シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

サバイビングピカソ

2005-09-30 | シネマ さ行
何がすごいってまず題名がすごい。「ピカソを生き延びて」ってことでしょ、これ。ピカソを愛した女性はみな自殺するか気が触れてしまうかのどちらからしい。そんな中このフランソワーズナターシャマケルホーンだけが自殺にも追いやられず、精神も病まずにまさに「ピカソを生き延びた」わけだ。

「絵のモデルになってくれないか?」これがピカソのくどき文句だ。「存在の耐えられない軽さ」ではトマシュが「服を脱ぎなさい。僕は医者だ」と女を口説いていたが、この画家バージョンといったところか。

こうして誘われた女性たちはピカソに夢中になっていくが、彼もその女性が好きで共に暮らしたり結婚したりもするが、他の女性のことも好きになってしまうし、悪びれる様子もない。それでも、元の女性たちがピカソと簡単に別れたりしない。ピカソという人には強烈な魅力があったのだろう。

ゲルニカ製作中にオルガ(妻)だったかマリーテレーズ(愛人1)のどちらかとピカソの作品「泣く女」のモデルのドラ(愛人2)ジュリアンムーアが彼をめぐってケンカを始めたときも「女同士勝手にやってくれ」とピカソは意に介さない。このシーンがかなり傑作なのだけど、これは事実あったことらしい。

フランソワーズとピカソが結婚するときに彼は「私を一生愛す」と彼女に誓わせるくせに自分は頑として誓わない。女ったらしで身勝手な男ではあるが、そのセリフを絶対に言わないのはある意味においては誠実なのではないかとさえ思えてくる。女は「あなたは身勝手よ」と泣きながらもピカソと結婚する。彼は嘘をついたわけでも、誠実なふりをしたわけでもない。それでも女が離れずにいる何かが彼にはあったのだろう。

ワタクシはピカソが好きだ。バルセロナのピカソ美術館にも行ったし、マドリッドにゲルニカを見に行った。彼の作品が近くに来るとよく見に行く。彼のわけの分からない絵を見て芸術だとか言う気はさらさらない。わけの分からんもんはわかが分からん。それでも何かしらの魅力を感じる。彼の生き様にしてもそうだ。女ったらしなんて最低だと思うけど、それでも何か魅かれるものがある。それが、カリスマというものなのか?

そのカリスマを演じるアンソニーホプキンスが素晴らしい。めちゃくちゃ似てるわけじゃないのに、なんか本人に見えてくる。自分がどれだけ役のためにリサーチをしたかっていうことを自慢げに話す俳優が多く、それを賞賛するマスコミが多い中、彼は役についてのリサーチをしない役者だ。彼は衣装を着てセットに立って、セリフを言う。自分のインスピレーションで芝居をするのだと言う。それであんな演技をしてしまうのだから、怪物的としか言いようがない。