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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
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軍配者

2017-11-25 00:31:59 | 読書録

早雲の軍配者(上)

中央公論新社

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早雲の軍配者(下)

中央公論新社

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信玄の軍配者(上)

中央公論新社

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信玄の軍配者(下)

中央公論新社

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謙信の軍配者(上)

中央公論新社

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謙信の軍配者(下)

中央公論新社

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軍配者とは出陣に際して日取りや方角の吉凶を占い、また天文や陰陽道、易経などを司り、そこから戦術に特化をしたものが戦国後期の軍師と言われているそうです。
この軍配者シリーズ三部作では北条氏の風間改め風摩小太郎、武田氏の山本勘助こと四郎左、扇谷上杉氏から長尾氏に転じた曽我改め宇佐美冬之助の三人の軍配者を主人公に、その三人の付かず離れずの40年以上もの友情をベースに武蔵、信濃での争いをほぼ史実になぞらえて描いています。
ただ最初から三部作の構想だったのか流れでそうなっただけなのか、どちらかと言えば後者ではないかと思える中途半端さもあり、そのボリュームほどの読み応えには欠きました。

コーエーの三國志のような奇想天外な設定はどうかとも思いますが、軍配者、と銘打った割には平凡、軍師との違いがよく分かりません。
そもそも軍配者であろうが軍師であろうが小太郎、四郎左、冬之助の存在感が今ひとつで、どちらかと言えばこの三人の目を通した伊勢早雲、武田晴信、長尾景虎の人となりが中心でもあり、仁徳の早雲、情実の晴信、軍神の景虎がメインテーマにすら思えてしまうのが実際のところで、タイトルに偽りあり、でもあります。
小太郎は足利学校で軍配者としての学びが全てと言ってもよく風摩一族の諍いも尻切れトンボ、一番に軍配者らしき働きのあった四郎左も失敗が目立ち、冬之助に至っては景虎の天才ぶりに舌を巻く始末、これではまるで軍配者は無能、不要としたかったのかと思えてしまうぐらいです。
川中島での四郎左の死を以て物語は幕を下ろしますが、せっかくに面白い題材を引っ張り出してきただけに残念至極、期待ハズレの軍配者たちでした。


2017年11月22日 読破 ★★☆☆☆(2点)



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愚か者死すべし

2017-10-22 00:06:38 | 読書録

愚か者死すべし

早川書房

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前作で消化不良ながらもバックボーンたるテーマを片付けての第二幕、新シリーズに入った沢崎シリーズです。
銃撃事件の犯人として自首をした今はレストランを経営する元暴力団員、その娘からの依頼で沢崎が例によって余計なことにまで首を突っ込んでいろいろな闇を暴きます。
老齢な男性の誘拐事件、公安を名乗る謎の人物、いろいろな要素が絡み合ってのハードボイルドは、シリーズに相応しい出来栄えでした。

一直線は面白くありませんし、ここそこに蒔かれた伏線を拾い上げてこそのミステリーですが、そのバランスが素晴らしいです。
思わせぶりな描写をしながらもストーリーとは全く関係がなかったり、そう思ってみれば意外に裏側で繋がっていたり、それでいて単なるサブストーリーだったり、真相にたどり着くにはかなり強引なやり方もこの作者らしいのですがやられた感は半端なく、なかなかに読み応えがあります。
意外に小心者な内面とは裏腹に常にクール、そして不思議なぐらいな正義感と洞察力、登場人物に「やっかいな探偵」と評される沢崎の真骨頂でしょう。
もったいないのは錦織、橋爪といったお馴染みの面々がちょい役でしかないのは仕方がないにしても凄まじいまでの遅筆で、作品内では数年しか経っていないのに前作から9年も経過をしていることで時代背景が実年数だけ進んでしまっていて、珍しかったはずの携帯電話がここでは普通に使われていたりもします。
そして新シリーズの二作目は13年が経過をしても発表をされていないことからしての自然消滅なのか、残念至極です。


