goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  南北境界アビエイ地区へ、北部政府軍侵攻

2011-05-25 21:10:25 | 国際情勢

(アビエイを含む南部スーダンに展開する国連PKOの国際連合スーダン派遣団(UNMIS) 日本からも司令部に陸上自衛官2名が6ヶ月交替で派遣されています。 今回アビエイでの南北衝突でUNMIS隊員にも負傷者が出ています。 “flickr”より By unpeacekeeping  http://www.flickr.com/photos/unpeacekeeping/5515312490/ 

【“火種”が発火
南北間の内戦が続いたスーダン南部地域については、2005年の「南北包括和平合意(CPA)」に基づき今年1月に実施された住民投票によって、98.83%という圧倒的多数で、その独立が支持されました。
北部政府・バシル政権の対応が注目されていましたが、CPAを南部独立と言う形で完結させたいアメリカの後押しもあって、バシル大統領も住民投票結果受け入れを表明、今年7月に独立の予定となっています。

しかし、南北の境界付近にあって南北内戦の激戦地であった石油資源が豊富なアビエイ地区は、05年の包括和平合意では、同地区の帰属を決める住民投票を、南部独立を問う住民投票と同時に実施すると規定していましたが、南北間の調整がつかず、棚上げされた形となっていました。

このため、このアビエイ地区が南北衝突の“火種”となるのでは・・・との危惧は、すべてのメディアが以前から報じていたところですが、その危惧が現実のものとなりつつあります。

****スーダン、北部政府軍が係争地に進攻 南部独立直前*****
7月に南部が独立するスーダンで、北部政府軍が21日、南北の係争地アビエイ(Abyei)に進攻し、南部のスーダン人民解放軍(SPLA)との激しい戦闘の末、同地を掌握した。南部の自治政府は「侵略だ」と強く反発、国連安全保障理事会も22日、北部政府軍の即時撤退を求める声明を出した。

スーダンでは、22年間続いた南北間の対立が「南北包括和平合意(CPA)」によって終わり、1月に行われた国民投票の結果、7月に南部が独立することが決まっている。
南北の境界付近にあり石油資源が豊富なアビエイでも住民投票が行われる予定だったが、投票の有資格者の範囲をめぐって南北が対立し、投票は無期限延期された。アビエイは、CPAでは特別地域とされ、南北双方の軍の侵入が禁じられている。

スーダン首都ハルツームで会見した北部政府のアミン・ハサン・オメル大統領府担当相は、「アビエイと河岸北部一帯を掌握した」と発表。「SPLAがアビエイで存在感を誇示しようとしており、CPAの下で許容できない」ことが進攻理由だと説明した。
これに対し南部自治政府は、北部政府の発表は「完全な虚偽」だと非難。北部政府がアビエイを「侵略」し「不法占拠」したことによって、南北間の衝突が再燃する恐れがあると警告した。

一連の動きを受け、スーダンの首都ハルツームを訪問中の国連安保理の訪問団は22日、「急速に悪化するアビエイ情勢について非常に深く懸念している」との声明を発表し、北部政府軍に対して部隊の撤退を正式に要求した。【5月23日 AFP】
*********************************

その後の報道では、「武装集団による略奪や放火」が報じられています。
****制圧の町で「略奪や放火」 スーダンの南北係争地*****
国連平和維持活動(PKO)部隊の国連スーダン派遣団(UNMIS)は23日、スーダン北部政府軍が21日までに制圧した南部との係争地アビエイ地区の町で「武装集団による略奪や放火が行われている」と発表した。
現地からは市民ら数千人が脱出したとされ、UNMISは「スーダン政府軍は制圧した地域で法と秩序を守る責任がある」としている。(後略)【5月24日 産経】
*******************************

【「アビエイを新国家の領域内に含める試みがあれば、我々は新国家を認めない」】
アビエイ地区の定住民は南部系ディンカのンゴック氏族ですが、年周期でこの地を利用する北部系遊牧民ミッセリアを帰属決定住民投票の対象とするかどうかで南北が対立、住民投票が実施できませんでした。
今回の北部政府軍侵攻に先立っては、南部自治政府が4月まとめた暫定憲法の草案に、アビエイが南部の一部だと書かれていると報じられたことから、北部・バシル大統領側がこれに激しく反発して緊張が高まっていました。

南部スーダンの憲法草案では、「南部スーダン共和国の国境は、1956年1月1日の境界線に基づくエクアトリア州、バフル・アル=ガザール州、上ナイル州の領土および領空と、ディンカ族ンゴック氏族の9首長国の領域を境界とするアビエイ地区である。同地区の帰属は1905年にバフル・アル=ガザール州からコルドファン州に改組され、2009年7月に発表された常設仲裁裁判所の判決でも確認されている」と記されているそうです。

