孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海  領有権主張を強める中国 難しいASEAN諸国の対応

2011-05-24 20:40:19 | 国際情勢

(南シナ海で、アメリカの強襲揚陸艦エセックス、ドック型輸送揚陸艦デンバーと共に作戦行動するフィリピン海軍艦艇 “flickr”より By Former Navy Gallery - New One is USNavy URL http://www.flickr.com/photos/usnavynvns/4440265617/

核心的利益
南沙(スプラトリー)諸島は、中国、台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンの6力国がそれぞれ、全体あるいは一部の領有権を主張しています。
周辺海域には天然ガスや石油などの資源が豊富で、漁業資源も多いこと、また、海上交通や軍事上の要衝でもあることから、領有権を巡る対立が続いています。
同様に西沙諸島でも、中国とベトナムが領有権で対立しています。

特に、中国は近年これら南シナ海での領有権主張を強めており、2010年3月戴秉国(タイ・ピンクオ)国務委員が訪中した米政府高官に、南シナ海が台湾やチベットと同列の「核心的利益」にあたると伝えとされています。

「核心的利益」という表現については、その後アメリカや東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係国が強く反発したことから、中国国内で強硬姿勢を続けることは外交全体の柔軟性を損なうとの議論もあって、「南シナ海を『核心的利益』とは言っていない」と、アメリカ政府に核心的利益とする立場を事実上取り下げる姿勢を示したとの報道もあります。【10年10月22日 共同より】

ベトナムの南沙諸島での選挙に中国反発
ただ、どういう表現を使用するにせよ、今後空母を同海域に展開させるとも思われ、現実的には南シナ海での強硬な姿勢は変えておらず、関係国との軋轢が強まっています。

昨日のブログで扱ったベトナムの国会議員選挙について、ベトナム側がスプラトリー(南沙)諸島でも実施することに関し、中国は強く反発しています。
****南沙諸島での選挙めぐり応酬 中国「非合法」/越「内政問題*****
ベトナムは22日の国会議員選挙を、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島でも実施する。これに南シナ海のほぼ全海域の領有権を主張する中国が反発、ベトナムも反論するなど応酬が繰り広げられている。
(中略)ベトナムが実効支配する南沙諸島の一部は、中南部カインホア省の一郡と位置づけられ、「有権者」は駐屯する軍兵士らだ。

これに対し、中国外務省は10日、「選挙は中国の主権の侵害であり、非合法、無効だ」と非難。ベトナム外務省も12日、南沙諸島での選挙は「ベトナムの内政問題だ」と反発した。
中国は先月、南沙諸島などの領有権を主張する文書を、国連事務総長に送付。ベトナムも今月、「ベトナムの不可分の領土だ」と反論する文書を事務総長に送った。

南沙諸島はフィリピン、マレーシアなども領有権を主張しており、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2002年に平和的解決をうたった「行動宣言」に署名している。ASEANは宣言を法的拘束力のある「行動規範」に格上げすることを目指しているが、中国は消極的だ。

温家宝首相は先月末、ASEAN議長国のインドネシアと、マレーシアを歴訪。インドネシアへの約90億ドルの融資、マレーシアとの経済協力拡大で合意する一方、「領有権問題は2国間で解決すべきだ」とクギを刺している。【5月15日 産経】
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フィリピン資源探査船を中国艦艇が「妨害」】
また、中国・フィリピンの間でも摩擦が強まっています。
****比、南シナ海防衛強化 中国との摩擦に対応****
南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の領有権を巡り、中国などと対立しているフィリピンが同諸島付近での防衛力強化を急いでいる。エネルギー開発を進める同諸島近海で、中国との摩擦が起きているためだ。
「緊張を緩和するか、終わらせなければ(軍事)衝突になってしまう」。フィリピンを訪間中の梁光烈・中国国防相との会談を23日に控え、アキノ大統領は22日、南シナ海問題を平和的に解決する行動規範策定への協力を梁国防相に改めて求める考えを示した。

 資源眠る海域舞台
両国間の摩擦の舞台となったのは、豊富な石油とガスの埋蔵が期待される南シナ海のリード礁だ。フィリピン国防省によると3月2日、リード礁の資源探査をしていたエネルギー省のチャーター船が、中国艦艇2隻に停船を命じられた。フィリピン側が哨戒機を飛ばすと中国艦は去ったが、両国間でこうした事件が起きたのは初めてという。
フィリピン側の抗議に対し、中国は「南沙諸島は我が国の領土」と反論。4月に入り、両国は「中国の領土主張は根拠がない」(フィリピン)、「南沙諸島はフィリピンに侵略・占領された中国の領土」(中国)などと、さらに言葉を強めた文書をそれぞれ国連に提出し、非難の応酬をヒートアップさせた。
さらに、フィリピン国軍は5月21日、国籍不明の戦闘機2機が11日にリード礁付近を「領空侵犯」していたことを明らかにした。