2017年10月19日 読破 ★★★★☆(4点)



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さらば長き眠り

2017-10-08 02:31:05 | 読書録

さらば長き眠り

早川書房

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短編集ながらも繊細な心理描写にうならされた沢崎シリーズ、それでもやはり長編こそが持ち味が発揮できる舞台なのでしょう。
甲子園のベスト8を争う試合で敗れた後に八百長の疑いをかけられた甲子園球児、その疑いが晴れる前日に義姉が投身自殺をしたことを信じられずに11年間を過ごしてきたところで、義母の死で改めてその真実を知るべく沢崎の元を訪れるところから話が始まります。
沢崎の調査が始まるとともに依頼者が暴漢に襲われ、また沢崎自身も襲撃されるなどきな臭い状況の中から見えてくる長き眠りの真相、読み応えバツグンでした。

ハードボイルドな雰囲気はそのままに、本格的な謎解きを堪能させていただきました。
さすがにこの展開は読み切れずに白旗状態でしたが、しかし解き明かすための材料はキッチリと描写されていましたので文句のつけようがありません。
前作ほどに内面に踏み込めてはいませんが登場人物のそれぞれが真に迫っていて、まるで映像を見ているかのようです。
これ、映画化をすればヒット間違いなしではないか、と思いつつも原作をぶち壊すような作品も少なくありませんから、やはり小説として読むのがよいのでしょう。
シリーズの根幹でもある渡辺の行方が判明して一区切りをしながらも謎は謎のまま、なのがもどかしくもありますが、お馴染みの錦織、橋爪らも脇役ながらもいい味を出していましたし、このシリーズはどの作品も満足させてもらいましたが一番の出来栄えではないかと思います。


2017年10月6日 読破 ★★★★★(5点)



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天使たちの探偵

2017-09-23 01:23:10 | 読書録

天使たちの探偵

早川書房

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沢崎シリーズの短編集です。
ハードボイルドな雰囲気を醸し出しつつ、しかし繊細な心理描写が際立っていて短くも奥が深く、今回も楽しませてもらいました。
ぶっきらぼうな沢崎はしかし金にもならないことに首を突っ込み依頼者の悩み、迷いを解決していく、仕掛けも無理がありませんしスッと入ってくる出来映えです。

惜しむらくは短編がゆえにシリーズのバックボーンたる渡辺の行方にからむテーマが置き去りにされていることで、錦織、橋爪といったお馴染みの面々もちょい役でしかありません。
長編の合間に執筆したものを集めたもののようなのでその前後関係も怪しい、と言いますか、どうやら先読みをしてしまったものもあるようです。
実のところ立て続けに長編を読み始めたのですがここで登場をするエピソードがちらほらと出てきて嬉しくもある一方で、しかしエピローグ的な最後の、後書きかとも思えるような数ページはシリーズの根幹を揺るがしかねない描写がありますので読まないことをお奨めします。


2017年9月14日 読破 ★★★★☆(4点)



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後白河院

2017-09-14 01:42:40 | 読書録

後白河院

新潮社

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朝廷から武士に政権が渡る一つのきっかけとなった保元・平治の乱、その中心人物の一人である後白河法皇は源平、もしくは頼朝と義経、あるいは奥州藤原氏をも手玉に取った存在とも言われていますので、その手練手管がメインに描かれているものだと思っていました。
しかし四部構成となっているこの作品は周りにいる人物の視点から描かれており、一人称としての後白河法皇は登場をしません。
それぞれの立場からの主観的ではありながらも全体を俯瞰するような記述は正確に史実を描写しているのかもしれませんが、しかし物語としての権謀詐術な、鵺のような生き様を期待していただけに肩すかしではあり、気がつけば中盤からは流し読みとなってしまいました。

