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中央青山の行政処分について

2006年05月14日 18時55分17秒 | 法関係
今回の処分が「あまりに重すぎなのではないか」という懸念もなきにしもあらずで、金融庁の「厳罰をもって臨む」というイメージが殊更強調された面があるかもしれません。

山口弁護士のブログでも、処分への疑義がちょっと出されております。

ビジネス法務の部屋 会計監査人の内部統制(3)


で、行政処分について、ちょっと見てみることにしました。手続き関係も気になったので。


監査法人及び公認会計士の懲…:金融庁


まず、今回の行政処分は公認会計士法に基づくものと思われます。で、簡単に処分の内容を見てみます。公認会計士3名のうち、2名が登録抹消、1名が業務停止処分で、公認会計士の処分決定はどうなっているのか、というと次の通りです。

懲戒処分は、戒告・2年以内の業務停止・登録抹消と定められています(第29条)。これらの処分は次のように規定されています(公認会計士法)。


第三十条
公認会計士が、故意に、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、二年以内の業務の停止又は登録の抹消の処分をすることができる。

2  公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、戒告又は二年以内の業務の停止の処分をすることができる。

3  監査法人が虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合において、当該証明に係る業務を執行した社員である公認会計士に故意又は相当の注意を怠つた事実があるときは、当該公認会計士について前二項の規定を準用する。


つまり、公認会計士が「故意に」虚偽等の証明を行えば、業務停止か登録抹消ということになります。これらの処分を行う時には、行政手続法の聴聞規定(第13条)によらず聴聞を必ず行い、公認会計士・監査審査会の意見聴取を行うことになっています(第32条)。条文は以下の通り。


第三十二条
何人も、公認会計士に前二条に該当する事実があると思料するときは、内閣総理大臣に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。

2  前項に規定する報告があつたときは、内閣総理大臣は、事件について必要な調査をしなければならない。

3  内閣総理大臣は、公認会計士に前二条に該当する事実があると思料するときは、職権をもつて、必要な調査をすることができる。

4  内閣総理大臣は、前二条の規定により戒告又は二年以内の業務の停止の処分をしようとするときは、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第十三条第一項 の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。

5  前二条の規定による懲戒の処分は、聴聞を行つた後、相当な証拠により前二条に該当する事実があると認めた場合において、公認会計士・監査審査会の意見を聴いて行う。ただし、懲戒の処分が第四十一条の二の規定による勧告に基づくものである場合は、公認会計士・監査審査会の意見を聴くことを要しないものとする。


このように、行政処分が下される時には、処分内容に関わらず聴聞が行われること、処分内容は監督省庁の判断だけではなく、「公認会計士・監査審査会」の意見を聴くこと、この二つは基本的な原則になっています。従って、今回の中央青山の処分に伴う、登録抹消や業務停止処分は、「公認会計士・監査審査会の意見でもある」、ということだろうと思います。

(第5項規定のように、監査審査会が調査等を行って内閣総理大臣に行政処分やその他措置を勧告する場合もあり、この場合には既に監査審査会の意見が出されているので改めて意見聴取する必要がない、ということだと思います)



次に監査法人に対する処分を見てみます。


指摘されている「両罰規定」ですが、これはその条文が存在します。所属公認会計士が故意・過失等で虚偽の証明を行ってしまうと、監査法人も行政責任を問われることになる、ということです。


第三十四条の二十一
内閣総理大臣は、監査法人がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき、又は監査法人の行う第二条第一項の業務の運営が著しく不当と認められる場合において、同項の業務の適正な運営を確保するために必要であると認めるときは、当該監査法人に対し、必要な指示をすることができる。

2  内閣総理大臣は、監査法人が次の各号のいずれかに該当するときは、その監査法人に対し、戒告し、若しくは二年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又は解散を命ずることができる。
一  社員の故意により、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。
二  社員が相当の注意を怠つたことにより、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。
三  この法律若しくはこの法律に基づく命令に違反し、又は運営が著しく不当と認められるとき。
四  前項の規定による指示に従わないとき。

3  第三十二条から第三十四条までの規定は、前項の処分について準用する。

4  第二項の規定による処分の手続に付された監査法人は、清算が結了した後においても、この条の規定の適用については、当該手続が結了するまで、なお存続するものとみなす。

5  第二項の規定は、同項の規定により監査法人を処分する場合において、当該監査法人の社員につき第三十条又は第三十一条に該当する事実があるときは、その社員である公認会計士に対し、懲戒の処分を併せて行うことを妨げるものと解してはならない。


この第34条の21の第2項規定にある通り、監査法人に対しては、公認会計士への懲戒処分とほぼ同様に戒告・2年以内の業務停止・解散のいずれかの処分が行われます。会計士個人の場合、「故意の」虚偽証明の場合は戒告以外の懲戒処分でしたが、法人に対しては戒告で済む場合が有り得ます。監査法人への規定は社員(公認会計士)の「故意」か「過失」かは、条文上では必ずしも関係がない、ということです。


