A Day in The Life

主に映画、ゲーム、同人誌の感想などをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここはいいトシしたおっさんのブログ。

塚口サンサン劇場「サルカール-1票の革命-」見てきました!

2023-06-13 23:31:48 | 映画感想
 サンサン劇場では続々注目作品が上映発表されており、もはや自分の数が足りません。助けて。
 そういうわけでもうすぐ木曜日、上映スケジュールが更新される日が近づいてきたので急いで見てきました。
 今回見てきたのはこれ!
 
 
 「マスター 先生が来る!」のヴィジャイ氏の主演映画ということで注目を集めていたこの作品、漏れ聞こえる評判がやはりというべきか非常に高いので上映期間が終わる前に見ておかねばと思い見てきました。
 いやー……本作を見た後、「これは感想レポは4時間コースだ」と確信しました。それほど重厚な作品でしたね。
 それでは感想を、頭の中をなんとかかんとか整理しながら書いていきましょう。
 
 本作はまず、映画としての積載可能重量が非常に大きい。言葉を変えれば荷台がすごく丈夫と言えるでしょう。何らかの形で多くの創作作品に触れてきた人、中でも自分で作品を作った人にはよく分かると思いますが、作品というものには限界重量があります。あれもこれもと要素を増やしていくと要素の重量に作品が耐えられず崩壊してしまうもの。だからこそ作品を作る際には要素の取捨選択が重要になるわけですが、本作は162分という長尺の上映時間の中に政治、投票、貧富格差、アクション、サスペンス、頭脳戦といった実にたくさんの要素を積み込んで作品構造が崩壊しないだけの作品強度を持っています。
 「マスター 先生が来る!」のときも思いましたが、本作は普通の映画ならそこまでで一本終わる内容が冒頭で終わってしまうので、フリーザ様があと2回の変身を残していることを知った悟空の気分が味わえます。
 本作のストーリーの発端は、主人公である大富豪・スンダルが、投票のためにチェンナイに一時帰国するところから始まります。自分の分の投票が何者かによってすでに済ませられていたことを知ったスンダルは、再投票の権利を勝ち取るために行動を起こします。
 ……というのがあらすじなんですが、多くの人はこのあらすじを読んだら、本作はスンダルが自分の再投票の権利を勝ち取るまでのお話だと思うでしょう。実際わたくし人形使いもそう思っていました。「マスター 先生が来る!」のときも「この話は型破りな先生が腐敗した少年院を改革する話なんだな」と思ってたらそのパートは冒頭で早々に終わってしまいましたが、本作もまた同じくスンダルが再投票権を勝ち取るまでの話だと思ってたら、そのパートは冒頭で早々に終わってしまいました。
 このことがどういうことかというと、スンダルひとりが再投票権を勝ち取っただけでは物語は終わらない=インドの政治的腐敗はそれだけでは終わらないほどの根深いものだったということにほかなりません。
 インドでは不正投票がまかり通っており、政党が人々、特に貧民層を買収して票を操作することが当たり前に行われています。その票数はなんと数十万人分。そのことを知ったスンダルは、政治的腐敗を正すために長い戦いに身を投じることになります。
 このように本作は、不正投票に端を発するスンダルの政治的闘争がメインとなるんですが、こうした作品はともすれば議論シーンが延々と続いたり専門用語のやり取りが増えて退屈・難解なものになりがち。しかし本作は要所要所でヴィジャイ氏の超絶かっこいいアクションが楽しめるので、アクション部分も非常に見応えがあり退屈しません。
 特にラストバトルとも言える位置づけの、進退窮まった対抗勢力のボスが繰り出してきた暴漢との戦いにおけるカーアクションは、もはやインド映画のお約束となったそうはならんやろバトル(なんだそりゃ)満載でアクション映画見たい欲がガッツリ満たされました。
 また、本作では政治問題というめんどくさい難解なテーマがメインとなっていますが、これも非常にわかりやすい。どうわかりやすいかと言うと、ダイレクトに言われるんですよ。「投票という権利と機会を軽んじていると、お前の国もこうなるぞ」と。
