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三月の読書 黄色い家

2024年03月30日 | slow culture

川上美映子さんの「黄色い家」を読む。ジャンルで言えば“ノワール”小説。つまり暗黒や犯罪を題材とした小説である。

一言で言えば、花という若い女性がカード犯罪に手を染めてゆく物語だ。Amazonのブックストアにはこう記されている。それをそのまま引用する。

“十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。”

どんどん惹きこまれて読んでゆくのであるが、主人公の花をはじめ、みんなどこか憎めないキャラなのである。とことんこいつは悪だなという、そんなやるせない気持ちを起こさせない小説なのである。ここら辺りに著者の薄幸な人への温もりと眼差しを感じるのだ。

ノワールの世界では偽造カードにも超優良カードと言うのがあるそうだ。実際のキャッシュカード情報をスキミングか何かして偽造キャッシュカードを作り、大都会のCDなどで出し子が引き出す。引き出しても当の本人は引き出されたことを気付かないという。だからそんなカードを超優良カードと称するのだそうだ。

つまり世の中には普通口座に何億、何千万と入れている層がいて、高齢者などの一部の人で細かいことに頓着しないという人間が一定層居るらしい。そんな層はとてつもない大金でない限り、いちいち通帳の項目なんかチェックしないから、偽造カードでちょこちょこ引き出されても盗まれていると気付かないのだと言う。まあ言えば犯罪者たちはそのバクを突くということか。

なるほどなあと思う。犯罪にも知見がどんどん集積されていっているのだ。世の中は善にばかりに知見が活かされるとは限らない。巨悪が富を独占するための知の集積。つまり「出し子」なんてどうでもいい駒の一つということか。そう言えばちょっと違うかもしれないが、今話題になっている日本人大リーガーO氏の口座も、ふとそんな類の一つになり得るかもしれないと思ってしまった。今回の何億となれば違うかもしれないが、もし生活口座として支出を任されていれば、何十万位くすねられてもきっと解らないかもしれない。そんなことまできっちり管理していれば野球に全集中できないだろう。

余談は別として、それにしても川上美映子さんという作家は凄い人だ。大阪の高校卒業後は、大阪・新地でアルバイトもしていたと言う。歌手としてデビューもし、芥川賞作家でもあり、詩人としても中原中也賞を受賞している。その他キネマ旬報新人女優賞も。谷崎潤一郎賞、渡辺淳一賞など数々の文学賞も総ナメである。

世の中にはこういう方が時として出現する。ある意味ギフテッドだ。何百万、何千万分の一かもしれないが。伝統俳句の世界にもこんな若い超新星が出てこないか?

◇黄色い家 川上美映子 2023年2月初版 中央公論新社

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