平信範、建春門院に使えた女房、吉田経房、九条兼実が語り部となり、崇徳上皇と後白河天皇との争いと藤原信西、後白河法皇と平氏とのバランサーだった建春門院、源平の争いの中での後白河法皇、そして鎌倉幕府となってからの朝廷の有りよう、を語っていきます。
信範は「兵範記」を、兼実は「玉葉」を遺すなど時代を語るに相応しい人物を配したのが史実感を後押ししており、そこに抵抗感はありません。
ただやはり人間としての後白河法皇の体温が感じられないのが致命的でもあり、平清盛や源義朝らですらナレ死で表舞台から消えていく、第四部に至っては後白河法皇が死去してからのものだったりもしますので何をか況んや、原書を読めない人に対する噛み砕いた歴史書といった感じで面白くありませんでした。


2017年9月7日 読破 ★★☆☆☆(2点)



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臨場

2017-09-10 00:24:47 | 読書録

臨場

光文社

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64(ロクヨン)とは対極にあるような短編集、あまり意識をせずに観たのですが映画化もされている臨場です。
その卓越した能力から通常の異動期間を越えて在任し続けることで終身検視官、と呼ばれる倉石警視を主人公に、死体、それを取り巻く状況から真相を明らかにしていきます。
組織としては異物ながらもその実力を認めざるを得ない、そんな倉石がただ謎を明らかにするだけではなくその人生をも解き明かしていく、ぎゅっと凝縮された検視に圧倒されました。

主人公とは言いながらもどちらかと言えば脇に控えて、物語の語り部は他の人物がほとんどです。
自殺なのか他殺なのか、死因がはっきりとしない死体にまつわる物語、そこには重苦しい過去が詰まっていて胸が締め付けられますし、人間の醜さ、汚さが横たわっているのですが、しかしそこにぶっきらぼうながらも人間味があふれる倉石が登場をすると場が引き締まり、否が応にも盛り上がります。
ときには黒星を喫しても真相を明らかにすることを、死体の名誉を守るなんてのには震えるしかなく、映画の出来も悪くはありませんでしたがこの原作を前にすれば駄作だったのかもしれず、そうなればドラマも然りではありますが、それでも興味が出てくるだけの名作でした。


2017年8月30日 読破 ★★★★★(5点)



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万能鑑定士Qの探偵譚

2017-09-02 01:21:03 | 読書録

万能鑑定士Qの探偵譚

角川書店

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お久しぶりの凜田莉子です。
推理劇で小物感を漂わせていたコピアとの対決を制しながらも心に傷を負って故郷の波照間島に戻った莉子と、それを追うように八重山オフィスを立ち上げた小笠原悠斗、これで大団円かと思いきやの続編は結果的に大コケした映画を盛り上げるためだったのか、あれはキャストと取り上げた題材が悪すぎました。
それはさておき、かなり間隔が空いたこともあってかマンネリ感が薄れたのは個人的な事情、テンポのいい切れ味のある展開がお約束のQシリーズです。

コピアの謎が解き明かされながらも敵なのか味方なのか、これが次に続くかどうかは分かりませんが、微妙な人間関係だったりもします。
そこは落ち着いたかと思っていた莉子と悠斗との関係も然り、今作はそこに力点を置きすぎていたのがマイナスではありました。
それでも謎解きはさすがにQシリーズ、偽札騒動はさておき胡散臭い投資セミナーのからくりは実際にありそうで、うまい話には裏があるといったところでしょう。
シリーズはあと二冊、別シリーズの探偵の鑑定に登場して最終巻に繋がるようですので読む順番が難しそうで、まずは探偵の探偵シリーズをこなしてからになりますので1年ぐらいは先になりそうですが、焦らず慌てずじっくりと、足掛け7年の鑑定士ぶりを楽しませていただきます。


2017年8月25日 読破 ★★★★☆(4点)



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QED 九段坂の春

2017-08-20 01:17:45 | 読書録

QED 九段坂の春

講談社

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QEDシリーズでは初の短編集です。
四季にちなんで春は桑原崇、夏は棚旗奈々、秋は小松崎良平とくれば冬は棚旗沙織、かと思いきや意表を突いての御名形史紋を主人公に、また岩築竹松や堂本素直、海妖房の主や名前だけですが神山禮子らが脇を固めて、しかも中学生だったり高校生だったり、若かりし頃のエピソードとなっています。
それぞれが独立をしているようでお互いが微妙に絡み合う、その世間の狭さはファンへのサービスなのでしょう。

