A Day in The Life

主に映画、ゲーム、同人誌の感想などをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここはいいトシしたおっさんのブログ。

大阪ステーションシティシネマ「ベイビーわるきゅーれナイスデイズ」見てきました!

2024-10-03 23:47:43 | 映画感想
 今日は生憎の天気となりましたが事前に天気をまったく調べてなかったので雨の中映画を見に行くことになってしまいました。まあ場所が大阪ステーションシティシネマだったのでそんなに濡れずに済みましたが。
 さて、今回見てきたのはこれ!
 
 
 スピーディかつパワフルなアクションとちさと&まひろのコンビのゆるい日常で人気を博した阪元裕吾監督による殺し屋ムービー「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの第3弾。今回は宮崎が舞台だ!
 殺し屋協会に所属する二人組の殺し屋ちさととまひろは、宮関へ出張中。無事ミッションもこなしすっかりバカンス気分のふたりでしたが、ターゲットがいる宮崎県庁でトラブル発生。ターゲットを発見したところで協会に所属していない野良の殺し屋・冬村かえでと出くわします。
 150人殺しを目指す怪物的な強さの冬村に苦戦したふたりは、とうとうターゲットを取り逃がしてしまいます。ちさと&まひろコンビは、その尻拭いのために派遣されてきた地元の殺し屋・入鹿みなみと七瀬のふたりとチームとなって冬村とターゲットを追うことになるのですが……。
 
 まずはアクションについて言及せねばなりますまい。もはや説明不要とは思いますがやはり書かなくては。
 本作のアクションの何がすごいかって、こないだの「侍タイムスリッパー」と同じくCGやワイヤーアクションに頼らない「生身のアクション」である点。例えばキャラが吹っ飛んでコンクリ壁を何枚も突き破って……というのは「凄まじい力」は感じられるものの「現実的な痛み」はあんまり感じないもの。
 しかるに本作のアクションはどれもこれも痛そうで痛そうで生々しい。パンチ1発で相手は都合よく倒れてくれないので何発も何発も打ち込むし、ナイフでも1回刺して終わりじゃなく何回も刺す。痛い痛い痛い。フィクションの世界、ことアクション映画の世界では人間はぽんぽん死ぬものですが、本作を見てると人間を殺し切るのって難しいんだな……と思わされます。
 そしてこのアクションの密度がまたすごい。銃撃戦に格闘にナイフコンバットとさまざまな種類のアクションが楽しめるまさにアクションの幕の内弁当といった感じ。今回は1対1の戦い以外にも農協を装った殺し屋組織「ファーム」vs主人公側4人チームの集団vs集団のバトルの割合も多かったのが良かったですね。
 そして本作のアクションのすごさのひとつに、「アクションの種類と目的がはっきりわかる」という点があると思います。どういうことかと言うと、あれだけ矢継ぎ早のアクションを繰り広げていながら「相手にダメージを与えるための攻撃」と「相手の注意をそらすための攻撃」と「相手のバランスを崩すための攻撃」と「相手との間合いを離すための攻撃」が見てて全部わかるんですよ。
 わたくし人形使いは格闘技に関しては男塾と聖闘士星矢の知識しかありませんが、それでも見てて今の攻撃が何を意図した攻撃なのかがはっきり分かるんです。そしてバトルシーンでは余計なセリフもない。本作におけるバトルシーンは、寡黙にして雄弁なバトルシーンと言えるでしょう。
 
 キャラクターもまた魅力的。ちさととまひろのコンビはもちろんのこと、新キャラの入鹿みなみと七瀬がまたいいキャラしてる。
 まず大谷主水氏演じる七瀬の宮崎弁丸出しの喋り方がたまらん。実はわたくし人形使いは宮崎県出身なんですが、久しぶりにこんなネイティブな宮崎弁を聞きました。というかこれ他県の人が見てて何言ってるかわかったんだろうか。「てげてげ」とか。ちなみに「てげてげ」とは「適当、いい加減」といった意味です。
 そして今回の新キャラの中でツボったのがやはり元AKB48の前田敦子氏演じる入鹿みなみですよ。イヤミなお局的キャラでちさととのコマの上に「!?」が表示されてそうなピキピキなやり取りでハラハラさせつつも笑わせてくれます。
 そして中盤での和解。「最初は対立してたふたりがピンチを救われたことで和解する」というのはお約束中のお約束ですが、それをイヤミなく奇をてらうこともなく真正面から描いてるのが清々しい。そこから終盤の集団戦にもつれ込んで戦うことでチグハグだった4人がしっかりチームとなったことがアクションで示されてて好き。この「肝心なことほどセリフではなくアクションで示す」というのが良いんだよな。
 また、この「反目していた相手との和解」には自己開示がセットになっているのもお約束なわけですが、その自己開示の中身というのが「中学の頃に名探偵コ◯ンの灰◯哀にあこがれてクールキャラを気取ってたらいつの間にかそのままキャラが固定されて友達がいないままこのトシになってしまった」という……。
 本作は「殺し屋協会に所属する殺し屋の日常」というトンデモをテーマにした作品なんですが、なんか変なところでこういう現実との地続き感を出してくるので笑えます。そして入鹿さん、ミッション完了後の打ち上げで酔った勢いでガチオタっぷりを遺憾なく発揮してますが、ちさととまひろとは世代差があって絡まれてるちさとが全然言ってることがわかってないのがあまりにも辛すぎる……。
 酔った勢いでオタ語りの時点でたいがいですが、世代差に気がついてないのが見てて泣きそうでした。前段で本作のアクションを「痛そうで痛そうで生々しい」と評しましたが、見ててもっともダメージが入ったのはここだったかもしれません……。ううっ脇腹が……。
 
