かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

14. 旧暦2月14日午前0時 再会

2008-03-20 08:28:58 | 麗夢小説『悪夢の純情』
 座禅を組みながら、円光はどうも落ちつかない気分を鎮める事が出来なかった。原因ははっきりしている。目の前で手持ちぶさたに子猫や子犬とじゃれあっている少女のせいである。本来ならここにもう一人邪魔者がいて、円光は注意の大半をそちらに割かねばならないのだが、部屋の隅の黒尽くめの姿が外に消えてもう一時間はたった事だろう。その間円光は余った注意の振り向け先を考えあぐね、完全に持て余していたのである。
「麗夢殿」
「何? 円光さん」
「そろそろ夜もふけって参った様子。拙僧が起きています故、一眠りされてはいかが」
「そうねえ」
 麗夢は気乗り薄で、ちらりと自分のウエストを見た。
「でも、食べては寝る、の繰り返しばっかりでしょ?」
「ええ・・・」
「それもちょっと困るのよねえ」
「はあ」
 円光は、麗夢が何を言いたいのか判らないので返す言葉に窮した。そんな円光をじっと見つめた麗夢は、突然ため息をついて円光を慌てさせた。
「ど、どうしたんです? どこか具合でも悪いんですか?」
「具合ねえ・・・」
 麗夢は自分のおなかをさすると、円光に言った。
「円光さんはいいわね」
「何が、です?」
「こんな自堕落な生活してるのに、ちっとも太らないじゃない」
 それに比べて、と麗夢は人差し指で自分のおなかを軽く突き、もう一度、はあと溜息をついて顔を伏せた。
「そ、そんな! 麗夢殿だってちっとも変わってないですよ!」
「いいわよ、そんな見えすいたなぐさめしてくれなくても」
 麗夢は顔を伏せたまま突き放すように円光に言った。思いも寄らぬ展開に、円光はすっかり動転した。
「いいえ! 拙僧は少しばかりふっくらされていても、一向に構いませんよ」
 だが、慌てて口走った瞬間、円光は世にも恐ろしい光景を見る事になった。麗夢が突然顔を上げ、うるうると涙を溜めた目で円光を見つめ、今にも泣き出さんばかりなくしゃくしゃな顔で怒鳴ったのである。
「少しばかりって、やっぱり太ってるって判るんじゃない!」
「あ・・・、いえ、あの、その・・・」
「やっぱりそうなんだわ!」
 えぐえぐとしゃくり上げる麗夢に、円光は全く手の施しようもないままにただひたすら慌てふためいた。
「・・・、女性を泣かせるとは、円光さんもどうしてなかなか隅に置けませんな」
 え? と振り向いた二人の目に、久しく見なかった懐かしいシルエットが飛び込んできた。
「さ、榊警部!」
「御無事で何よりです。麗夢さん」
 アルファとベータもちぎれんばかりに尻尾を振って榊に飛びついた。榊は満面笑顔をはじけさせて、久しぶりにその髭面を二匹の舌に解放した。
「おおっ! アルファもベータも元気そうじゃないか!」
 榊は二匹を抱いたまま、麗夢と円光に言った。
「さあ、長居は無用だ! 早く行きましょう」
 もとよりその意見には全面的に賛成の二人だが、どうも榊の登場が突然すぎて何か釈然としない所も残る。麗夢は手早く涙を拭うと榊に言った。
「でも榊警部、どうしてここが判ったの?」
 榊は、うれしそうに笑って麗夢に言った。
「伊達に刑事で二〇年も飯を食っちゃいませんよ。それよりも このままだと鬼童君が危ない」
「危ないとは、殺されるのですか、鬼童殿が?」
 円光の問いは、今までの榊の喜びを一気に吹き飛ばす程な険しい内容に満ちていた。にわかに厳しい顔つきになった榊は、不安げな二人に言った。
「いや、私の勘が正しければ、もっと酷い事が鬼童君に待っているはずだ」
「もっと酷い事?」
「ええ。これを見て下さい」
 榊は、ポケットにねじ込んでいたファックスの写しを麗夢に見せた。
「アメリカの友人に頼んで、桜乃宮が向こうで何をしていたのか調べてもらったんだ。すると、実に驚くべき事が判った。彼女は既に生きていないんだ」
「何ですって?!」
「ここを見て」
 榊は、ある新聞記事をコピーした一枚を取り出した。中央に大きくビルの残骸らしい写真が収まり、その隅に、丸く切り抜かれた女性の姿があった。
「この人・・・、桜乃宮さんじゃない?」
「確かに、彼女に良く似ていますね」
「これは桜乃宮ルミ子だ。彼女は三年前、在籍していたとある研究所で霊子の証明実験をやろうとして失敗、研究施設の建物を爆風で吹き飛ばし、自分の命も失ったんだ」
「霊子の存在証明実験?」
「ええ、私にも詳しいことは判りかねるが、何でも二つの精神エネルギーを、サイクロトロンというドーナツのようなチューブに封じ込め、互いに反対方向に加速して、頃合を見て衝突させるのだそうだ。ところが、この時の実験では衝突時にすさまじい爆発が生じ、彼女もろとも建物をきれいさっぱり更地に変えてしまったんだ」
「でも、彼女から死霊の臭いは全くしませんでしたぞ。本当に死んでいるのですか?」
 円光は、二週間前の鬼童研究室での一戦を思い出して榊に言った。
「それは間違いない。検死の結果もほら、ちゃんと出ているし、お墓だってある」
 榊は、地元警察の作成した検死報告書とルミ子の名を刻んだ墓の写真を円光に見せた。
「とにかく彼女は、死んでいないかも知れないが、もう生きてもいない。どうしてそれでああして動いていられるのかは判らんが、再三に渡って彼女や都が鬼童君を『自分たちと同じように』不死化する事をほのめかしていたんだ。つまり、彼女の狙いは鬼童君にある」
「じゃあ、霊子の証明というのは嘘なのかしら?」
「いや、それは判らない。あるいはサイクロトロンを使うことにその秘密があるのかも知れない。でも、そうだとするとこれも大変なんだ」
 榊は背筋に冷たいものを感じてごくりとつばを飲み込んだ。
「さっきも言ったとおり、サイクロトロンは二つの精神エネルギーをぶつける装置だ。今彼女が扱おうとしている一つは、恐らく死夢羅のそれだろう。そのために彼女は死夢羅を拉致したに違いない。でももっと恐ろしいのは、もう一方の方ですぞ麗夢さん。彼女は、間違いなく平将門の怨霊を使おうとしている」
「平将門?!」
「うん。史上最強の怨霊、平将門だ!」
 榊は抱えていたアルファ、ベータを床に降ろすと二人に言った。
「とにかく、この実験だけは絶対に阻止しなければ。鬼童君の為だけじゃない。下手をすると、この辺りがそっくりそのままこの建物と同じ運命をたどってしまう」
 榊の手にある新聞の写真。麗夢と円光はその荒涼とした光景に身震いした。
「実験室はどこです! 警部!」
 榊は、ファックスの束を再び丸めてコートのポケットに押し込むと、指を下に向けて二人に言った。
「恐らくこのビルの地下だ。さあ、急ごう!」
 榊を先頭に部屋を飛び出した一行は、転げるようにして階段を駆け下りて行った。

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