****独立間近のスーダン南部、やまぬ戦闘 産油地の帰属火種*****
7月に独立を控えたスーダン南部で、戦闘が頻発している。産油地帯の帰属をめぐって争う、北部を拠点とする中央政府が介在しているとの見方が出ている。財政を支える石油生産も滞り、南部の今後に影を落としている。

現地からの報道によると、スーダン南部自治政府軍の報道官は29日、北部に隣接するユニティ州とジョングレイ州で19日以降、南部軍と武装勢力の戦闘が続き、巻き添えの住民を含む計266人が死亡したと発表した。
南部では、1月の住民投票で北部からの分離・独立が決まって以降、戦闘が増えている。国連の推計では、今回の衝突とは別に、800人が犠牲になり、10万人が家を追われた。

南部自治政府に反発する武装勢力は七つあり、南部側は、中央政府が支援していると批判している。南部が北部に疑いを抱くのは、南北間で未解決の問題が山積し、対立感情が消えていないうえ、境界エリアの産油地帯アビエイの帰属問題がくすぶっているためだ。

中央政府のバシル大統領は28日、政治集会で「アビエイを新国家の領域内に含める試みがあれば、我々は新国家を認めない」と演説した。南部自治政府が4月まとめた暫定憲法の草案に、アビエイが南部の一部だと書かれていると、報じられたためだ。

アビエイには南部の主流民族ディンカが定住するが、年に数カ月間、家畜の遊牧でアビエイを通る北部系遊牧民も住民としての権利を主張している。そこへ埋蔵石油をめぐる南北の利害対立が絡む。
南北どちらの領土なのかは、アビエイ住民を対象にした住民投票で1月に決めるはずだった。ところが、有権者の定義をめぐって紛糾し投票は実施されないまま。南部の独立後も火種として残りそうだ。

戦闘の影響で、日量8万4千バレルの石油を産出するユニティ州では4月、油田で働く北部出身の労働者百数十人が北部へ避難、産油量が減少している。2005年までほぼ20年続いた内戦のせいで、南部は技術者が不足し、石油精製も北部側に依存している。南部自治政府予算のほとんどを賄う石油収入は北部頼みだという現実を、戦闘は突き付けている。

加えて、近年の干ばつや北部からの帰還者の急増で、南部は食糧不足にも直面している。治安の悪化で、ジョングレイ州とレーク州では27日、世界食糧計画(WFP)の23万5千人を対象にした食糧援助活動が止まってしまった。(ナイロビ=古谷祐伸)
***********************************
北部政府の与党・国民会議党(NCP)は4月27日、「今年7月9日に樹立宣言が行われる見通しの南部スーダン国家が、南北間で係争が起こっているアビエイ地区を併合した場合には同国家を承認しない」と発表しています。

即時撤退を求める国際社会
一方、アメリカや国連安保理など国際社会は北部政府軍のアビエイ侵攻を非難、即時撤退を要求しています。
****米、スーダンを非難 アビエイ地区進攻で****
カーニー米大統領報道官は21日声明を出し、スーダン政府軍によるアビエイ地区進攻を非難、「作戦の即時停止と同地区からの撤退」を求めた。
声明で報道官は、要求に従わない場合は「米国とスーダンの国交正常化のプロセスが後退する」と警告した。
米国は1993年からスーダンを「テロ支援国家」に指定している。【5月22日 産経】
********************************

****スーダン北部政府軍に撤退要求 安保理、南部係争地で*****
スーダン北部政府軍が、分離独立が決まった南部との係争地アビエイ地区に進攻、中心の町を21日までに制圧したことについて、国連安全保障理事会は22日、情勢の急速な悪化に「強い懸念」を示し、北部政府軍に軍事行動の停止と即時撤退を求める声明を出した。

一方、声明は、南部軍が19日、北部軍部隊を護送中の国連平和維持活動(PKO)部隊に攻撃を加えたとして、南部を強く非難した。
安保理メンバー国の大使らは現在、アフリカ訪問の一部としてスーダンに滞在中。訪問団はアビエイも訪問する予定だったが、AP通信によると、中止された。

また、国連の潘基文事務総長も22日、声明で「政府と南部の間の重火器などによる交戦を強く非難」した。声明によると、国連施設が迫撃弾による攻撃を受け、PKO部隊の国連スーダン派遣団(UNMIS)隊員2人が負傷した。【5月23日 日経】
********************************

北部政府に対してはアメリカなどの働きかけが期待されますが、南部スーダンについて言えば、これといった産業基盤もなく、石油資源についても北部が所持する関連施設を利用する必要がある南部スーダンにとっては、北部との関係を維持することが必要です。
独立に向けた高揚感が、いたずらな北部との対立・衝突に向かわないように願うところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする