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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  野党24議員へのリコール投票が全て否決、頼政権に痛手

2025-07-27 23:41:28 | 東アジア
(リコール投票前日の25日に台北市内で開かれた国民党の大型集会の様子【7月27日 台北中央社】)

【台湾社会の分断は中国に付け入る隙を与える】
少数与党とため議会運営に苦慮する台湾・頼清徳政権は、野党国民党議員を親中派としてリコールし、議会勢力の刷新を図る動きにでました。しかし、24人を対象にしたリコール(解職請求)の是非を問う投票が行われ、全て否決されるという形で失敗に終わりました。

頼清徳政権が野党議員のリコールに出た背景は以下のようにも

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現政権の民進党は「台湾独立派」で、特に頼清徳総統は極端なほど独立志向が強い。対する野党第一党の国民党は「対中融和的」とされ、「統一には慎重であるものの、経済的には中国を切り離すことはすべきではない」と考えているのが現状だ。

立法院では、議員(立法委員)113議席のうち、民進党が51議席しかないのに対して、最大野党の国民党は52議席を占めている。国民党が野党・民衆党や他の野党と連携すれば、少数与党の議案はほぼ否決され、政権運営がうまくいかない。

特にトランプ2.0になってからは、台湾にも同等に厳しく、防衛費の大幅な増額を要求してきた。米国の要求を最重要視した頼清徳政権は、議会で何とか防衛費増額の予算案を通そうとしたのだが、国民党を中心とした野党の反対に遭い、増額の割合を削減あるいは凍結せざるを得ない状況に追い込まれている。

そこで頼清徳総統は、台湾各地の市民団体を支援する形で、「国民党議員は大陸のプロパガンダなどによる浸透工作に加担している」として、「国民党議員24人に対するリコール運動」を展開し、賛否を問う住民投票が26日に行なわれた。結果、24人すべてに対する「リコール反対票」が賛成票を上回り、罷免されなかったというわけだ。【7月27日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
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台湾社会の分断は中国に付け入る隙を与えることにも。

****「親中」議員の排除失敗 深まる与野党対立―台湾****
台湾最大野党・国民党立法委員(国会議員)の排除を目指したものの、失敗した26日の大規模リコール(解職請求)投票の背景には、「反中」の与党と「親中」とされる野党の深い亀裂がある。

与党・民進党の頼清徳総統は中国に対抗するためオール台湾の「団結」を訴えるが、「民進党は民衆と共に歩む」としてリコール運動支持も表明。今回の投票を機に与野党対立は一層激化している。

リコール投票全て不成立 野党24議員対象、頼政権に逆風―台湾
5月、台北市近郊の新北市の駅前。与党を支援する団体が、一帯を地盤とする国民党立法委員のリコール投票実施に必要な署名を集めていた。

署名に応じた会社員男性(61)は、立法院(国会)で多数派の国民党が主導した今年の防衛予算の削減・凍結を問題視。「国民党は大陸(中国)の独裁政権に寄り添っている」と断じた。
 
頼氏は2月、防衛予算の域内総生産(GDP)比を3%以上に高める方針を発表した。台湾の防衛費増額を迫るトランプ米政権との関係を強化し、頼氏を「台湾独立分子」と敵視する中国をけん制する狙いだ。頼政権が提案した予算が削減・凍結されると目算が狂い、中国を利する結果となる。
 
リコール推進団体は今月24日、台北市中心部で大規模集会を開催。参加した会社員の張佳怡さん(47)は「防衛予算を削減し、台湾の利益を顧みない」と国民党を非難した。
 
一方、国民党が翌25日に同じ場所で主催した大規模集会で、同党の韓国瑜・立法院長(国会議長)は「リコールが成功すれば民進党の一党独裁に後戻りする」と主張。詰め掛けた参加者は「頼清徳は辞めろ」と連呼した。北部・新竹県の会社員女性(52)は「民進党は税金の無駄遣いが多過ぎる」と批判する一方、与野党対立で「社会が引き裂かれており心配だ」と話した。
 
台湾社会の分断は中国に付け入る隙を与える。中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は6月、台湾のリコール運動に関し「あらゆる方法で野党を弾圧している」と民進党を糾弾し、国民党に加勢した。台湾で対中政策を所管する大陸委員会は「中国共産党はリコール投票に赤裸々に介入している」と警戒感を示す。【7月27日 時事】
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【頼清徳政権の言論弾圧下の強引な手法が反感を買う】
頼清徳政権は“親中国”に関して「言論弾圧」と言ってもいいほどの過度な取り締まりおこなっており、台湾の民主主義そのものが歪められているのではないかいう状況で、“親中国”野党議員をリコールするという強引な手法が国民の反感を勝っているようにも思えます。

***台湾の野党議員リコール投票はなぜ大敗したのか?****
7月26日、台湾で最大野党・国民党立法委員(国会議員に相当)(以後、議員)に対するリコール(解職請求)投票が行われたが、頼清徳政権(民進党)側は大敗を喫した。

その原因を中共のプロパガンダ(浸透工作)のせいにする傾向が強い。そういった要因は否定できないものの、頼清徳政権自身の「言論弾圧」と言ってもいいほどの過度な取り締まりが横行していたという経験をしたばかりだ。
 
実は今年初夏、台湾の「隠された歴史を研究する民間団体」に取材形式のオンライン講演を頼まれたのだが、「長春食糧封鎖という包囲戦から何を学ぶべきか」と聞かれたので、「大陸が台湾統一に際して、長春包囲戦と同様の包囲作戦を実行する可能性がある」と、書面によるQ&Aに回答したところ、真夜中なのに電話が入ってきた。
 
「遠藤先生、それだけは言わないようにしてください!」と切羽詰まった声で訴える。
「えっ!なぜですか?」と聞き返すと「そんな事を言ったら親中だと指摘されて生きていけなくなります!」と言うではないか。

何ごとかと説明を求めると、どうやら頼清徳政権が激しいネット言論の摘発をしていて、少しでも「大陸が台湾を包囲して統一を試みるだろう」と言った者には、「親中のレッテル」を貼り、個人は生きていけないほどのバッシングを受けるし、民間組織などは存続が不可能になるよう経費を遮断する方向で動くという。(中略)

驚いた。 この経験を参考にしながら、リコール大敗の経緯と台湾世論を考察する。

◆野党・国民党議員に対するリコール
(中略) 国民党が中国大陸の浸透工作に加担していると言っても、その証拠が出されたわけではなく、また若者に人気がある民衆党の柯文哲・党首を政治献金の虚偽記載疑惑・汚職疑惑で逮捕したりするなど、頼清徳政権の強硬性が先走っており、台湾の一般民衆の反感を買っている側面は否めない。
 
特に今年6月24日に頼清徳総統は「野党は濾過(ろか)されるべき不純物」という趣旨の発言をしている。この発言は大いに物議を醸し、野党側を勢いづかせた。
 
民進党側は、今回のリコール投票で大敗したのは、中国による激しい妨害に直面したためだと主張しているが、それだけではないことを、「野党は不純物」発言や、冒頭で書いた講演会主催者側の感想などが示している。
 
◆台湾民意教育基金会の最新の世論調査
 今年7月15日、財団法人「台湾民意教育基金会」は<大罷免(=大規模リコール)、国家アイデンティティと台湾民主>というタイトルで世論調査の結果を発表した。 その中からリコールに関係するデータを拾って、ご紹介する。

図表1:「罷免すべき」に賛同するか否か?

財団法人台湾民意教育基金会の調査結果を転載の上、日本語は筆者注 頼清徳総統が支援する市民団体は「この一年あまり、国民党議員は憲法を踏みにじり行政を乱してきたので罷免すべきである」と主張している。これに対してリコール投票前の段階での調査で、民意はその主張に「同意しない」が「同意する」よりも上回っている。(中略)

図表2:大規模リコールは「反共・台湾防衛」の意識を高めるか?

財団法人台湾民意教育基金会の調査結果を転載の上、日本語は筆者注 頼清徳総統が支援する市民団体は、国民党議員を罷免することによって「反共・台湾防衛」が果たされると主張しているが、これには無理がある。

頼清徳総統として、何としても議会における最大野党・国民党の議席数を減らし、結果的に「少数与党」である民進党の議席数を相対的に増やそうということが目的なのであって、そのような政争のために選挙で選ばれた国民党議員の特定の議員を意図的に選んで罷免しようということ自体が邪道だ。リコールが「反共・台湾防衛」に役立つと思わない人が53.1%もいるというのは、もっともなことだろう。

図表3:大規模リコールは台湾の存亡に関わるか?

財団法人台湾民意教育基金会の調査結果を転載の上、日本語は筆者注 図表3に至っては、なおさらだ。国民党議員をリコールすることが「台湾の存亡に関わる」などという大げさなことを主張することに賛同しない人が53.6%もいるのは当然だと言っていいだろう。

むしろトランプ関税を受け、一致団結をして難局に立ち向かっていかなければならないときに、国民党議員を減らすことが「台湾の存亡に関わる」などという主張に賛同する人は少ないに決まっている。

今年4月27日の台湾の「経済日報」は、ワシントンのシンクタンクであるブルッキングス研究所が4月25日、台湾国民の米国に対する信頼度に関する世論調査を発表したと報道している。それによれば、トランプ2.0では、台湾国民の米国に対する信頼度が低下し、中国本土の台湾侵攻に対するワシントンの関与に対する信頼度も低下し、回答者の46.7%が、台湾有事の際に米国が台湾を支援することは「不可能」または「可能性が非常に低い」と考えていることがわかった。

このように少なからぬ台湾の人々が強い対米不信に悩まされ、米国をもはや台湾にとって「信頼できないパートナー」とみなしている時期に、政争のために選挙で選ばれた国民党の議員を恣意的に選んで罷免することに没頭するのは適切ではないと思っていることが判明したのである。
 
台湾の存亡を言うなら、米国が台湾を見捨てるのか否かの方がもっと重要だと、台湾の人々が思っていることが図表3に如実に表れていると解釈される。

図表4:頼清徳総統に対する評価

財団法人台湾民意教育基金会の調査結果を転載の上、日本語は筆者注 図表4では、頼清徳総統に対する評価を下したようなもので、中国語では「頼清徳の声望」と書いてあるのでそのまま用いたが、「評価が下された」と解釈していいだろう。

これまで頼清徳氏の声望は高かったが、冒頭に書いた、中立的な歴史研究をしている民間団体の主催者が「頼清徳総統による言論弾圧」と言い、弾圧の対象となることをあれだけ恐れているということは、民主主義が歪められていることの証の一つだろうと思われる。それがこの財団法人台湾民意教育基金の世論調査の結果としても、表れているのではないだろうか。

8月23日には別の国民党議員7人を対象としたリコール投票が行われる予定のようだが、このようなことをやればやるほど、頼総統政権は追い詰められていくのではないかと懸念する。なぜなら、国民党議員は再度台湾国民の信任を得たことになり、議会では一層力を発揮することになる可能性が高いからだ。

冒頭に書いた歴史研究をする民間団体は、長春包囲戦(チャーズ)を掘り起こしたいと思っているほどだから、親中であるはずもなく、全くの中立である。長春食糧封鎖では、国民党は長春市内にいる一般庶民を見殺しにしたので、チャーズを掘り下げることは、国民党の味方をする行動でもない。そういった中立の人々が頼清徳政権を「言論弾圧」として恐れるようでは、台湾の民主主義そのものが歪められているのではないかと憂う次第である。【7月27日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
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【リコール失敗の要因分析】
リコール失敗の要因分析については以下のようにも

*****大規模リコール/台湾のリコール「失敗」 原因は国民党の強い地盤や現金配布政策など=専門家****
26日に投開票が行われた最大野党・国民党の立法委員(国会議員)24人らに対するリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票は全てが不成立となった。

複数の専門家が27日までに中央社の取材に応じ、リコール失敗の原因などについての分析を語った。国民党の支持基盤の厚さや動員力の強さを指摘する意見が多く上がった他、リコール推進の社会運動全体を肯定する声も聞かれた。

▽陳文甲氏(政治大学国際関係学部非常勤准教授)
リコール運動で国民党に批判的な市民団体と、運動を支援した与党・民進党は「反中護台」(中国に反対し台湾を守る)を訴えて全力で動員した。だが世論調査では多くの有権者がリコール戦略に疑問を感じていると出ていた。

中間層や無党派層は冷静に投票する傾向にあり、一部で情勢を逆転させた。また国民党が第2野党・民衆党と手を組み、支持基盤を固めたことでリコール回避を成功させた。

▽王宏仁氏(成功大学社会科学部政治学科教授)
反対票は政党(野党)の動員で最大限引き出された。市民団体は当初「適任でない立法委員のリコール」を訴えていたが、結果的には与野党対決になった。民進党本部のリコール支援開始が遅かったほか、投票の対象となった選挙区のほとんどが国民党の地盤が強い地域だったため、同党が組織的動員を通じてリコール不成立に持ち込めた。

▽薛化元氏(台湾教授協会会長、政治大学台湾史研究所教授)
民主主義や憲政体制といった議題よりも、(国民党主導で投票の約2週間前に決まった)1人当たり1万台湾元(約5万円)の現金給付の方が関心を集めたことが結果から見て取れる。国民党の動員力がリコール推進派を大きく上回ることから、投票率が(ほぼ全ての選挙区で)5割を超えたことが国民党に有利な結果をもたらした。

リコール推進の過程で、人々の民主主義や憲政への理解が深まった。また従来は政治活動への参加が男性に偏っていたが、今回のリコール運動では女性のボランティアが多数を占め、台湾社会に好影響をもたらした。

▽張嘉尹氏(東呉大学法学部教授)
野党が掲げた生活に直結する政策が効果を発揮した。リコール推進派の市民団体が力を集めたことが、逆に国民党側の危機感をあおった。リコールが民進党主導ではなく社会運動だったため、動員力の違いが顕著に表れた。

現代の選挙はインターネット戦略が大きな鍵となっている。だがSNSは自身と似た考えを持つ人同士だけで交流する「エコーチェンバー現象」を生み、特に(短文投稿サイトの)スレッズでは(アルゴリズムによって)似た意見ばかりが目につくため、異なる言論を持つ人との関わりが生まれにくい。これも今回の結果と事前の予想が異なった原因である可能性がある。

市民団体が外部からの誹謗(ひぼう)中傷にさらされつつも、最終的に31件もの立法委員リコール案を(署名活動を経て)住民投票に持ち込んだのは、台湾における民主主義の成長の一部分だといえる。実を結ぶまでには時間を要するが、今後選挙に出る候補者にとっては無視できない力となるだろう。【7月27日 台北中央社】
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