電脳筆写『 心超臨界 』

リスクを取らなければ敗北することはない
だが、リスクを取らなければ勝利することもない
( リチャード・ニクソン )

読むクスリ 《 火箸とマイクの仲——河野治 》

2024-07-12 | 05-真相・背景・経緯
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糸を持ってぶら下げた瞬間、二本の箸は触れ合って、チン、と澄んだ音を立てた。「これだ!」。思わず河野さんは叫んで、友人をびっくりさせた。何度揺すっても、同じ音で鳴る。しかもその音は透明なうえ余韻がある。これこそ、サウンドチェックの理想的な音源だった。開発中のマイクの前で毎日、河野さんは明珍火箸をぶらぶらさせるようになった。朝から晩まで、チン、チン、音が鳴っている。


◆火箸とマイクの仲

『読むクスリ 30』
( 上前淳一郎、文藝春秋 (1998/12)、p47 )

「アー、ただいまマイクのテスト中」

運動会の朝、先生がマイクを叩いたりしながら、声を張り上げている。

もしマイクの調子が悪いと、運動会は統率がとれなくなり、興ざめになる。

カラオケセットだって、どんなにアンプやスピーカーが高価でも、マイクが悪かったらあなたの美声は死んでしまう。

音は出口よりむしろ、入口のほうが大事なのだ。

「とりわけCDを録音するような業務用マイクの開発には、細かすぎるほど神経を使います」

とソニーのB&Pカンパニー課長、河野治さん。

ナマの音を忠実に拾っているか、音の質はどうか。ノイズレベルが高すぎたり、低すぎたりしないか……。

「そうした点について、実際に音源を使いながら、サウンドチェックを繰り返していきます」

     *

しばらく前、真空管を使ったレコーディング・スタジオ用収音マイクの開発にとりかかっていた河野さんは、そのサウンドチェックに悩んでいた。

当時、レコーディング・スタジオ用はドイツのノイマン社の独壇場で、日本の音響機器メーカーはまったく歯が立たなかった。

「それをひっくり返してやろう、と意気込んでいたのですが、微妙な音の再現が要求されるだけに、サウンドチェックが思うように進まないのです」

いろんな音源を試してみた。

まず歌が得意な人に頼み、開発中のマイクの前で歌ってもらって、音をチェックする。

ところが、同じ人の声なのに、日によって再生される音がデリケートに違ってくる。

「それが、マイクの周波数特性が悪いのか、それとも歌う人が風をひいたせいなのか、はっきりしないんです」

では、人間の声でなく、打楽器でやってみよう、と太鼓を叩くことにした。

しかし、これも、叩く力の入れ方が変わると音も変化し、正確な再現性がチェックできない。

オルゴール、拍子木……、さんざん失敗を繰り返した。

     *

そんなある日、河野さんは兵庫・姫路の友人から、鉄製の火箸(ひばし)をもらった。

「姫路の名産でね、明珍(みょうちん)火箸というんだ。明珍家はもともと甲冑師(かっちゅうし)の家柄で、刀の鍔(つば)なども作っていたんだよ」

いまは火鉢で火箸を使うことはめったにないので、何本かまとめて窓辺に下げ、風鈴代わりにすることもあるのだという。

鉄細工の伝統を誇るだけに火箸は、すらり、と長く美しい姿で、二本の太いほうの端が糸で結んである。

糸を持ってぶら下げた瞬間、二本の箸は触れ合って、チン、と澄んだ音を立てた。

「これだ!」

思わず河野さんは叫んで、友人をびっくりさせた。

何度揺すっても、同じ音で鳴る。しかもその音は透明なうえ余韻がある。

これこそ、サウンドチェックの理想的な音源だった。

     *

開発中のマイクの前で毎日、河野さんは明珍火箸をぶらぶらさせるようになった。

朝から晩まで、チン、チン、音が鳴っている。

「立ち上がりの音の鋭いところがいいんです。それに高音は伸びるし、低音はよく広がる。なにより、耳に快い音なので、チェックしていて楽しいんです」

開発はとんとん拍子に進み、収音マイクは4年後に完成した。

レコーディング・スタジオ用だけに1本70万円するが、いまではこのマイクは世界中で使われる傑作モデルになった。

「このマイクでなければ歌わない、と自分専用のを持つ歌手が現れるまでになったのですよ」

いま河野さんの部屋には、明珍火箸が何セットも置いてある。

「海外からのお客さんがありますと、差し上げるんです。ぶら下げて鳴らしながら、これが日本の音です、といって」
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