 かけ離れた海軍カ
フィリピン側が身構える背景には、エネルギー開発がある。アルメンドラス・エネルギー相は4月末、リード礁に同国最大のマランパヤ天然ガス田を上回る埋蔵量のガスが眠る可能性が高いことを明らかにし。
「新しいガス田開発は我が国の最優先課題。開発投資を守るためにレーダー基地、艦艇、ヘリなどが必要だ」と、国軍による防衛力強化の必要性を訴えた。

アキノ氏も、9機の航空機と3隻の海軍用艦艇取得のために119億ペソ(約226億円)の追加予算支出を国軍に認めた。オバン国軍参謀長は19日、これらの装備を「南シナ海での中国の軍事力強化に対応するため」と説明。将来的には初の潜水艦導入も検討することを示唆した。
それでも、中国の海軍力とは比較にならない。フィリピン海軍の旗艦は、米国が第2次世界大戦中に建造した旧式駆逐艦。米沿岸警備隊から購入した1960年代建造の大型巡視船が8月に届く予定だが、空母の建造も進める中国には太刀打ちできない。

 日米に支援求める
圧倒的な軍事力の差を前に、アキノ氏は4月9日の演説で「日本と米国以上の友人はいない。我が国の安全と主権が脅かされた時、日米は必ず我々の側に立ってくれる」と演説し、日米に支援をを求めるとともに中国を牽制した。【5月23日 朝日】 
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フィリピン訪問中の梁光烈・中国国防相とアキノ大統領の会談では、3月に起きたフィリピン資源探査船の中国艦艇による「妨害」など特定の事件には触れず、南シナ海問題については緊張緩和に向けて対話を続けることとし、今秋にも計画されているアキノ大統領の初訪中に向け、問題を棚上げした形となっています。

【「行動規範」目指すASEAN
一方、関係国が多く加盟するASEANは、19日の国防相会議で、圧倒的な軍事力格差のある中国に対し、南シナ海問題での協力強化を合意しています。

****ASEAN:南シナ海問題で協力強化…国防相会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、インドネシアのジャカルタで国防相会議を開き、一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海問題や防衛面での協力強化を盛り込んだ共同宣言を採択した。
06年のASEAN国防相会議開始以来、共同宣言で南シナ海問題に言及するのは初。同海域での「航行や上空飛行の自由」の重要性を再確認する文章などを盛り込み、2国間交渉での解決を主張する中国をけん制した。(後略)【5月19日 毎日】
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ASEAN側は、2002年の「南シナ海行動宣言」を効果的に実施し、法的拘束力のある「南シナ海行動規範」へと発展させることを主張していますが、中国はこれに消極的な姿勢で、「領有権問題は2国間で解決すべきだ」との立場です。

****南シナ海:中台やASEAN諸国 領有権の主張強まる****
南シナ海の領有権を巡り、経済力と軍備増強で実効支配を強化する中国、共同戦線を敷くフィリピンとベトナム、防衛強化を打ち出す台湾など、関係各国・地域の動きが活発化している。今後、シンガポールで6月3日から始まるアジア安全保障会議やインドネシアで7月に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)でもせめぎ合いが続きそうだ。

南シナ海は交通の要衝で海洋資源も豊富。中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾が一部もしくは全部の領有権を主張する。今月8日のASEAN首脳会議では議長声明で、領有権の平和的解決に向け法的拘束力の伴う「行動規範」制定のための協議開始を明記。19日のASEAN国防相会議共同宣言でも各国の協力が再確認された。

しかし、中国は多国間問題に発展することで米国の関与が強まることを警戒する。温家宝首相は先月下旬、マレーシアとASEAN議長国のインドネシアを訪問し、「領有権や海洋権益の争いは2国間で適切に解決すべきだ。問題の拡大や複雑化には賛成しない」とクギを刺した。中国国家海洋局は8日、南シナ海を担当する南海総隊に最新鋭の大型監視船「海監84」(排水量1740トン)を配備。海軍航空兵団は先月下旬、南シナ海で低空爆撃訓練を実施した。

一方、フィリピンは中国への対抗色を強め、米国からヘリを搭載できる大型巡視船(同3250トン)を購入。フィリピン海軍では最大の艦船で8月にも南シナ海に配備される。潜水艦の購入も検討し始めた。このほか実効支配する南沙諸島のパガサ島の滑走路を、大型輸送機が発着できるよう改修する方針も発表している。

領有権問題でフィリピンとの協力を確認したベトナムは22日に、実効支配する南沙諸島の一部で国会議員選挙を実施すると発表し、中国から反発を受けた。

台湾は南沙諸島最大の太平島と東沙諸島を実効支配。14年までに1000~3000トン級の大型巡視船計8隻を順次配備する方針で、先月末からは防衛強化のため常駐する海岸巡防署(海上保安庁)隊員に海軍の訓練を義務付けた。だが主要国との外交関係がなく、活発化する議論に参加できず焦りを見せる。【5月23日 毎日】
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当然ながら、南シナ海における中国の対応は、尖閣諸島を巡る日中の対立にも重なります。
中国の拡張路線に歯止めがかけられるかが注目されますが、アメリカすら手を焼く状況で、なかなか困難なものがあります。

コメント
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