孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

セルビア  スレブレニツァ虐殺の責任者、ムラディッチ被告を拘束

2011-05-27 21:46:47 | 国際情勢

(1993年8月にサラエボ空港で撮影されたラトコ・ムラディッチ被告(中央)  93年ということは、95年の“スレブレニツァ虐殺”が起きる以前になります。 軍人としては勇猛果敢と言うか、情け容赦のない人物だったようです。 “flickr”より By cvrcak1 http://www.flickr.com/photos/29320956@N03/4621549282/)

【「人道に対する罪、大量虐殺を犯した者は裁きから逃れることはない」】
セルビアでボスニア・ヘルツェゴビナ内戦における戦犯として、その行方が問われていたラトコ・ムラディッチ被告(当時のセルビア人武装勢力の司令官)が、ついに拘束されました。

****ボスニア内戦:「民族浄化」指揮のムラディッチ被告拘束*****
セルビアのタディチ大統領は26日、首都ベオグラードで緊急記者会見を開き、十数万人以上の死者を出したボスニア・ヘルツェゴビナ内戦(1992~95年)当時のセルビア人武装勢力の司令官で、戦争犯罪などに問われているラトコ・ムラディッチ被告を警察当局が拘束したと発表した。ムラディッチ被告は95年以来、逃亡していた。

ムラディッチ被告はボスニア東部のスレブレニツァで95年、イスラム教徒約8000人が虐殺された事件を指揮したとして、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア戦犯法廷から虐殺、戦争犯罪、人道に対する罪で起訴された。ムラディッチ被告は、近日中に旧ユーゴ戦犯法廷に移送される見通し。
AFP通信によると、ムラディッチ被告は「ミロラド・コマディッチ」と名乗っていたという。身体的な特徴が被告と酷似しており、当局がDNA鑑定を進めているという。

同法廷は91年からの旧ユーゴ解体に伴う内戦などの戦犯を裁くため93年に設置され、これまでに56人に判決を言い渡した。カラジッチ被告の公判では(1)スレブレニツァ虐殺(2)死者約1万2000人を出したサラエボ包囲作戦--などへの関与が問われている。

旧ユーゴスラビアの戦犯としてはミロシェビッチ元大統領が公判中の06年に死亡。元セルビア人勢力政治指導者のカラジッチ被告が08年夏に拘束され、公判が続いている。ムラディッチ被告は残る逃亡戦犯2人のうちの1人で、セルビア当局が行方を追っていた。【5月26日 毎日】
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別報道によれば、拘束された人物はDNA鑑定などでムラディッチ被告本人と確認されたそうです。
オバマ米大統領も、「ムラディッチ被告は、犠牲者や世界に対し、法廷で説明していかなければならない」との声明を発表しています。

****セルビア:ムラディッチ被告拘束 米大統領が声明****
オバマ米大統領は26日、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)から戦争犯罪などの罪で起訴され、逃亡していたセルビア人武装勢力指導者、ラトコ・ムラディッチ被告(69)が拘束されたことを受け、訪問先のドービルで声明を発表。「犠牲者の家族にとって今日は大切な日だ。ムラディッチ被告は、犠牲者や世界に対し、法廷で説明していかなければならない」と語った。オバマ大統領は「人道に対する罪、大量虐殺を犯した者は裁きから逃れることはない」とも強調した。【5月27日 毎日】
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ムラディッチ被告がその責任を問われている“スレブレニツァ虐殺”とは、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦中にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件です。
今回拘束されたラトコ・ムラディッチに率いられたセルビア人勢力のスルプスカ共和国軍によって、推計8000人のボシュニャク人(ムスリム人)が殺害され、「第二次大戦後最悪の虐殺」とされています。
当時、スレブレニツァは国連の「安全地帯」に指定されPKOオランダ部隊が展開しており、ボシュニャク人を保護する立場にあったオランダにとっても、セルビア勢力の武力に屈する形でボシュニャク人を引き渡さざるを得ず、虐殺を防止できなかったということで、同事件は深い傷跡を残しています。

EU加盟を果たすため、欧州の論理にあらがえないセルビア人の葛藤
セルビアでは08年5月の総選挙を受けて、EUが懸念する極右・セルビア急進党の政権参加を排除、タディッチ大統領率いる民主党中心の親欧州派政権が発足し、EU加盟を進める方向で動いています。
09年12月22日には、タディッチ大統領がストックホルムを訪問、EU議長国スウェーデンのラインフェルト首相にEU加盟申請書を手渡しました。

しかし、戦犯であるムラディッチ被告はセルビア内の民族主義者にとっては“英雄”であり、彼がそうした民族主義者にかくまわれて拘束されておらず、裁判にもかけられていないことが、EU加盟の障害のひとつとなっていました。
セルビア政府は、ムラディッチ被告の情報提供に対して、1000万ユーロ(約11億2000万円)もの懸賞金を示してその行方を追っていました。

****EU加盟へ、戦犯を逮捕せよ*****
・・・・・旧ユーゴは6つの国に分裂し、2008年にはセルビアの自治州だったコソボが独立を宣言した。旧ユーゴからはスロベニアが04年に欧州連合(EU)に加盟。11年にクロアチア、12年にはマケドニアが加盟するとみられている。
旧ユーゴ紛争で欧米から“悪玉”の烙印(らくいん)を押され、EU加盟の動きから取り残されたセルビアのタディッチ大統領は周辺国との和解を進め、09年12月、EU加盟を正式に申請した。

しかし、加盟には高いハードルが待ち受ける。カラジッチ被告と同様、セルビア民族主義者から英雄視される大物戦犯、ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人共和国軍司令官ラトコ・ムラジッチ被告らの拘束だ。
EUの要請に応え、セルビア政府は昨年10月、ムラジッチ被告の逮捕につながる情報提供に関し、懸賞金を10倍の1千万ユーロに増額した。

しかし、トホリ氏は「ムラジッチ被告は間違いなく域外に逃亡した」と語る。同被告のシンパの表情がある日を境に和らいだという。逃亡先はロシアとみられている。
紛争の後遺症を引きずり街全体がくすんだ印象を受けるベオグラード市内の露店ではカラジッチ、ムラジッチ両被告のキーホルダーが警官の目を盗んで販売されていた。EU加盟を果たすため欧州の論理にあらがえないセルビア人の葛藤を物語っているようだった。

1993年のEU発足を機に欧州の統合は急速に進んだ。しかし、金融危機で欧州単一通貨ユーロ圏で勝ち組・負け組の二極化が顕著になり、イスラム系移民排斥の動きが目立つなど、あちこちからきしみが聞こえる。拡大する欧州の断面を、まずはEU加盟に腐心するバルカン半島のセルビアから報告する。(ベオグラード 木村正人)【2月21日 産経】
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このあたりの経緯については、2010年11月12日ブログ「EU加盟準備を進めるセルビア ムラディッチ被告拘束とコソボとの関係が障害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101112)にも書いたところですので、そちらを参照してください。

コソボとの和解は未解決
ムラディッチ被告拘束によって、“欧州諸国が「重要戦犯」と見なす同被告の逮捕は、セルビアの欧州連合(EU)加盟の条件とされており、同国のEU加盟に弾みがつく可能性が高い”【5月26日 読売】と見られていますが、上記10年11月12日ブログでも取り上げたように、もうひとつの難題“コソボとの和解”が残っています。
EUは(1)セルビアが独立を認めていないコソボとの対話進展(2)旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)に対する「完全な協力」--を候補国入りの条件にしています。

こちらの、より難しい課題については、前回2010年11月12日ブログ以降、特に新しい情報は目にしていません。
なお、低迷する経済状態のため、中東民主化運動に連動する形でセルビア国内でも政府への批判が高まっているとの報道が2月にありました。

****セルビア:反政府集会に7万人、総選挙前倒しを要求****
セルビアからの報道によると、同国の首都ベオグラードで5日、野党のセルビア進歩党支持者らによる過去数年で最大規模の反政府集会が開かれ、約7万人が総選挙の前倒し実施などを訴えた。
同党は、エジプトでも民衆が政府に呼び掛けを行っているとして、セルビア政府に対して自らの要求をのむよう求めた。一方、政府は静観の構えで、集会で目立った混乱はなかったという。

集会はセルビア議会前で開かれ、ニコリッチ党首が「エジプトやチュニジアの蜂起で人々は、自分たちの声を聞くよう政府にメッセージを送った」と強調した。
セルビアでは08年、欧州連合(EU)加盟を目指す親西欧のタディッチ大統領が再選された。だが、金融危機などの影響で経済は低迷し、警察官や教員らが待遇改善を求めてストライキを行う事態になっている。【2月6日 毎日】
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