
(ルワンダのある村での「ガチャチャ」 “flickr”より By The Advocacy Project http://www.flickr.com/photos/advocacy_project/3700966191/ )
【大虐殺の“けじめ”】
1994年に起きた、3か月余りで80万人の住民が死亡したとされるアフリカ・ルワンダでの大虐殺(ジェノサイド)については、これまでも何回か取り上げてきましたので、その内容・経緯は省略します。
この大虐殺が恐ろしいのは、その規模の大きさもさることながら、それまで隣人として暮らしていた普通の人々がこん棒や鉈を手にして突然襲い掛かってくるという点にあります。人間の心の奥に潜む闇が一気に噴き出たのがこの大虐殺でした。
現在、ルワンダは旧反政府軍指導者のカガメ大統領のもとで、驚異的な経済成長を遂げています。(一般には、政策的にも、人格的にも、その功績が高く評価されているカガメ大統領ですが、その政治手法を強権的と批判する向きもあります)
そうしたなかで、大虐殺の“けじめ”をつける裁判が今も続けられています。
****ルワンダ大虐殺、当時の軍幹部に禁錮30年の実刑判決****
1994年に起きたルワンダ大虐殺を受けて国連が設置したルワンダ国際犯罪法廷(ICTR)は17日、元ルワンダ軍大将、アウグスティン・ビジムング被告に、禁錮30年の実刑判決を言い渡した。大虐殺では3か月余りで80万人が死亡したとされる。
当時の民兵組織の幹部、アウグスティン・ンディンディリイマナ被告についても、虐殺に関与した罪で有罪が宣告された。ただ国際犯罪法廷は、同被告が逮捕後、既に11年服役したことを理由に釈放を認めた。
今回の判決は、ビジムング被告が虐殺において軍を完全に掌握していた一方で、ンディンディリイマナ被告の統率力は限定的なものであり、虐殺に反対していたとの判断に基づいている。
同じく、裁判にかけられていた偵察大隊の元司令官とその部下は、それぞれ禁錮20年の刑が言い渡された。
ルワンダ国際犯罪法廷は、大虐殺において重大な責任を有する者を訴追するため、国連が1994年に設置。タンザニア・アルーシャに置かれている。
虐殺に関与したとされる政府の上層部以外や一般市民は、ルワンダにおいて、通常の裁判制度やガチャチャと呼ばれる草の根レベルの裁判制度で裁かれている。
ガチャチャ裁判は、村のもめ事を解決するための村人たちの集会が発展したもの。被告に弁護士がつかないことなどから人権団体から批判を浴びているが、ルワンダ政府当局によると、虐殺への関与の罪で100万人を超える被告人の裁判を行えるようになった。【5月18日 AFP】
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【「ガチャチャ」とは】
草の根レベルの裁判制度“ガチャチャ”の簡単な説明は以下のとおりです。
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2002年6月、ルワンダ政府によって「ガチャチャ」という裁判制度が設置されました。1994年のジェノサイド(大量虐殺)について未処理の件数が多いため、地域共同体でジェノサイドの容疑者を裁くことを目的としています。「ガチャチャ」の由来は、もともと地域にあった、家族内や世帯間のもめごとを解決するための慣習的な集会をさしていますが、新しい「ガチャチャ」は、より西欧に近い司法制度となっています。ルワンダ最高裁と司法省が管轄し、その裁判官は、もっとも重い判決で終身刑をいいわたすことができます。
「ガチャチャ」の構成員は、住民の投票によって選ばれます。2002年10月には約26万人の素人裁判官が選出され、法律、裁判官としての倫理、心的外傷カウンセリングなど数日間の基本研修を受けました。【アムネスティ年次報告書2005より】
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【「ガチャチャ」の運用と問題点】
ガチャチャのより詳しい説明、実際の運用、問題点などについては、武内進一氏のレポート「ガチャチャの開始-ルワンダにおける国民和解の現在-」(http://www.ide.go.jp/English/Researchers/pdf/takeuchi_shinichi01_4_2005b.pdf)が参考になります。
以下は、武内進一氏の同レポートから、個人的判断で抜粋したものです。
同レポートでは、罪を認めれば刑期が半減されるなど犯罪者に甘い,容疑者の権利保護が不十分である等々,ガチャチャに対する一般的批判の他、実際の運用において、判事団側の能力不足(読み書きのできない者が多い)、住民にガチャチャを欠席する者が多いこと、判事団が無償の労働を強いられていることが指摘されています。
多くは、日本の裁判員制度を考えても、容易に理解できる点でもあります。
また、武内氏は、「異常な虐殺をくぐり抜けて生き延びた人々にとって,地域住民との関係を再び構築し,そのなかで暮らしていくためには,虐殺にかかわる犯罪に関してなんらかの「けじめ」が絶対に必要である。」としてガチャチャの意義を評価しながらも、それが「勝者の裁判」になっていることを最大の問題点として指摘しています。
*****ガチャチャの開始-ルワンダにおける国民和解の現在-*****
ガチャチャとは,通常の司法手続きではなく,地域社会レベルで,民衆の意見に基づいて実施される,ジェノサイド罪容疑者に対する裁判である。
内戦によって国内司法組織が破壊され,またジェノサイドに関与した容疑者の数がきわめて多いために選択された方法であり,末端地方行政レベルで裁判を行うことから,「村の裁判」とか「伝統的司法」と説明されることもある。ルワンダ政府はガチャチャのため準備を重ねてきたが,2005 年3月から全国で一斉にこれを開始するに至った。
現在,ジェノサイド罪容疑者に対する裁判は,主として,国連安全保障理事会が設立したルワンダ国際刑事裁判所(ICTR),ルワンダ国内の通常の司法手続き,そしてガチャチャという三つのレベルで行われている。
ICTRが審理の対象としているのは100人に満たないが,ガチャチャでは地方でジェノサイドに関与した者がすべて審理対象となり,その数はおそらく10万人を超える。
ジェノサイドを計画,煽動,推進した中心的人物がICTRや通常の司法手続きで裁かれるのに対して,各地で実際に殺害や暴行,略奪に荷担した者がガチャチャの審理対象となる。
ガチャチャは生活を共にする近隣住民の罪を裁く裁判であり,大衆にとって非常に身近なものである。ガチャチャの手続きは法的に細かく定められているが,その大筋は,地方行政機構に沿って設置されたガチャチャの判事団が,住民の証言に基づいて罪状を確定するというものである。
ルワンダの地方行政機構は,最小レベルのセル(人口規模1000 人程度)から始まり,セクター(同数千人),県(同数万人),州(同数十万人)によって構成される。
ガチャチャの基本はセルに置かれ,そこで住民の間から選出された判事団(9名,および5名の補助役)が,住民の証言をもとに,ジェノサイドにかかわった容疑者とその容疑内容を確定する。
容疑内容は,三つに大別される。
第1に,ジェノサイドを計画,煽動,主導した者であり,これにあたると判断された容疑者は,ガチャチャではなく通常の司法ルートで裁かれる。ここでの最高刑は死刑である。
第2に,ジェノサイドの主導者ではないが,殺人や暴行,強姦など重大な犯罪を行った者であり,これについてはセルの上位の地方行政機構であるセクターのガチャチャ判事団が判決を下す。
第3に,ジェノサイドの際に略奪を行い,物的な損害を与えた者であり,これについてはセルの判事団が裁く。
ガチャチャには死刑判決は存在せず,判決に不満がある場合は県レベルに設置された上告審に持ち込むことができる。このように,判決自体は必ずしもセルでなされるわけではないが,容疑の確定という重要なプロセスがセルのレベルで,住民の参加の下に行われることが,ガチャチャの顕著な特徴である。
ガチャチャがルワンダ全土で開始されて以降,各地方自治体は毎週1回,定例のガチャチャ開催日を定めている。
ガチャチャについて意見を聞こうとすると,それまで雄弁だった人が急に寡黙になることがしばしばあった。
人々がガチャチャに対してセンシティヴな理由は,それが殺人という重大な犯罪にかかわるからというだけではない。「村の裁判」,「伝統的な裁判」といった一部の理解とは裏腹に,ガチャチャは現政権の肝いりで進められており,その意味できわめて政治的な側面を有している。
このようにガチャチャは事実上,政府が設定した枠組みのなかで遂行されており,司法の行政からの独立は,ここでは問題にされていない。
こうした政治的な動きに巻き込まれることを,一般の人々は本能的に恐れているのであろう。
筆者が,現在ガチャチャが抱えている問題は何かと尋ねたところ,ニリマナ氏は三つの点を挙げた。第1に,判事団側の能力不足である。判事たちは確かに正直で誠実だが,読み書きのできない者が多すぎる。現在Sセルの判事団14名のなかで,読み書きができるものは4名にすぎないと彼はいう。
第2点として彼が挙げたのは,ガチャチャを欠席する者が多いことである。
最後にニリマナ氏が挙げたのは,判事団が無償の労働を強いられていることである。ガチャチャでは,住民はもちろん,判事団に対しても一切報酬は支払われない。
Mセクターにおいても,トゥチの殺戮に対して,地域住民の一部がなんらかの形で関与したことは間違いない。異常な虐殺をくぐり抜けて生き延びた人々にとって,地域住民との関係を再び構築し,そのなかで暮らしていくためには,虐殺にかかわる犯罪に関してなんらかの「けじめ」が絶対に必要である。
罪を認めれば刑期が半減されるなど犯罪者に甘い,容疑者の権利保護が不十分である等々,ガチャチャに対する批判は多い。
いかに不十分であっても,ルワンダのジェノサイドのような異常な状況の後でこうした試みは必要だし,その意義を評価すべきではないだろうか。
最大の問題は,それが「勝者の裁判」になっていることである。先述したように,ルワンダのジェノサイドにかかわってさまざまなレベルで裁判が行われているが,そのいずれにおいても紛争当事者の一方(旧ハビャリマナ政権側)しか裁かれていない。
RPFも内戦時に戦争犯罪に関与した疑いがあるが,現政権は,これについては軍法裁判で決着し
たとして,それ以外の裁判にかけることを一切拒んでいる。それどころか,RPF側の戦争犯罪を裁こうとしたルワンダ国際刑事裁判所の検事総長を,現政権は友好国英米の圧力で交代させた。
ジェノサイドが最大級の犯罪であることに異論の余地はないが,自らの過ちを認めない態度は,国民和解の進展にプラスになると思えない。
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