今回の中央青山への行政処分の処分理由としては、他の要件(審査・教育体制及び業務管理体制を含む監査法人の運営に不備、レビュー関連の話とか)も書かれていますが、これがあってもなくても関係なく、基本的には社員が処分対象となってしまえば、監査法人は自動的に処分されます。つまり「両罰規定」としてこの条文が存在しているのだと思われます。で、公認会計士個人への処分の場合と同様に、公認会計士・監査審査会が処分の審議を行うと思います。ですので、監査法人への処分は、公認会計士・監査審査会から出された意見に基づいて、決定されていると考えられます。金融庁の「強権発動」というようなことは、必ずしも当てはまらないかもしれません。手続き上は、このような手順を踏んで処分決定が行われたのだと思います。


ただし監査法人の処分の場合には、会計士個人への場合のような聴聞規定がないため、法人への適用はよく判らないです。不利益処分に対しては、行政手続法第13条の「名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。」に規定されるように「登録抹消=解任を命ずる不利益処分」になるとすれば、個人の場合と同じく聴聞が必要となると思います。しかし、行政手続法の縛りを受けない、ということであれば、行政不服審査法に基づく異議申立ということになるのではないかと思いますが、よく判りません。


最後に、「業務管理体制の不備、云々」についてですが、これは監査法人の義務として次のように定められています。

第三十四条の十三  
監査法人は、業務を公正かつ的確に遂行するため、内閣府令で定めるところにより、業務管理体制を整備しなければならない。


で、条文中の内閣府令がどの法令なのかは、公認会計士に関する内閣府令はいくつか種類があるので判りにくかったのですが、何とか発見したのが、「監査法人に関する内閣府令」です。この条文を見ていくと、次の規定があります。

第三条
 法第三十四条の十三の規定により監査法人が整備しなければならない業務管理体制は、次に掲げる要件を満たさなければならない。

一 総社員の過半数が、公認会計士の登録を受けた後、三年以上監査証明業務に従事している者であること。

二 監査証明業務を適切に行うための方針及び手続が定められていること。

三 監査証明に係る意見形成のための審理規程が定められ、審理を行う機構が設けられていること。

四 第二号の方針及び手続並びに前号の審理規程が的確に実施されていることを点検する機構が設けられていること。

五 監査証明業務を適切に行うために必要な施設及び財産的基礎を有すること。

六 従たる事務所を設ける場合には、当該事務所に社員が常駐していること。


このようになっており、特に、①審理規定とその機構、②それを点検する機構、という部分では「問題があった、不備が認められた」という意味で、行政処分の後段部分が書かれていたのではないかと思われます。

また品質管理レビューに関しては、公認会計士・監査審議会の提言が17年2月にまとめられています。

1729 「品質管理レビューの一層の機能向上に向けて -日本公認会計士協会による品質管理レビューの実態把握及び提言- 」の公表について

一部抜き出します。

「監査の信頼性確保のために-審査基本方針等-」(平成16年6月策定)に基づき、公認会計士・監査審査会は「品質管理レビューの一層の機能向上に向けて-日本公認会計士協会による品質管理レビューの実態把握及び提言-」を取りまとめましたので、公表致します。

(下段の方に本文があります)


全くの門外漢ですので内容については判りませんけれども、既に1年以上前に策定・公表されており、各監査法人等では18年3月までにその品質管理体制を整備することが求められておりましたので、不十分であるということで行政庁からの改善を求める「指示」があることは不思議とは言えません。


更に、証券取引等監視委員会からの建議が金融庁長官に出されており(FujiSankei Business i 金融・証券/監査法人にも刑罰規定を 監視委、金融庁長官に建議2006422)、ここでは、監査法人の責任のあり方について検討し、必要かつ適切な措置を講ずることが求められています。これは公認会計士個人へは刑事・民事・行政責任が生じるのに対して、監査法人へは刑事責任を問えないこと(会計士が故意の虚偽証明をした場合でも)や民事責任の及ぶ範囲が限定的である、ということなどから、残る行政責任をもって厳正に臨むしかない、という側面があったのではないかと思われます。折りしも、耐震偽装問題で行政の監督責任を問う世論が大勢を占めていたことや、ライブドア事件における税理士等の関与・虚偽記載など(結果的には、担当であった監査法人は解散に追い込まれたのではなかったかと思います)も、こうした建議の背景にあった可能性は否定できませんが、監督官庁が戒告以上の行政処分を下すことを不当である、とは言い難いと思います。


中央青山の問題で言えば、既に「3度目の正直」となっており、ヤオハン事件、足利銀行事件ではいずれも監査法人への処分は戒告どまりでした。フットワークエクスプレス事件での担当であった瑞穂監査法人は「1年間の全部業務停止」処分となり、こちらは解散となってしまいました。これらを振り返れば、中央青山が業界大手であるというだけで、戒告処分のみで「お茶を濁す」という訳にはいかないことは、金融庁にしてみればある意味「当然」だろうと思います。3年前にできた公認会計士・監査審査会の機能・権限を実証するという面でも、今回の中央青山への業務停止処分は避けがたかった、と思います。むしろ、前科2犯(笑)で数ヶ月の部分的な業務停止処分で済むのであれば、「御の字」とも言えるかもしれません。これが法人解散に追い込まれる程度に長い業務停止処分では、多くの企業が混乱するということを考慮して、処分が出されたのだろう、と思っています。




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