 辛いと言えば本作における最強の敵、冬村かえでですよ。あまりにも孤独な男。
 本作の主人公であるちさととまひろは二人組。それに対して冬村は常にたったひとり。びっしりと書き込まれた彼の日記帳は、本来なら誰かに聞いてほしかったであろう彼の言葉の成れの果てだったように思います。本作ではちさととまひろをはじめとする主人公側、そして殺し屋組織「ファーム」が集団であることが、ことさらに冬村の孤独を際立てていると感じました。
 そも、1作目2作目でちさととまひろ、特にまひろは殺し屋なんていう因果な商売を選ばざるを得なかった社会不適合者として描写されてきました。また、同じ阪元裕吾監督作品で同じく殺し屋をテーマとした作品である「グリーンバレット」でも、プロの殺し屋を目指して訓練を行う少女たちは誰もが生きづらさを抱えていました。「最強殺し屋伝説国岡」でもそうでした。坂元監督の描く一連の殺し屋作品は、一貫して「社会に適合できなかった人々がそれでも同じ苦しみと生きづらさを抱えつつ懸命に生きる姿」を描いていると感じています。
 しかるに冬村には苦しみを分かち合う仲間がいない。これは「2」の敵であったゆうりとまことが二人組かつ兄弟であったことと非常に対照的です。もぬけのからになっていた彼の潜伏先の私室、あの己を鼓舞するメッセージが悲痛なまでに大量に貼り付けられたあの部屋こそ彼の心の内そのものなんですよね、きっと。
 冬村は敵であってもちさとやまひろとは例えば「恋人の敵」といったような個人的な因縁はありません。因縁がないということはつながりがないということでもあります。ひたすら孤独なんですよね冬村は。
 そんな孤独な男が唯一社会とつながりを持てたのが殺し屋家業。アルバイトをしようとしたりお役所手続きに頭を悩ませたりといったように、うまく行かないとは言え社会とのつながりを持とうとしているちさととまひろに対し、彼はこの「殺す」という手段を持ってしか外部と関われなくなっています。以前書いた「2」の感想で、「本作における殺し合いは一種のコミュニケーションである」と書いた覚えがありますが、冬村にとって殺しは手段ではなく目的でもなく、唯一自分が孤独でなくなれる方法だったのかもしれません。自分一人では「殺し」はできないのですから。
 こう書くとこの冬村は殺人狂のように思われますが、(意外なことに)本作、ひいては本シリーズでは、「殺しに快楽を見出しているから殺し屋をやっている」という人物はおそらく一人もいません。だれもが「それしかなかったから」という理由でやっているんですね。
 冬村は150人を殺すことを目的としていますが、じゃあなんのために?というと別になんのためってことはありません。大金が手に入るわけでもなければプロの殺し屋にランクアップできるわけでもなく組織のトップに立てるわけでもない。彼にとってこの150人殺しは、ただ単に無聊を慰めるためのものに過ぎません。
 しかし彼はその殺しの果てに、ちさととまひろと戦うことでわずかに心を通わせる相手を得られたのだと思います。おそらく彼の実力を持ってすれば、大抵の敵はあっさり、つまりコミュニケーションが成立するまでもなく殺せたことでしょう。しかしちさととまひろだけは違った。
 特にまひろとは冒頭での戦いとラストバトルとで、それぞれハンカチを相手に差し出すという行動を立場を変えて繰り返しています。これが上手いんだよな。このシークエンスの繰り返しで、まひろと冬村とのあいだの心の交流、葛藤と逡巡が伝わってきました。そして最後の、ハンカチと拳銃どちらを選ぶかという選択。
 先日の「侍タイムスリッパー」の感想で、「優れたバトルシーンは単なる戦闘ではなくコミュニケーションである」といったようなことを書きましたが、本作ひいては本シリーズに登場する殺し屋たちは、誰も彼もが「殺し合う」ということでしかコミュニケーションができない不器用な人々なのだなあと思います。
 本作は「最終的に相手を殺す」というところから逃げません。しかしながらそれは恨みや憎しみから導き出された結果ではありません。「仕事だから」というのももちろんあるでしょうが、同じ生きづらさを抱えた相手に対する一種のけじめというか敬意なんじゃないでしょうかね。
 
 いやー回を増すごとにアクションが凄まじいことになっていきますね本作。これだけのアクションをやってる邦画ってまずないので坂元監督はこれからもどんどんアクション映画を撮って頂きたい。そしてTVドラマの「ベイビーわるきゅーれエブリデイ」も見なくては。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする