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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
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時計館の殺人

2018-11-01 00:33:54 | 読書録

時計館の殺人(上)

講談社

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時計館の殺人(下)

講談社

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久しぶりの館シリーズでしたが、ようやく「こんなものなのかな」と慣れてきました。
謎解き役の鹿谷門実こと島田潔が事件に直接関わらずにその場にいない、というのも特徴になりつつありますし、テーマの館は当然に鬼才・中村青司の手によるものですがそれがトリックを有名無実なものにしてしまっているのも然り、殺人の部分のトリックを解こうとしてもそれは徒労に終わること請け合いです。
好きか嫌いかと問われれば作者の挑戦に対するのがミステリーの醍醐味と考えていますので、どちらかと言えば嫌いに近いのが正直な感想です。

ある時計商のオーナーが建てた時計館に集ったのはオカルト雑誌が企画をした交霊会に参加する取材チーム、大学の超常現象研究会のメンバーらで、その館に出没すると噂されている少女を霊媒師が呼び出すというイベントに端を発しての連続殺人、館の関係者が次々に世を去った過去の事件、そして時計にまつわるエピソードが語られていきます。
そのエピソードこそが館シリーズのメインディッシュ、なぜ事件は起きたのか、起こらざるをえなかったのか、その人間模様がトリックになっているとも言えます。
残念だったのは立て続けに事件が起きながらもテンポが悪いと言いますかスピード感を欠き、事件の経緯を登場人物に語らせたことが逆にマイナスになった面も否めません。
上下巻でかなりのボリュームですがもう少しダイエットができていた方がすっと入ってきたような、ちょっと惜しい針の無い時計館でした。


2018年10月18日 読破 ★★★☆☆(3点)



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ビブリア古書堂の事件手帖 7

2018-10-13 02:54:56 | 読書録

ビブリア古書堂の事件手帖 7

アスキー・メディアワークス

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ここにきてまた映画化がされるなどブーム再来の気配もあるビブリア古書堂シリーズ、原作を読んでいる身からすればドラマ化がされたときと同じく違和感のありまくるキャストではありますが、原作に忠実であればよいというものでもありませんし、そもそも観に行くつもりもありませんからどうでもよかったりはします。
ただ前売り特典の小冊子がシリーズ最新作となる本編の後日譚、の前日譚らしいのでそこだけが気がかり、原作を読んでいない人からすれば宝の持ち腐れですし、原作しか興味がない人からすればぽっかりと穴が空いた感があり、自分は後者だけに電子ブックで販売がされることをただ願うばかりです。

それはさておき最終刊はシェイクスピアのファーストフォリオ、その戯曲をまとめて出版をした最初の作品集の真贋がテーマとなります。
シェイクスピアは高校生ぐらいのときにちょっとはまってNHKで、元はBBCあたりのものを放送したものだったと思いますが、ハムレット、お気に召すまま、終わりよければすべてよし、オセロー、真夏の夜の夢、などを見たことがあるためちょっと身近に、しかし当然ながら栞子さんの足元にも及びません。
そんなファーストフォリオを巡って栞子の祖父が残した謎、暗躍をする祖父の元弟子、そして母の智恵子との対決とストーリーは流れていきます。
大輔との恋仲も静かに、しかし激しく進んでいきクライマックスに、その大団円は盛り上がりはしますがそうきたかと、読み手によってハッピーエンド、世の厳しさをそのままに、など望むところは違うでしょうが、ここまで培ってきたキャラクターを崩壊させてまでのこれはちょっと受け入れがたいものがありました。
この巻としては読み応えがありましたがシリーズの締めくくりとしては期待ハズレ、が正直なところで、このもやもやは後日譚で晴らしたいと思います。


2018年9月15日 読破 ★★★☆☆(3点)



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ビブリア古書堂の事件手帖 6

2018-09-12 03:01:11 | 読書録

ビブリア古書堂の事件手帖 6

アスキー・メディアワークス

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通勤が無くなることでこれほどに読書のペースが落ちるとは、予想の範疇を超えていました。
これまでは月5~6冊のペースで年間60冊前後だったものが老後に入ってからは月1冊がせいぜい、読みたい本はたくさんあるので蔵書だけが増えていく毎日です。
そんなこんなでビブリア古書堂シリーズもあと一巻を残すところとなり、どうやら映画化に絡んで後日譚が今月に発売になるようですがそれはさておき、近しい人間関係が続きます。
さすがに頭で整理をするには難しいと考えたのか最終巻で巻頭に系図を載せてくれたのには大助かり、ただ世間は狭いとは言いますがご都合主義に思えないこともありません。

ここにきて太宰治へのこだわりは作者のそれなのか、また稀覯本への執着が前面にくるなど振り子のように右へ行ったり左へ行ったり、なかなかにめまぐるしいです。
ただそのこだわり、執着も人それぞれ、レベルが違うのは当然ですが家族への思い入れ、あるいは自尊心、嫉妬などなど、人間臭さが出てきているのもこの巻の特徴でしょう。
篠川栞子と五浦大輔の関係も一気に進んできましたし、裏で暗躍をしていそうでなかなか表に出てこない栞子の母、智恵子が最後にどういった役割を演ずるのか、志田はまた登場をするのか、太宰治の「晩年」の行方はどうなるのか、目出度いかどうかはさておき大団円まであともうすぐです。


2018年8月27日 読破 ★★★★☆(4点)



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ビブリア古書堂の事件手帖 5

2018-07-13 01:08:06 | 読書録

ビブリア古書堂の事件手帖 5

アスキー・メディアワークス

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前作から二年も経ってしまったので流れを思い出すために読書録をざっと見てみる、なんて使い方もできるブログです。
篠川栞子と五浦大輔の微妙な距離感は大輔の告白から一気に動くかと思いきや「答えを待って欲しい」とは栞子、その期限となる五月末までジリジリとする大輔ですが謎解きはお構いなしにやってきて栞子との共同作業、大輔がいるからこそとの栞子の言葉にムフフとなってしまいます。
そして栞子の決断に影響を及ぼす智恵子の影、母に会うがために仕組まれたその謎解きに挑むシリーズ五巻目となります。

正直なところブラック・ジャックもまともに読んだことはありませんし他の作品も初めて名前を聞くものばかり、その背景に隠されたものなど分かるわけもありません。
ですので栞子や大輔とともに謎を解いていくと言うよりはその背景にかかる人々の思い、を楽しむとは語弊がありますが、そういった付き合いが正しいのでしょう。
そんな中でテーマがシリーズ前半の稀覯書に対する偏執的な執着のようなものから智恵子の登場により家族の繋がりに重きを置きつつあるのが大きな変化で、この作品ではその色合いがかなり濃くなりほぼ全てがそれと言ってよいような、前作で明らかとなった志田の存在がさらに深掘りをされたりもしています。
その一方で栞子が大怪我をさせられた事件の犯人が仮釈放をされて再び姿を現す、といったエピローグが次にどう繋がるのか、ここはもう一気に読むしかありません。


2018年7月10日 読破 ★★★★☆(4点)



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理由あって冬に出る

2018-06-29 02:24:46 | 読書録

理由あって冬に出る

東京創元社

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そのカバーイラストを見ればどこかライトノベルチック、の先入観どおりに軽いと言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、何にせよ本格ミステリーとは一線を画しています。
いわゆる学園ものに謎解きが加わったような青春ストーリーはどこか氷菓シリーズに近いのだと思いますが、こちらの方が軽さを感じるのは作中の会話が理由なのでしょう。
テンポがよく読みやすくはあるのですがやはり軽さと言いますか内容が薄い、その端々に微妙な伏線が敷いてあるのでそれもテクニックなのか、ただ老人にはちょっときついです。

肝心の謎解きもどうなのでしょう、解けはしなかったのですがやられた感よりもそりゃないよ、が実際のところではあります。
読み返してみれば解決の糸口はありましたが偶然に頼りすぎた仕掛けに思えて自分には無理、動機が最後まで読めなかったのもありますしその動機にしても浮き世離れをしていると言いますか自分の世界観ではありえないので思い至らなかった、ことからして諦念といったところでしょう。
また読むときに登場人物を脳内で描くことが多いのですが下の名前が出てこないのと会話が中性的で性別が分からず、探偵役の伊神先輩がどちらか未だに分かっていません。
困ったことにセールのときにシリーズをずらりと購入してしまったのでこのパターンが続くときつい、ただ忘れかけていたプロローグがガツンと最後にきますので筋立てと言いますか構成はしっかりとしていることに期待をして、ポツポツと読み進めていこうと思います。