どうしても短編ですので奥深さには欠けますが、QEDシリーズらしさは健在です。
主人公らを取り巻く状況に歴史的人物の逸話を、例のごとく裏の裏を解説してくれます。
タタルであればまだしもそこいらの学生が蘊蓄を語るのには違和感がありますがそこはお約束でもあり、そして人の繋がりを軸に連作短編集に仕上げているのはさすがでした。
ただそれであれば春と冬だけではなく夏と秋ももう少し絡めて欲しかったりもして、贅沢な不満を挙げておきます。
とにもかくにも彼らが巡り会ったのは必然だったんだなぁ、とニヤリとすれば作者も本望でしょう、遠慮なくニヤリとさせてもらった青春群像でした。


2017年8月17日 読破 ★★★★☆(4点)



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ダナエ

2017-08-16 00:19:02 | 読書録

ダナエ

文藝春秋

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前回に続いて短編と言いますか中編と言いますか、持ち味が活きるのは長編と決めつけている藤原伊織ですが、しかし今回は短めでもいいな、と思わせてくれる渋さがありました。
きっと作品の中でしか生息をしていないであろう、哀愁の漂う大人の男の物語です。
あまりに格好がよすぎて体温が感じられないような思いが無いわけでもないですが、どこか陰があるからこそ潔さが際立つ、久しぶりの満点に躊躇はありません。

ミステリーとしての仕立ては、どうしても長編には敵いません。
それでもその先がどうなるかが気になってしまうハラハラ感があり、そして登場人物が魅力的なのはいつものとおりです。
表題となっているダナエは主人公である画家の描いた義父の肖像画が展覧会で傷つけられるところから話が始まり、犯人と思しき一人の少女を中心に、過去のレンブラントの同様の事件と重ね合わせるように主人公を取り巻く人間関係が描かれていきます。
他の二編もそうですが全体的に重めの雰囲気ですが皆まで書かない結末に前向きな未来を思い浮かべられるのが不思議でもあり、そこが作者の筆力なのでしょう。
長編だけではなく短編でもこれだけいろいろなものが凝縮された作品なのですから、やっぱり藤原伊織はいいな、と再認識をさせられた男の生き様でした。


2017年8月12日 読破 ★★★★★(5点)



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秀吉の枷

2017-08-14 02:17:40 | 読書録

秀吉の枷(上)

文藝春秋

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秀吉の枷(中)

文藝春秋

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秀吉の枷(下)

文藝春秋

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信長の棺、の続編と言いますが裏側と言いますか、前作では太田牛一の視点で本能寺で横死した信長の亡骸が焦点となっていましたが、この作品でも設定は同じで秀吉の立場からの本能寺の変が描かれるとともに、天真爛漫な天下人秀吉らしからぬ枷に縛られていく晩年は哀れでもあります。
老いていく中で秀頼の行く末に心を残していく秀吉は珍しくもありませんが、しかしこの切り口は斬新、今の世であれば当然のように思える「真実」を当時に当てはめているのは意外に多くはないのではないかと、そういう意味では腹に落ちますし、天下人のプライドが結局は豊臣氏を滅ぼしたと考えれば皮肉、しかし世の中はそういうものなのでしょう。

出自への誇り、朝廷への思い、信長への冷めた目、そして後継者への執念、いろいろな枷が秀吉の生き方を決めていきます。
秀吉にとっての本能寺の変への動機が前作にプラスされますが謎解きを期待すると裏切られますので、そういう意味ではシリーズものとして読むのがよいと思います。
上中下巻でボリュームはありますし読み応えはありますがテーマがテーマだけに全体的には暗め、後ろ向きで、中盤以降は世継ぎを巡る女たちの争いが中心となりますので好き嫌いが分かれそうな、個人的には嫌い、秀吉の逡巡はありながらも闇の冴えが鈍って老耄ばかりが目立つのが面白くありません。
枷に囚われて墜ちていくのは因果応報ではあるものの秀吉には最後まで秀吉であって欲しかった、枷に負けた秀吉にマイナス☆1つです。


