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言葉の創造と理解

2005年02月14日 13時40分17秒 | 社会全般
言葉は今までに数多くの新語が作られ、一般に認知され定着したものはその後も使われ続ける。身近な例では、漱石はたくさんの新語を生み出したはずだ。小説家は、初めから創造された言葉を用いてもよい、という読者の認識があるから、特別な注釈は必要ないのであろう。文献中に見られる言い回しや新語は、多くはその文脈中から理解されてきたものが多いと予想するのである。


また、学術的文献では、新語を登場させる時には、通常定義付けられて用いられることが多いと思う。その用語を最初に用い、その分野での認知や評価が得られれば、その後も持続的に使用されることが多いであろう。一般にも普及した用語の例として、「ターミナル・ケア」がそうであろう。元来医学的用語として登場し、日本でもガン治療の知識の集積が進んだころから使われ始めた。90年代ころからは、専門分野以外の人々によっても理解され使用されるようになってきた。今では、文学作品やテレビドラマなどでも普通に使われていますね。


『terminal 』はご存知のように、『term』の派生語である。「テクニカル・ターム」のtermですね。専門用語として、新語が使用される時に、定義付けが必要なものも当然あります。一般には理解が困難な場合です。また、小説等の文脈から特別な説明をしなくとも、十分理解できるものも当然あります。定義付けや注釈は、使用する時にあった方が読者には親切であると言えるし、共通理解を得るのを助けるという意味はあるでしょう。


よく用いられる和製英語に、「ハイテク」があります。これはよく知られているように、『high-technology』が語源ですが、どのような経緯で作られたかは、私も正確には知りません。かすかな記憶では、80年代ころに行政文書で使用され、その後そういった産業育成に政策的力点を置いていく、というようなことがスタートであったように思いますが、かなりあやふやなので、定かではありません。

いずれにしても、この用語は社会に広く認知され、定着を果たしたばかりか、その後色々な言葉をどんどん派生させていきました。「ハイテク産業」「ハイテク犯罪」「ハイテク機器」「ハイテク商品」等々たくさんあり、おまけに「ローテク」という反義語まで登場しました。これは「ハイテク」の意味を広義に理解していると、この用語の意味するところが特別な解釈がついていなくとも理解できるという言葉ですね。最初に使われた経緯はわかりませんが、他に似た例として「ファースト(ファスト)フード」「スローフード」という対比がありますね。


また、今となっては日常的に用いられる「サイバー」という言葉があります。これを用いた言葉は次々と登場して、ちょっと氾濫気味のような感じがします。「サイバーテロ」「サイバー攻撃」「サイバー法」「サイバーコイン」「サイバーショップ」などが使われています。

「サイバー」は元来『cyberspace』という言葉で使用されていました。これは、私が学生時代に読んだ、SF小説に由来しています(文庫本を買いました。今も持ってる!)。当時(80年代後半頃)、ウィリアム・ギブスンが「ニューロマンサー(Noeuromanser)」という小説の中で使用して流行し、その分野のSF小説が『cyberpunk』(サイバーパンク)というジャンルで呼ばれました(長きに渡るSF界の低迷を、このムーブメントにより脱出できたと記憶しています)。この頃から「サイバー~」という響きが世の中に定着し始め、ITの普及とともに現在のような理解が得られるようになったのです。これには、小説は勿論、アニメやゲームの影響も手伝って、一般に広まっていったと思っています。

ギブスンの立場で考えると、『cyberspace』という言葉を生み出す由来があったのではないか、とも思うのですね。そういえば、かつてSF作家、ヒューゴー・ガーンズバック(ヒューゴー賞の由来ですね)が、小説の中で未来を描写して、様々な言葉、文明の利器、発明などを生み出しましたね。

恐らく(本当に単なる推測に過ぎませんが)、「サイボーグ」が「サイバースペース」の原点であったと思うのです。サイボーグ(cyborg)は元々『cybernetic organism』という医学用語からの造語です。Wikipedia によればクラインズとクラインによって1960年に提唱されています。『cybernetic』は、人工頭脳研究から生じた造語で、Norbert Wiener によると言われ、ギリシャ語の操舵手(Kybernetes)がその語源と考えられています。これらの系譜から、接頭辞としての『cyber-』という言葉が単独で用いられるようになり、一般に認知・理解が得られたものについては、その後定着して「サイバー攻撃」などと用いられているのです。


ギブスンは現在のような言葉が生まれるとは想像もしていなかったし、また小説の中では読者に向けて特別な説明や定義付けはしていませんでした。このような過程を辿る「言葉」というのはとても不思議ですが、一般には使われる文脈の中で概ね理解が進んでいき、それが広義の解釈や新たな側面が認識されると、別な派生語も生まれるのです。最初に誰が使い始めるかは、それ程重要な問題ではないと思う。結局のところ、その他大勢の人が認知して使用するかどうかでしかなく、必要性があまり感じられない言葉は、自然と使用される頻度が少なく、廃れていくのです。


ある文章を読んで、「『サイバー攻撃』って定義は何?」と、書いた人をいくらせっついても意味がなく、その文脈から読み取るのが普通なのですね。「『サイバーパンク』は用語として存在したけど、『サイバーコイン』なんて聞いたことない(著者注:実は私も知りませんでした。こんなのが今はあるんですね)。勝手に作るなよ。」というのも、同様に意味がないことに気付くでしょう。言葉の派生とは、そういう過程を辿っていくものがある、ということですね。


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6 コメント

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言語認識過程論どうも。 (Unknown)
2005-02-14 14:57:18
で、言葉の派生についての

長期間での取らえ方の話を拝聴させていただきました。おっしゃる観点は過去を振り返る上では非常に貴重な(というより当たり前かもしれませんね)ご意見だと思います。



で、その上で質問です。

やはり生まれたばかりの造語の意味は

造語を使った人に聞くのが正当(意味があるかはまた別問題)だと思うのですが?



いろんな場面で使われ始めて、その上でしか長期的な展望はもてないと思うのですが。



我々は常に現在の言葉の使い方・使われ方を論じるべきであって、また、そうすることで派生が生まれていくのではないのでしょうかね?
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Unknown (Unknown)
2005-02-14 14:58:24
文頭の「で、」は不必要でした。申し訳ない。
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いいの思いついたんだけど (こねこ)
2005-02-16 18:11:17
小倉先生がブログでテクニカルタームなどというものを募集していますよね。アタシ、すんごく的確な言葉を思い付いたんだけど、投稿したら○○○○が怒ると思うので、投稿するのを我慢しています。



合計4文字にするか7文字にするかで迷っているのだけど、どんな言葉を思い付いたか知りたい~?



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Unknown (まさくに)
2005-02-17 10:11:24
特に募集はしていないと思いますよ(笑)。

「コメントスクラム」のような「テクニカル・ターム」を創造していくとしか書いてなかったと思います。因みにどんな言葉か気になりますけど(笑)
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書いたよっ♪ (こねこ)
2005-02-18 18:39:41
例のテクニカルタームですが、アタシのブログに思い付いたのを書いておきました。



とてもわかりやすい言葉だし、特に該当する人たちを貶めるというような意地悪な所もないのでいいのではないかなと思います。



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Unknown (まさくに)
2005-02-19 10:45:00
読んでみました。怒るかも。(冗談です)

感想はそちらに。
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