2018年6月25日 読破 ★★★☆☆(3点)



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遺恨の譜

2018-06-21 01:39:32 | 読書録

遺恨の譜

講談社

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歴女を中心に人気のある幕末ですが、その幕末の闇を描いた短編集です。
あれだけの時代の変革を伴ったのですからきれい事で済まされるわけがないのは承知をしていますが、実際にそれを目にすれば暗いものが胸に残ってしまいます。
坂本龍馬、高杉晋作などの一部を除けば生き残った者のみが名を残した刻でもあり、裏を返せばその陰に隠れてほとんど名を知られない志士たちも少なくありません。
そういった志士たちの奮闘があってこその維新、その無念がひしひしと伝わってきます。

表題となっている遺恨の譜、よりも、古心寺の石、の方が心に響きました。
福岡藩の支藩である秋月藩、その重臣である臼井亘理はしかし藩内の守旧派から西洋亘理と蔑まれ、そして憎まれるほどの先進的な考えの持ち主で、信頼をしてくれる藩主の命で京都での政治工作、大久保一蔵や三条実美らの知己を得て出遅れていた秋月藩の地位を確かなものとします。
しかしその藩主の心変わりにより守旧派に暗殺され、後にその嫡男が実行犯を討ち果たした事件は「最後の仇討ち」とされているとのことです。
数年前にドラマ化をされたようですがwikipediaで見てみれば原作ではさらっと書かれている仇討ちをメインにしているようで、しかしこの作品はそこまでに至る臼井亘理の省みる一癖はありながらも藩を第一に考えた開明的な行動力、を敵対していた水上小四郎の目を通して描いています。
時代の流れから取り残された田舎藩の頑迷さ、と言ってしまえばそれまでですが、薩摩藩や長州藩であっても同様の対立はあったわけで、その田舎ゆえに、また維新前に世を去ったことで志士の間でも名高かった臼井亘理が忘れ去られている、維新の嵐でも出てきた記憶がない、その現実を痛感させられました。


2018年6月19日 読破 ★★★★☆(4点)



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江神二郎の洞察

2018-06-03 00:01:02 | 読書録

江神二郎の洞察

東京創元社

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読書は通勤中が大半でしたので退職をしたことでその通勤が無くなりましたから、読書量が一気に減ってしまいました。
昼下がりに紅茶を飲みながら、なんて優雅な生活はできていませんので、ボケ対策を意識して時間を作らないとヤバいような気がします。
そんなこんなでほぼ3ヶ月ぶりは学生アリスシリーズの最終作、短編集です。
EMC、英都大学推理小説研究会の部長である江上二郎の推理劇、と言うほどのものでもありませんが、その人となりみたいなものがメインのテーマなのでしょう。

ただ本編でも仄めかされていた江上部長の謎、は結局ここでも明らかにされていません。
どちらかと言えばモチ、信長、最後に登場のマリアとEMCの面々のキャラを立てたファン向けになっているような、それはそれで嬉しい構成になっています。
個々のストーリーはオカルトチックなオチもありましたが極めてシンプル、事件そのものよりもそこに絡む人間模様が際立っているのはシリーズの特徴でもあります。
残念ながらこれに続く作家アリスシリーズはパラレルワールドで繋がりが無いとは事前情報、それが本当かどうかにたどり着くのがいつかは分かりませんが、読み進めます。


2018年5月30日 読破 ★★★★☆(4点)



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天地雷動

2018-03-03 00:13:00 | 読書録

天地雷動

KADOKAWA

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長篠城を巡る攻防で設楽原にて戦国最強とも謳われた騎馬軍団を壊滅させて武田氏滅亡のきっかけを作ってしまった勝頼には愚将との評もありますが、しかしただの武将と考えれば難攻不落の高天神城を攻略するなど武勇に秀でた存在とは当時の資料からも裏付けられています。
あまりに父が偉大すぎて、それを乗り越えようとしたがために滅んでいく様は現代社会の二代目社長にもありますし、そういう意味では歴史から学べるところもあるでしょう。
なぜに何重もの馬防柵の向こうに構える鉄砲隊に無謀な突撃を繰り返したのか、勝頼と家臣団が追いつめられていくストーリーには抗いようのない運命が感じられました。

三河を落とす、そのことが武田氏にとっての命題であったことを経済的な側面で描いたところが目新しくもありました。
また内なる敵として長坂釣閑斎を引っ張りだしたところなどはオーソドックスではありますが、単なる佞臣ではなく筋が通っているように見えてのどんでん返しはなかなかに乙です。
それよりも何よりも二代目の苦悩、父を崇めていた重臣たちを御しきれなかった勝頼の「父上、素晴らしき置き土産ですな。この悍馬どもは父上でなければ乗りこなせぬようにできております。そんな馬を残して、それがしにどうせよと申されるか!」との独白が全てを言い表していたように思います。
山県昌景、内藤昌秀、馬場信房、春日虎綱と一癖も二癖もある老臣を率いるには勝頼は若すぎたのか、またその勝頼だけではなく徳川家康、羽柴秀吉の織田信長にかかる心理描写が真に迫っていて絶妙、そこに信濃先方衆である下条信氏の配下である国人を交えたのが戦国の世の本質を語っているかのようで深く考えさせられる作品でした。


2018年2月24日 読破 ★★★★☆(4点)



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そして扉が閉ざされた

2018-02-05 00:00:08 | 読書録

そして扉が閉ざされた

講談社

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富豪の令嬢がスポーツカーで崖から転落して事故死をしてから三ヶ月、その令嬢の恋人、友人の男女四人が窓のない部屋で目が覚めるところから話は始まります。
そこは富豪の別荘にある地下核シェルター、娘の死を殺人と疑った母親に薬を盛られた上で閉じ込められたことによるもので、男女四人の疑心暗鬼、それぞれが心当たりがないままに事故だったのか殺人だったのか、殺人であれば誰が犯人なのか、脱出を試みながらも四人による謎解きが展開をされていきます。

ある意味で誘拐でもありますから、人さらいの岡嶋、らしい作品ではありました。
ただ密室の中でのストーリー展開ということもありますがどこか重苦しく、軽快なテンポながらも岡嶋二人らしさがあまり感じられなかったのも正直なところです。
それはさておき謎解きとしてはなかなかに秀逸、明かされてみればそこそこの種明かしの描写がされていますので掟破りでもありませんし、こじつけたような仕掛けもありません。
その伏線を拾い上げるために二度読みをするのもいいかもしれず、岡嶋ファンには多少の違和感があるかもしれませんが、ミステリーとしては一本を取られた推理劇でした。


2018年2月2日 読破 ★★★★☆(4点)



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猫又お双と消えた令嬢

2018-02-01 00:24:20 | 読書録

猫又お双と消えた令嬢

角川書店

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楽天koboで安売りをしていたのでシリーズ三冊をまとめて買ったのですが、残念ながらその一冊目の感想は「安物買いの銭失い」でした。
戦後からようやく復旧をしつつある東京を舞台に大学院生の隆一郎と妹の双、は表向きで双は隆一郎の住む長屋に住み着いた猫又という設定になっています。
猫又、とは老いた猫の尾が二股になった妖怪、とのことで、基本的には人に害する存在とされているようですが、双は自分を怖がらずに親しくしてくれる隆一郎に懐いて言葉をしゃべり、そして少女の姿に変化して隆一郎から「双」の名前をもらって妹として長屋で住み始めます。
そんな兄妹に長屋の大家から旧名家の令嬢を誘拐するとの魔術師からの予告に立ち会うよう依頼を受けたところから、このシリーズは始まります。

位置づけとしてはライトノベル、あるいは小中学生向けのものなのかもしれませんが、それにしても謎解きが簡単に過ぎます。
誘拐予告の前段階となる魔術師が起こした数々の事象も魔術師が誰か、をばらしているようなもので、肝心の誘拐にしても事が起きる前にトリックが分かってしまいました。
ある意味で結果が分かりきった水戸黄門的なストーリーで、しかし奥深い種明かしがあるわけでもなく、そうでしょ、やっぱそうだった、で終わりです。
事件に駆け付けた刑事と双との微妙なやりとりや、双が隆一郎に隠した「シークレット」が次に繋がるのか、それぐらいしかシリーズの興味がわかないため面白ければ一気に読んでしまおうと思ったのも見送りで、次にいつ読むことになるのか、あるいは間を置くと読まなくなりそうなので早めに片付けた方がいいのか、思案中です。


