かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

1.南麻布女学園 その2

2008-04-27 20:43:11 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「とにかく、今やるべきことに全力で立ち向かうだけだ。松尾もそれを望んでいるだろう」
 鬼童は、戸棚から出てきたフロッピーディスクの箱を手に、パソコンへと向き合った。
 箱を開けて再び鬼童はけして取り戻せないことが判っているもの悲しい懐かしさに胸を一杯にした。箱の中に収まる一〇枚の大きなディスケット。艶消しの黒いプラスチックに包まれた、薄っぺらい正方形の板のそれは、今時見ることさえ珍しくなった、5インチのフロッピーディスクである。
『他のメディアは脆すぎる。こいつの方が信頼できるのさ』
 真顔でお前も使って見ろよ、と意見した松尾の顔が鬼童の目に浮かぶ。鬼童は慎重に一枚取り出すと、大きく空いた読み取り窓に茶褐色のメディアが露出した、あまりに頼りないぺらぺらのそれを、これも年代物のパソコンにセットした。がちゃん、と仰々しい音と共に、読み取り装置のレバーを九〇度回転させる。たちまちシュルシュルとメディアが回転して読み取りヘッドとこすれ合う音が聞こえてくる。鬼童はそれを確認すると、キーボードからディレクトリを読み出すコマンドを打ち込んだ。がちゃんがちゃんと大仰な機械音と共に、ファイル名の末尾に「.txt」と並ぶファイルがずらりと画面に並んだ。ファイル名は、数字やアルファベットが組み合わされた、八文字の暗号である。鬼童は適当な一つを選ぶと、再びキーボードにその中身を表示するコマンドを打ち込んだ。現れたそれに目を通した鬼童は、それがどうやら実験日誌であることを読みとった。
「なるほど、さすが松尾だ。かなり綿密に実験や調査の記録が取ってある。ひょっとしたら「闇の皇帝」の研究データも、このフロッピーの中にあるかも知れん」
 鬼童は軽やかにキーボード上に指を走らせると、次々とファイルを開いては流し読みした。そして、ディレクトリ一覧の最後にあったテキストファイルを選んだところで、ふと手が止まった。
「これは?」
 ディスプレイには、四桁と五桁と六桁の数字が一つづつ組になってずらっと並んでいる。
「ううむ……、ちょっと待てよ?!」
 スクロールを続けていた鬼童は、数字の羅列が終わったあとに、「霊的磁場異常地点」と記してあることに気が付いた。
「なるほど、緯度と経度か」
 数字を見つめること数秒、鬼童はようやく手がかりらしきものをつかんだ。データの四桁の数字と五桁の数字は、まず間違いなく緯度と経度を分単位まで示している。それぞれが小さい数字から大きい数字に順序よく並べられているところからして、北から南、東から西に並んでいるある地点を指しているに違いない。では、その後ろの六桁の数字はなんだろう?
 鬼童は小首を傾げて数字の羅列をもう一度細かく見てみた。一番小さな数字と大きな数字では、一〇〇倍以上の差がある。しかもそれがランダムに並んでいて、何かの数値という以外には読みとれることはない。だが、最後に書いてあった一言、霊的磁場異常地点と言う言葉が気になる。ひょっとして、磁場の異常値を示すのだろうか……。
 鬼童はふと思いついて、その羅列の中にある数字がないか調べてみた。そして、それは確かにあった。
「あった! やはりそうか……」
 鬼童の探していた数字は、全体のやや上辺りにあった。夢隠村の緯度と経度にピッタリの数字だ。そこは、永らく封印されていた平安時代末期の怨霊、平智盛と、ついこの間、凄絶なバトルを繰り広げたばかりの場所なのである。 
「智盛の数値は、ざっと七万程か。もしこれが異常値の大きさだとすると、この中では中の上くらいと言ったところだな。あ、こっちは南麻布女子学園の緯度経度だ。こっちは、五万五千程か……」
 太古の昔、この島国を牛耳っていた「闇の皇帝」よりも、八〇〇年前の怨霊の方がエネルギーレベルが高い可能性がある。つまり、精神エネルギーも、放射性同位体のように時間と共に減衰するものなのかも知れない。つまり、初めのエネルギー量はどうあれ、智盛の方が時代が新しい分残存レベルも高いのだろう。そう言えば、と鬼童は一人の研究仲間の顔を思い浮かべた。精神エネルギーの半減期を計測しようと試みていた奴が一人いた。そいつにこのデーターを見せれば、何か有益な意見を得られるかも知れない……。そんな思いを弄びながら数字を眺めていた鬼童は、その中にある空恐ろしい数値に思わず寒気を覚えていた。鬼童の視線の先には、あの智盛や闇の皇帝の値の十倍以上の数値が記載されていたのである。しかもそれが、ある範囲に集中的に存在しているのだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1.南麻布女学園 その3 | トップ | 1.南麻布女学園 その1 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』」カテゴリの最新記事