
(内モンゴルで住民の抗議行動を阻止する治安当局 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5771858418/ )
【「我々の土地と権利を守れ」】
内モンゴル自治区中部の中心都市シリンホト周辺の鉱山地区で、11日、遊牧民が石炭を運ぶトラックにひき逃げされ死亡する事件がありました。
同自治区東部のシリンゴルの草原部では、一帯を走り抜けるトラックによる騒音や粉じん被害が出ていました。通行を阻止しようとした遊牧民にトラックが突っ込み、住民の中心的存在だったメルゲンさんを約150メートル引きずってひき殺したというものです。
同自治区では、炭鉱開発による大気や水質汚染の深刻化に遊牧民が反発。
更に、炭鉱開発によって地域に流入した多数の労働者が遊牧民を追放し、牧草地を破壊した上、家畜を殺すなどしたため、遊牧民の間では怒りが渦巻いていました。
住民は業者や政府に対応を求めていたことから、事故を装った殺害を疑う声も上がっています。
また、その4日後にも遊牧民1人が車の衝突で死亡しています。
この事件をきっかけにモンゴル族の住民の間で鬱積していた中国による抑圧に対する不満が噴出し、住民らは23日ごろから、死亡原因の究明やモンゴル族の人権尊重などを求めてデモを開始。
石炭やレアアースなど鉱山開発による草原破壊や、鉱山開発の恩恵が及ばないことに不満を募らせる住民にモンゴル族学生らが同調し、口コミや電子メールなどで抗議デモの呼びかけが広がりました。
****中国:内モンゴルでデモ拡大 当局が警戒強化******
中国の内モンゴル自治区で、地元政府に対するモンゴル族住民の抗議デモが拡大の様相を見せている。「我々の土地と権利を守れ」などと訴え、区都フフホト市中心部では30日に大規模デモが事前に呼び掛けられており、当局は警戒を強めている。
モンゴル族の大規模な抗議行動は異例で、他の少数民族のチベット族やウイグル族と並んで中国の「火種」となる可能性もある。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや米国に拠点がある「南モンゴル人権情報センター」などによると、最初の抗議行動は23日、自治区北東部のシリンゴル地区にある地元政府庁舎前で発生し、25日には学生ら2000人がデモ行進した。さらに27日、数百人の市民と約300人の警察官が衝突、多数の負傷者が出て、40人以上が拘束されたとの情報もある。
30日に大規模デモが予測されるフフホト市は、シリンゴル地区の中心都市シリンホトから南西に約500キロの距離にある。市内のすべての高校や大学が警察の監視下に置かれ、インターネットが通じにくくなっており、中国当局がデモの封じ込めを図っているようだ。
29日夜、記者がフフホト市内のホテルに入ると、ホテルのスタッフから訪問の目的などを詰問された。市内の主要通りには多数の警察官が配置され、通行人や若者たちの動きに目を光らせている。
同自治区は中国最大規模の石炭産地でレアアース(希土類)も豊富で、開発ラッシュが続いている。一連のデモのきっかけは、今月10日にシリンゴル地区での炭鉱開発に伴う環境破壊に対し、住宅や牧場を守るよう地元政府に対応を求めていたリーダーの男性が、石炭を積載したトラックにはねられ死亡したことだ。
ネット上には「事故は故意だったのでは」「運転手が『モンゴル族の命は軽い』と言った」などの書き込みがあり、住民が立ち上がったという。【5月30日 毎日】
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【新たな“火種”に当局は警戒強める】
当局はメディアやインターネットを規制してデモを抑え込む他、一部地域に戒厳令が敷かれたとの情報もあります。
その一方で、少数民族への支援策に資金を投入することを発表することで、住民の不満を懐柔する策にも出ています。
****内モンゴル戒厳令か 中国9800億円“懐柔策”も****
中国内モンゴル自治区で、炭鉱開発に反対していたモンゴル族遊牧民2人の事故死をきっかけに反政府抗議行動が拡大している。国際人権団体、アムネスティ・インターナショナルなどによると、中国当局は29日までに、同自治区の一部に戒厳令を敷いたもようだ。(中略)
チベット族やウイグル族による抗議活動が多発する中、モンゴル族居住地での衝突は、中国当局にとって新たな“火薬庫”となりかねないだけに、7月1日に共産党創立90周年を控える当局は、治安部隊動員やインターネット規制などを通じて、抗議行動の飛び火を押さえ込もうとしている。
一方、中国共産党機関紙、人民日報は29日、内モンゴル自治区の地方政府が、少数民族への支援策に788億元(約9800億円)以上の資金を年内に投入すると報じた。住民への“懐柔策”とみられる。【5月30日 産経】
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【沙漠化が進む内モンゴル】
今回事件の背景にもなっている内モンゴル自治区の環境破壊問題に目を向けると、近年同地域の水不足、砂漠化が報じられています
****<砂漠化>ダム建設で加速した水不足、8年内に水不足で多数の工場が生産停止へ―内モンゴル自治区*****
2010年10月14日、中国内モンゴル自治区の砂漠化について、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが伝えた。
北京市から北に1000km弱のところに広がる烏拉蓋湿地。ここに住む遊牧民によると、02年、川の上流に工業用水確保のためのダムを建設したことによって、3年もたたないうちに湿地が枯渇してしまい、今では砂嵐発生源のひとつとなってしまった。水獲得のために建設したダムのために砂漠化が進む皮肉。水不足によってこの遊牧民は所有していた牛全頭を失い、北部のモンゴル国境付近にまで移動しているが、もしここにも工場群が建ち並んだら「もう越境せざるを得ないな」とつぶやいた。
中国の急速な発展に伴い、内モンゴル自治区でも多くの採掘場や工場が次々と建設され,これらの間を鉄道や道路が走り、人口が密集する街が現れた。水資源はこれらの産業に使われ、牧場消滅の勢いはたった数年で一気に北部の国境付近にまで広がった。一部の環境保護の研究スタッフらは、内モンゴルの工業乱開発が人類史上最大規模の人為的干ばつを引き起こしたと考えている。
内モンゴル自治区と比べ、その北側に位置するモンゴル国の気候はさらに寒冷で乾燥しており、環境も脆弱だ。もし砂漠化の原因が地球温暖化であることが事実なら、モンゴル国も内モンゴルと同様の結果になるだろう。しかし内モンゴルの牧場が消失し続けているのに対し、国境を隔てた北側には依然、牧場が存在している。小山の上のゲルに住むある遊牧民は、眼下の牧場が数年で多くの採掘場や工場に占拠される過程を見てきている。これらの工場が排出する粉じんや煙により、彼の牧羊も大量に死亡し、死んだ羊の内臓は真っ黒になっていたという。
専門家によると、地表水が枯渇しつつある内モンゴルでは、一部の採掘場や工場が非合法で井戸を掘り、地下水をくみ上げている。しかし一定の深さ以上の地下水は循環せず、100万年以上をかけて蓄積された地下水が一旦消失すれば再生することはない。向こう8年以内に、内モンゴルの多くの工場は水不足により生産停止に追い込まれるだろうと言われている。【10年10月19日 Record China】
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なお、草原破壊・砂漠化は、必ずしも工場や採掘場だけでなく、地域住民自らが招いている側面もあります。
“阿拉善SEE生態協会の李鶴(リー・ホー)氏によると、草原の破壊は大きく2回の契機があったという。最初の契機は建国後の社会主義経済への移行時。植物の多くが伐採され、燃料とされた。2回目の契機は1990年代後半。草原請負制が導入され、遊牧民は定住するようになった。利益を上げようと放牧数が増え、草の根まで食べ尽くすことによって砂漠化が進行した。” 【10年3月28日 Record China】
【行方不明の活動家ハダ氏】
当局は、チベット族やウイグル族による抗議活動のような形で緊張がたかまることを警戒していますが、そうした内モンゴル独立運動関連で言えば、南モンゴル民主連盟代表を務めるモンゴル族人権活動家ハダ氏の問題があります。
ハダ氏は、1995年、南モンゴル民主連盟を率いてモンゴル族の権利の実現を要求してデモを行ったことについて、「分離活動を行なう非合法組織」として当局に逮捕されました。
その後、国家分裂罪と間諜罪により計15年の判決を受け収監されました。
“収監中、刑務所の官吏や同室の漢族囚人による虐待を繰り返し受け続け、神経炎や心臓疾患に苦しんだが、度重なる家族の要請にも関わらず刑務所側は治療を拒絶した。それにもかかわらず毎日10時間以上の強制労働が科された”【ウィキペディア】
2010年12月10日に刑期満了により釈放される予定でしたが、12月4日に妻のシンナと息子のウィレスが中国政府に拘束され、現在も家族全員が行方不明のままとなっています。
アムネスティもハダ氏とその家族の所在を明らかにするよう求めています。