2018年1月26日 読破 ★★☆☆☆(2点)



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盗まれた顔

2018-01-21 00:00:32 | 読書録

盗まれた顔

幻冬舎

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FBI捜査官のジョン・トラボルタとテロリストのニコラス・ケイジが整形手術でお互いの顔が入れ替わった、そんな設定の映画がありましたので似たようなものかと思っていましたが、小さめの「盗まれた」ではなく大きめの「顔」がテーマの、ちょっと変わった雰囲気の作品でした。
主人公は見当たり捜査を行う白戸警部補、見当たり捜査とは手配犯の写真を頼りに街中でそれを探すというもので、まさかそんな確率の低い捜査法が実際にあるはずがないと思いきや作中にあったとおり大阪府警から始まり全国に広がっているとのこと、もしかしたら駅前や繁華街ですれ違ったことがあるのかもしれません。
そんな見当たり捜査員が一日に数百、数千、数万の顔から記憶を頼りに逃亡中の犯人を捜していく中で、数年前に死んだはずの元同僚の顔に気がつくところから話は始まります。

実際もそうなのでしょうが、月に1人も見つけられれば上出来な手法に従事すればプレッシャーも相当なものがあるでしょう、成果を残せなければただ街でぶらぶらしているだけにもなりますし、白戸、部下である谷、安藤の焦燥感がメインに語られる前半は重苦しく、あまり面白いものではありません。
同じような描写の繰り返しは見当たり捜査の単調さを意図的に表したものなのでしょうが、なかなか話が前に進まずに苛立ちすらあります。
しかしその前半で蒔かれた伏線が一気に拾われる中盤以降はテンポが上がってクライマックスへ、あまりにとんとん拍子ではありますが大藪春彦賞の候補だけのことはあります。
ただCD機で指紋認証がはじかれたときに「もしや」と思ったところが裏切られるなどひねりとでも言いますか、そういったものが無かったのが残念、シンプルで素直な展開も悪くはありませんが奥深さに欠いたような、いい人たちばかりなのはこの手のストーリーでは致命的だった気がしないでもありません。
同棲相手の千春がふとしたときに見せる「別の顔」がサブストーリーとして流れますがやたらと長いエピローグも中途半端、もやもやしたものが残った顔のお話でした。


2018年1月20日 読破 ★★★☆☆(3点)



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葉隠無残

2018-01-10 00:00:39 | 読書録

葉隠無残

講談社

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葉隠、とは肥前佐賀藩の藩士であった山本常朝が武士の心得を後述したものをまとめたもので、武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり、の一節は有名です。
しかしこれは武士のあるべき姿、理想像を語ったものであるため藩としては都合のいいものでもあったようで、後に鍋島論語とも呼ばれました。
江戸中期以降に武士の考えが移ろいていく中で愚直に武士道を求める、これは時代の流れに逆らうことと同義でもあり、それに縛られていく藩士の悲哀が描かれています。

見事な立ち振る舞いで危機を切り抜けた中野権平を除けば、その全てが自らの心を殺す、あるいは意地立てをすることで武士道を貫いています。
それを是とするか非とするか、現代人の観点で考えてはいけないのでしょうが、体面を保つことが第一義ではやはりタイトルどおりの「無残」としか言い様がありません。
おそらくは作者もその無常を伝えたかったのではないかと、残された人々の恨めしい様子がそれを物語っていますし、どうしても後味の悪さのようなものを感じてしまいます。
それこそが武士道、なのかもしれませんが、件の武士道と云ふは、にしても本来の意味とは違って伝えられているところからしてもご都合主義は否めず、無残、無残、無残です。


2018年1月8日 読破 ★★★☆☆(3点)



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砂漠

2017-12-31 00:04:06 | 読書録

砂漠

新潮社

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この手の作品は、伊坂幸太郎には珍しいかもしれません。
主人公、なのかはやや疑問ながらも仙台の大学一年生になった北村の視点で、同級生の鳥井、東堂、西嶋、南の五人の青春物語となっています。
その登場人物の名前から分かる、かどうかはさておき、麻雀をきっかけに仲良くなったってのは今の時代はどうなんだろう、なんて思いながら読み進めましたがミステリーとは違いますが先が気になるストーリー展開、ちょっとした伏線もきっちりと拾ってくれる伊坂ワールド、今回も楽しませてもらいました。

