
(イエメンでの反政府行動 “flickr”より By Mid-East Wiki http://www.flickr.com/photos/62721807@N03/5708806937/ )
【“断念”から一転、署名へ】
反政府デモが続き、治安当局の発砲による死者も増加しているアラビア半島のアラブ最貧国・イエメンでは、湾岸協力会議(GCC)が提案していた大統領辞任を含む政治危機収拾案をサレハ大統領が受け入れたとの報道が以前もありましたが、4月30日、大統領は土壇場で署名を拒否して暗礁に乗り上げていました。
その後も、アメリカが後押しするGCCによる仲介交渉は難航、GCCはサレハ大統領説得を断念したとの報道がなされたのが19日でした。
****イエメン:大統領退陣説得を断念…湾岸協力会議*****
反政府勢力デモが続くイエメンで、サレハ大統領に対し、「1カ月以内の退陣」などを求める与野党の合意書への署名を要請していた湾岸協力会議(GCC、サウジアラビアなど6カ国)のザヤニ事務局長は18日、説得を断念し、出国した。GCCによる調停がまとまる見通しは、極めて厳しくなった。
大統領は先月、一度は合意を表明したが、調印式の直前に拒否。AP通信によると、今回はザヤニ事務局長がイエメンに5日間滞在し、調停案の内容を調整しつつ大統領に署名への同意を求めた。
一方、米ホワイトハウスによると、ブレナン米大統領補佐官は18日朝、サレハ大統領に電話で署名を促していた。サレハ政権は、イエメンに本拠を置く「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の掃討作戦で、米国と協力関係にある。米政権の退陣要求を拒否したことで、国際社会でさらに孤立を深める可能性がある。【5月19日 毎日】
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しかし、情況はまた一転、大統領はGCC収拾案署名を再度表明、即時辞任でないことや刑事免責を含む収拾案に難色を示す向きもあった野党側も署名して、権限移譲プロセスが始動することになったようです。
****イエメン野党勢力、湾岸協力会議の調停案に署名 反政府デモの混乱収束へ****
イエメンの野党勢力は21日、アリ・アブドラ・サレハ大統領の権力移譲などを内容とする湾岸協力会議(GCC)の調停案に署名した。
多くの野党勢力指導者は、22日に発表があるとして、調停案に署名した事実の確認を避けた。ある匿名の野党関係者は、複数の野党指導者が21日に湾岸協力会議のトップおよび米国、英国、EU、アラブ首長国連邦(UAE)の大使と面会したと述べた。
反政府デモは国際テロ組織アルカイダを助けるクーデターだと野党勢力を非難していたサレハ大統領だが、国家のために調停案を受け入れると表明していた。サレハ大統領が率いる与党・国民全体会議(GPC)の報道官は、サレハ大統領は22日に調停案に署名すると発表した。
調停案によればサレハ大統領は署名の30日後に副大統領に権限を移譲する。野党側から選ばれた首相が挙国一致内閣を組閣し、サレハ氏の辞任から60日後に大統領選挙が行われる。議会はサレハ氏とその側近を刑事免責する。
イエメンでは1月下旬から反体制デモが続き、活動家や医療関係者の報告を総合すると、これまでに治安部隊によるデモ鎮圧によって少なくとも80人が死亡した。
21日にも首都サヌアの西にあるホデイダで反政府デモを行ったホデイラ大学の学生らが治安部隊と衝突し、目撃者と医療関係者によると、学生3人が銃で撃たれて死亡した。【5月22日 AFP】
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【今後には不透明感も】
“多くの野党勢力指導者は、22日に発表があるとして、調停案に署名した事実の確認を避けた”ことや、21日にも衝突による犠牲者が出ていること、何よりもこれまでも土壇場でのキャンセルがあったりしたことから、今回の報道のとおり事が運ぶのかは、いまだ不透明な感はあります。
“政権与党の報道官も「サレハ氏は22日に署名する」と述べている。ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは22日朝、署名に反対するサレハ氏の支持者らがサヌア市内の道路を占拠したと報道。署名をめぐり新たな混乱も予想される”【5月22日 朝日】
仮に、今回の署名がAFP報道のとおりなされたとしても、30日後の大統領辞任・副大統領への権限移譲、辞任から60日以内の大統領選挙までには、まだ不測の事態もおこる懸念もぬぐえません。
この形で収拾が図られれば、反政府デモを受けて強権指導者が政権の座を降りたチュニジア・エジプトに続く、3番目の“アラブ民主化”の実現となります。
また、国外勢力の仲介による、大統領とその側近を刑事免責する形での収拾は初めてとなります。
【治安悪化で国家財政悪化】
サレハ政権は、イエメンに本拠を置く「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の掃討でアメリカに協力してきた経緯から、アメリカがサレハ辞任を要求したことについて、大統領は裏切られたと怒っているとのことです。
ただ、従来から、北部のザイド派の活動、南部の分離運動、そしてアルカイダと三重苦に悩んできたイエメンは、長引く反政府デモで経済的にも相当追い詰められているようです。
****イエメン:経済危機深刻…反政府側パイプライン爆破などで****
反政府勢力によるデモが続くイエメンで、原油パイプラインの爆破や外国人労働者の出国が相次ぎ、主要産業の石油・天然ガス関連業の生産が半減、国家財政の悪化を招いている。
サレハ大統領は13日、首都サヌアで開いた集会で「破壊者が破壊行為をやめない限り、治安当局が対応せざるをえない」と演説、取り締まりの強化を宣言した。反政府勢力の反発をさらに強める結果を招いており、混乱収拾の見通しが立たなくなっている。
国営サバ通信によると、アイダルス石油・鉱物資源相は12日、国会で財政状況を説明した。イエメンでは石油や天然ガス関連事業が歳入の7割を占める。だが国内外への主要な供給源である中部マリブの原油パイプラインが反政府組織の爆破攻撃を受け、3月半ば以降、供給をほぼ中止。治安の悪化で修理も困難な状況にあるという。
また、南部アデンにある同国唯一の石油精製所も、マリブからの原油の供給減と外国人労働者の国外退避で、約1週間前から閉鎖されている。アイダルス氏は、反政府勢力が電線など電力網の一部を破壊したと訴えている。
電力不足は物価の高騰も招き、市民生活を直撃している。ロイター通信によると、首都サヌアでは連日数時間の停電があり、地方では水を運ぶトラックの燃料不足で飲料水が不足している。南部イブなどデモが続く都市では、少数の商店を除き経済活動が止まった状態だという。
大統領は13日の演説で、公共インフラの破壊や占拠は、野党連合による「挑発行為」と断言。政府軍は同日、反政府デモ隊に発砲し、参加者3人が死亡した。今年1月下旬以降のデモに伴う死者は170人以上に上る。
一方、アブドラ通産相は12日、1月下旬からの経済損失は50億ドル(約4000億円)に達すると発表した。09年の国内総生産(GDP)の17%に相当する。(後略)【5月14日 毎日】
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【サウジアラビアの思惑、アメリカの懸念】
仲介した湾岸協力会議(GCC)、特にイエメンの隣国サウジアラビアにとっては、イエメンの不安定化は自国の安全保障に直結します。対立が長期化して内戦状態ともなれば、自国への影響が出てきます。特に、シーア派イランからの支援を受けるイエメン北部のザイド派(シーア派の一派)の活動には神経をとがらせています。
このため、サレハ大統領が納得できる形で退陣を促し、権力移行期の混乱を最小限に抑えたいという思惑がありました。
アメリカとしては、民主化支援の原則からサレハ大統領を見限った形ですが、国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」など多くの不安定要素があり、権限移譲後の政治体制がどうなるのか見えないこともあって、これまでアルカイダ掃討に協力的だったサレハ氏が退陣によって、アルカイダ等の動きがさらに活発化することへの懸念もあります。
いずれにしても、もうしばらく成り行きを見守る必要はありそうです。
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