とある冬の或る日
飲み屋の女性と飯を食う。
八丁堀三越前で待ち合わせ。
三越前は結構好きである。
午後六時すぎ彼女はやってきた。
いつもの和服姿だ。
道行にショール姿のいでたち。
やはり和服の女性はいい。
歩き始めてすぐ時雨れてきた。
ついてないなあ。
着物姿に雨はつらい。
傘はさすほどではないが…。
「急げる?」
歩き慣れているのだろう。
彼女は案外すたすたとついてきた。
早足で薬研堀の瀬戸内割烹へ。
さて何を頼もうか。
お互い日本酒好きだから話がはやい。
彼女お気に入りの銘柄
賀茂鶴の熱燗で早速一献。
差しつ差されつ…。やはり
この歳になるとこういうのがいい。
酒を酌み交わしながら
いろいろな話をとりとめもなくする。
あれあれ。いけんなあ。
もう時間になってしもうた。
週末はなかなかやって来んのに
こういう楽しい時間って奴は
過ぎるのがあっと言う間じゃ。
出勤の時間だ。
「後で行くから。」
広島は案外狭い。
局の連中にでもあったら
格好のネタにされてしまう。
しばし大将と話をして時間差攻撃で。
「久保田は飲みますか?」
お店では渡せないからと
久保田を一本もらう。
気くばりができる女(ひと)だなあ。
もちろん久保田は好きだよ。
アリガト。遠慮なくいただくよ。
いただいた久保田千寿…。
呑めば思い出す。
あれから店を辞めた彼女は
どこでどうしているのやら。
この酒は、ともすると
すすっと呑み過ぎてしまう。
いい酒もいい女(ひと)も
過ぎると深みにはまるよ。
そして
いい酒も、いい女も、いい夢も
消えてなくなるのは速いなあ。
どうしてだろう?
■久保田 千寿 特別本醸造
朝日酒造㈱ +6 2446円
吟醸規格の特別本醸造酒。
飲み口の良い
スッキリとした辛口のお酒です。
上品でやさしい香味は
やすらぎを誘います。(朝日酒造)