも美味しかった。デザートまで出た。それにしても品数が多いのには驚く。お腹が一杯になってしまった。むろん少ないよりははるかに良心的である。冒頭、宇治らしく乾杯はお茶というのも粋だった。その後お酒も進み、宇治の夜はこうして更けていったのでありました。
一盞(いっさん)に傾(かぶ)く宇治の夜冬ぬくし
◇亀石楼 京都府宇治市宇治紅斉29