 スンダルの言う、「当選した政治家は5年は力を持つ。しかし俺たちが力を持つのは1日だけだ」というセリフに本作のすべてが、さらに言うなら政治と投票のすべてが詰まっていると言っても過言ではないでしょう。選挙の日が近づいてくると投票の大切さをアピールする文言がそこら中に溢れますが、これほどシンプルで心に直接届く言葉がかつてあったでしょうか。twitterでも見かけた感想ですが、まさに義務教育期間中にこれ見せろと思います。ともすれば説教臭く、さらに言うなら他人事度合いが大きくなりがち、理想論や美辞麗句で終わってしまいがちな政治や投票といったテーマを鋭く無駄なく研ぎ上げているからこそ、本作はダイレクトに見るものに投票の大切さを深く突き刺して来ると感じました。
 現実でも投票や政治に関しては、「自分一人がどうこうしたところで……」「他の誰かがどうにかしてくれるだろ」と思ってしまいがちなものです。要は危急性を感じないもの。しかし本作では、極めて具体的なビジュアルを見せることでスンダルに、そして視聴者に政治改革の危急性を突きつけます。
 貧困の末に借金苦で家族もろとも焼身自殺を図った父親。その中で全身に火傷を負いつつ唯一生き残った少女。
 事故で両手や両足を失った人々。伝染病で明日をもしれぬ状況にある少年。
 本作のレーティングはPG12となっており、かなりショッキングな映像があります。しかし、それらのショッキングな映像はアクションシーンにおけるゴア描写ではなく、すべてこうした「貧困の実態」としてのビジュアルに費やされています。
 その中でも特にショックを受けたのが前述の焼身自殺を図った家族のシーンでした。父親が自ら子供と妻にガソリンをかけて火をつけるシーンは、ショックの一言では済まされません。しかもこうした出来事は、作中では、そして現実のインド社会でも「ありふれた出来事」として描写されているのにこの作品の伝えたかったことを感じる思いでした。
 また、かなり直接的なグロ描写として、冒頭で悪徳政治家のスキャンダルの情報を掴むも捕らえられて殺されてしまった新聞記者の腐乱死体がラストで悪徳政治家の悪事の決定的な証拠として映し出されるシーンがあります。この腐乱死体、ただ単に脈絡なく挿入されたグロ画像ってわけではもちろんないでしょう。あれはまさに「インド社会の政治的腐敗のメタファー」だと解釈しました。本作はこうした形でもわかりやすく政治的腐敗というものがどういうことかを「映画」というジャンルが持つ力を総動員して見せつけてくれます。
 しかし、本作は決して政治的メッセージ性のみを前面に出した説教臭い作品にはなっておらず、単純に政治的闘争を描いた作品としても非常にレベルの高いものとなっています。俗に「面白い作品には魅力的な悪役がいる」と言われますが、本作でスンダルと対立する悪徳政治家一派がこれまた魅力的、というか手強い。
 その中でもブレイン的存在として狡猾に立ち回る政治家の娘が非常に手強い。悪徳政治家本人もかなり狡猾ですがこの娘がそれに輪をかけて優秀。あの手この手でスンダルを陥れようとするんですが、その手段が後半になるにつれてどんどんエスカレートしていくのがこわい。
 手下にスンダルの捜索や殺害を命じてそれが敵わないと見るや、今度は自らが事故にあうことで証拠物件を火事場泥棒に盗ませたり、最終的にはスンダルの事務所に自ら乗り込んできたりとまさに「女傑」といった感じ。これもまたインド映画で見てきた「強い女性」の係累でしょうかね。
 また本作は、投票開示日というリミットがある中で権謀術数の頭脳戦が繰り広げられるわけですが、SNSの存在があるのでリアルタイムで状況が二転三転、開示日当日まで状況が変わり続けるという緊迫の展開が楽しめます。この展開の読めなさはまさにSNSあってこそのもので、実に先進的だと言えるでしょう。
 このように本作は、政治的メッセージとエンターテイメントが高レベルで両立した非常に優れた作品でした。そしてなにより、「1票の革命」のタイトル通り投票という行為の重要さ、そしてそれを軽んじた先にある世界がどのようなものかをストレートに突きつけてくれる作品だったと思います。いやほんと、この作品は選挙期間中と言わず、義務教育で見せるべきものだと思いますよマジで。
 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第20回博麗神社例大祭戦利品... | トップ | 第20回博麗神社例大祭戦利品... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画感想」カテゴリの最新記事