2017年8月8日 読破 ★★★☆☆(3点)



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カササギたちの四季

2017-07-23 00:08:01 | 読書録

カササギたちの四季

光文社

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3年ぶりの道尾秀介です。
その3年前の向日葵の咲かない夏があまりに気持ちが悪く、おぞましく、読後感が最悪でずっと敬遠をしていたのですが、そこは貧乏性、やや微妙な感じはありましたが最初に読んだソロモンの犬がそこそこだったのと安売りをしていたことで著作をゾロッと買ってしまったので、こわごわと久しぶりに手にしました。
結果は拍子抜けと言いますか同じ作者とは思えないほのぼの感があり、どぎつい殺人事件などもない身近な謎を解いていく、そんな児童書に近い作品です。

店主の華沙々木、副店長の日暮、たった二人で営むリサイクルショップ・カササギがその舞台です。
そうなれば主人公は華沙々木、ではなく日暮の独白が中心で、何かと謎に首を突っ込みたがる探偵気取りの華沙々木と、その華沙々木に救われたと信じて崇拝する中学生の南見菜美、そして菜美を失望させないよう裏働きに奔走する日暮、タイトルの四季ほどに季節感はありませんが、四つの短編で構成されています。
事件も人情の絡むお涙ちょうだい的なところがありますからTVドラマの題材にもぴったりで、いわゆる悪人もちょっと抜けていますし、安心印の道尾秀介でした。


2017年7月20日 読破 ★★★★☆(4点)



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原子炉の蟹

2017-07-17 00:02:00 | 読書録

原子炉の蟹

講談社

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原発の下請け業者の社長が失踪、その後に青函連絡船での投身自殺から始まる連続殺人は「サルカニ合戦」を模した事件に広がりを見せて、その謎を探る新聞記者の物語です。
事件を隠蔽しようとする電力会社、都合の悪いことは警察権力を駆使してでも闇に葬ろうとする政府関係者と、福島原発事故の経緯からすれば珍しくもなく、そうだろうなと思ってしまう内容ではありますが、しかしこの作品が1981年のものとなれば慧眼なのか、それとも事故が起きて初めて表面化をしただけの「常識」なのか、おそらくは後者なのでしょう。
九十九里浜原発という架空のものではありますが首都圏に限らず次にまた同じような災害が起きれば日本にとっては致命傷になるはず、それでも次々と「規制基準に適合していると判断しているだけで安全と言っているわけではない」と言い放つ原子力規制委員会のお墨付きを受けて再稼働をする原発、喉元過ぎれば、です。

しかしこの江戸川乱歩賞を受賞した作品は、原発の闇をテーマとした社会派サスペンスではありません。
福島原発事故を経たからこそそういった思いで読んでしまう、そういう意味では作者が意図したものとは違う受け止め方をしてしまったのでしょう。
それでも被害者が握りしめていた紙に書かれた「サルカニ合戦」を見立てた殺人、その裏に隠された恨み、そして復讐の虚しさ、後悔、崩れていく幸せ、ただの殺人事件ではないいろいろな要素が入り乱れているからこその受賞なのでしょうし、30年以上も前のものですから古くささは否めませんが、そんな今だからこそ手にすべきだと思います。


2017年7月14日 読破 ★★★★☆(4点)


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幻海

2017-07-14 00:57:54 | 読書録

幻海

光文社

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戦国末期の日本を訪れた宣教師が主人公と、またニッチなところを突いてくる伊東潤です。
プロローグやエピローグは肩すかしと言いますか、その「秘密」に期待を持たせすぎではありましたが、題材としてはなかなかに面白かったです。
岩見重太郎や向井弾正などこれまたマイナーな、あるいはそれっぽい武将を引っ張り出してくるのもgoodでした。
しかし残念ながら個々の素材はよいのですがストーリーがイマイチで、終盤には苦痛になってしまったのが正直なところです。

