映画やアニメの撮影場所を巡る旅が人気である。「聖地巡礼」と言うそうな。最近は住まいのすぐ近くでもドラマの撮影が行われて、今それが放映されている。カメラを通して我が街を見るとまた違った印象になるから不思議である。それはつまり、人間は身近なものを如何に客観的に見ることが難しいかを物語っている。俳句なんかでも自分の作品を客観的に見て自選をすることが如何に難しいかと同じ理屈だ。
さて、芒の名所である砥峰高原はまた映画のロケ地としても有名である。メイン写真の石碑は「ノルウェイの森」の撮影地点に記念に建てられたものだ。交流館の目の前の木製デッキには、映画「ノルウェイの森」(2010年)、大河ドラマ「平清盛」(2012年)、大河ドラマ「軍師官兵衛」(2013年)、映画「燃えよ剣」(2019年)のバナーが設置されていて記念撮影場所になっている。ちょうど結婚する二人の撮影が行われていた。最近はこういうマリッジ撮影がブームである。
砥峰高原は芒もあるが「ノルウェイの森」の撮影場所でもあったのでぜひ訪れてみたかった。あの小説はベストセラーではあるが私にとってもとても鮮烈であった。同窓の先輩という村上春樹さんだから作品はほとんど読んでいるが、そんな作品群でもやはり「ノルウェイの森」が私のベスト作品である。映画が封切りされたときはすぐに観たが正直よく解らなかった。小説からの期待値が高過ぎたのかもしれない。いつも思うのだが、ベストセラー作品は小説を読んでから映画を見るより、映画を見てから小説を読んだ方がうまくソフトランディングできるのかなと思う。
映画ではないがドラマの「大地の子」なんかは小説とドラマでは印象が全然違ったし、どだい小説を映画にすべて求めるのはナンセンスというもの。それは解ってはいるのだが。村上作品で言えば、「ドライブマイカー」はダントツに映画の方がよかったと思う。小説は短編だしもっと淡泊だったように思う。松本清張の「砂の器」はどちらも最高であった。好きな作家トーマス・ハーディの「テス」も忘れらない映画だ。
小説も好きだし映画も好きだ。ということは両者をつなぐものは脚本ということになる。いい脚本の映画はやはりいいということだ。これからも積極的にはいかないが、時間と機会があれば聖地巡礼をふらっとときどき行ってみたい。ふらっと思いついていくのがいいのである。