春、夏、秋、冬、そして春、5つの短編集のようになっていますが、個々にちょっとした時間的なトリックがあるのは読んでからのお楽しみです。
どこかカササギたちの四季、に似ていないこともない大学生の平凡な日常、しかし賭けボウリングだったり探偵ごっこだったり超能力詐欺だったり、自分の学生時代を思い起こせばまずあり得ないイベントにワクワクしてしまったのは憧れが理由なのか、いろいろとありながらも全員が前向きに生きているのが羨ましくもなります。
砂漠にも雪を降らせられるんですよ、と超ポジティブな西嶋には社会という砂漠に是非とも雪を降らせてもらいたいですし、西嶋と東堂、鳥井と南、そして北村と鳩麦さんのその後も気になる、気になる、そして理想と現実のギャップを語る「なんてことは、まるでない」、が最後の最後にひっくり返ったのが微妙、でも素敵、のはずだ。


2017年12月29日 読破 ★★★★☆(4点)



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探偵は吹雪の果てに

2017-12-20 00:02:00 | 読書録

探偵は吹雪の果てに

早川書房

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久しぶりにススキノに帰ってきました。
前作の最後が春子から妊娠を告げられたところでしたのでどうなっているのかとわくわく、しかしまさか15年もの歳月が流れているとは、これを想像するのはさすがに無理でしょう。
俺、は45歳、探偵もどきの生活は変わらず、春子とも別れて一人息子は中学生、しかしそんな家庭の話はさして出てきません。

物語はもっと昔、学生時代に知り合った純子、とひょんなことから再会をするところから始まります。
その純子に頼まれて手紙を片田舎の元町長に届けに行ったことで地元の暴力団に絡まれ、そして最後が悲惨なのはこのシリーズでは珍しくありません。
ステレオタイプ的な見方ではありますが田舎特有のムラ社会、とでも言いますか、排他的ながらも物珍しさに群がるところ、あるいは人々の格差、不正など、ここがこの作品のテーマではないかと思えるぐらいにこれでもか、とイヤになるほど執拗に描かれています。
なかなか話が前に進まず、またお馴染みの高田、桐原がほとんど出てこない寂しさ、そんなもどかしさがマイナスポイントで、そしてエピローグをどう受け止めるかによって評価が分かれそうですが個人的には前向きに考えたく、純子の涙、ということにしておきます。


2017年12月18日 読破 ★★★★☆(4点)



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光待つ場所へ

2017-12-04 00:20:01 | 読書録

光待つ場所へ

講談社

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辻村深月の短編集ですが、いきなり数ページのプロローグ的なものから始まりましたので、連作短編集かと思ってしまいました。
ただそれぞれに関連性はありませんがテーマは一貫していて、どこか青臭い、まさに青春ストーリーのような展開はしかし汗と涙と友情の物語ではなく、人間が誰しも抱えている弱さ、プライド、孤独、嘘、など負の側面をそれでいてさらっと、あまりドロドロとさせずに書き上げているところはさすがです。
この年齢になると遠い過去になってしまった学生時代、それでも胸にチクリと刺すような痛み、誰もが思い当たるであろう心情が丁寧に描かれています。
いわゆるミステリー仕立てではなくどんでん返しもありませんがあっと思わせる仕掛けもまさに辻村ワールド、ファンからすればたまらない一冊です。

逆に言えば、一見さんには厳しいと言いますか、おそらくはその魅力の全ては味わえないでしょう。
ここまでの長編の登場人物のスピンオフ作品でもあり、それを知らずとも何ら問題はないのですが、それでも知っていると知らないとでは大違いなのも実際のところです。
やはり順番を追ってここにたどり着くのがよいと思いますし、チハラトーコの物語、に至ってはその半分も理解できずに何となく読み終わってしまうかもしれません。
いくつもの思いを踏み越えて光待つ場所へ行き着くことができるのか、主人公たちとともに歩むためにもこちらから、をお薦めします。


2017年12月2日 読破 ★★★★☆(4点)



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