伊豆半島にある「幻の国」「膨大な金山」は中途半端ではありましたがこちらでも取り上げられていましたし、実際のところはさておき、それに近い伝承があったのかもしれません。
ただ伊豆はさほどに山深い印象はありませんし秘境に潜む謎の一族、なんて設定はその時代背景からして無理があるような、まあそれはそれです。
問題は何がテーマかが判然としなかったことで、宣教師ながらも布教の描写はほぼ無く、むしろ何だかんだ理由をつけて神の教えに背く行為に手をつける主人公、そして消化不良な海戦とあっちゃこっちゃに散らばったまま収集がつかずに尻切れトンボな幕切れ、この作家としてはここまでで一番の駄作に思えた「黒い竜」でした。


2017年7月9日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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ダブルダウン

2017-07-11 01:31:13 | 読書録

ダブルダウン

講談社

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岡嶋二人の作品は2時間ドラマの原作にぴったり、どぎつい殺人などはありませんし軽いタッチで展開をしていくのが常で、その反面で謎解という点ではやや物足りなくはあります。
しかし今回は疑わしき人物はいますし推理のネタもここそこにあるのですが、見事なぐらいな引っ掛けでやられたといった感じです。
推理をする楽しみ、それをそのまま主人公に推理をさせてひっくり返される、ある意味で王道とも言える推理小説でした。

ボクシングの四回戦、かたやデビュー戦、かたや二戦目のボクサーの対戦は二人ともが試合中に倒れて命を落とすところから物語は始まります。
まさにダブルダウンなのですが死因は青酸化合物による毒死、花束贈呈をした謎の女性、セコンドと同じTシャツを着た不審な人物とまさに事故が事件に様変わりをして主人公の編集者、雑誌記者、元ボクサーの評論家がその事件を追っていきますが、殺人方法も二転三転、新たな犠牲者も出て、息つく暇もありません。
真相はやや掟破りな感もありますがさほどに奇想天外なわけでもなく、心地よい騙され方、作者自身が駄作と評しているようですが、なかなかに楽しませてもらいました。


2017年7月8日 読破 ★★★★☆(4点)


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人形館の殺人

2017-07-08 00:34:00 | 読書録

人形館の殺人

講談社

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これを館シリーズに入れるべきなのか、極めて疑問に思える人形館です。
シリーズのキーワードは中村青司と島田潔、遊び心なのかからくりを仕掛けるなど特異な設計となっている中村青司が手がけた館と、そこで起きる事件、そして島田潔が名探偵として登場、がこれまでの展開でしたが、基本的にはそこから大きく外れてはいませんが衝撃的、いや笑劇的なラストにはビックリ仰天、さすがにこれは無いでしょう。

衝撃的ではありましたが、事件の謎があまりにチープだったのにはがっかりとさせられました。
彫刻家の父が亡くなりその旧家に移り住んだ主人公と、その主人公に「過去を思い出せ」と迫ってくる姿を見せない謎の脅迫者、そして奇怪な人形、父の遺したのっぺらぼう、かつ体の一部が欠けた作品がここそこに飾ってあることで人形館と呼ばれる住居兼アパートで事件は起きます。
しかしそのトリック、脅迫者とも早い段階で想像がついてしまい、まさかこれじゃないよな、引っ掛けだよな、の願いも虚しく、その種明かしには落胆しかありませんでした。
さすがに種明かしに至る仕掛けまでには気がつかず、そこは全面降伏でしたが、それが結果的にシリーズを否定することにもなりますので微妙ではあります。
あまり間を空けずに、本当の中村青司と島田潔に会いたい、といったところです。


2017年7月6日 読破 ★★★☆☆(3点)


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