
(15日、イスラエル軍が警備するヨルダン川西岸地区のカランディア検問所での衝突 イスラエルの治安部隊がデモ隊に催涙弾を発砲するなどし、70人以上が負傷したとも報じられています。 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/5726062236/ )
【“ナクバ”(大惨事、大破局、大災厄)】
イスラエルは1948年5月14日に建国を宣言しましたが、これによって76万人を超えるパレスチナ人が、住む地を追われた難民となりました。
こうしたパレスチナ人を祖先とするパレスチナ難民の数は現在480万人に上るとみられ、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の推計では、ガザ地区に約100万人、ヨルダン川西岸に約75万人、ヨルダンに約200万人、シリアに約47万5000人、レバノンに約40万人が存在するとされています。【5月16日 AFPより】
土地を追われたパレスチナ人側はこれを“ナクバ”(大惨事、大破局、大災厄)と呼び、15日が記念日となっています。
この“ナクバ”の経緯については、“パレスチナ難民の発生原因については、当時は、ユダヤ人軍事組織によって追放されたというパレスチナ側の主張とパレスチナ人が自発的に立ち去ったというイスラエル側の主張があった。現在では、イスラエルの政府資料や米国の諜報資料が公開され、イスラエル側の主張が虚構であり、大多数のパレスチナ難民は、ユダヤ人軍事組織による大量虐殺(イスラエルの歴史学者イラン・パペによれば、総計2千人~3千人が犠牲になった)、銃器による脅迫、また、ユダヤ人軍事組織による攻撃を恐れて、難民となったことは、学術的に明らかになっている。現在の学術的な争点は、パレスチナ人の追放が予め計画されたものか、それとも戦闘激化に伴った偶発的なものかという点である。”【ウィキペディア】とのことです。
【ゴラン高原でも衝突】
このナクバの15日、ヨルダン川西岸、ガザ地区やゴラン高原など各地でパレスチナ人による帰還を求める抗議行動が起きており、死傷者も多数発生しています。
****パレスチナ:難民デモ 「大災厄」記念日で帰還の権利訴え****
1948年5月のイスラエル建国に伴い、70万人を超すパレスチナ人が土地を追われ難民となった「ナクバ(大災厄)」記念日の15日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ラマラなどで大規模な街頭デモが行われた。故郷へ難民が帰還する権利を訴えた。
ラマラのデモには、難民キャンプなどから数千人が参加。48年に難民として西岸へ逃れたムハンマド・ザドゥクさん(68)は「親族はバラバラになり、その後いとこには一度も会えていない。戻ることで、自らの尊厳を守りたい」と話した。AP通信によると、ガザではデモ隊がイスラエルとの境界に近づき、同国軍が発砲、少なくとも15人が負傷した。
一方で、イスラエルが占領するシリア領ゴラン高原のマジダルシャムスへシリア側からパレスチナ難民とみられるデモ隊の数十人が進入し、イスラエル軍が発砲。4人が死亡したとの情報がある。
東エルサレムでは13日にデモ行進があり、そばにいた17歳のパレスチナ人少年が銃弾を受け死亡した。ユダヤ人が入植している建物にデモ隊が投石し、警備員が発砲したとの目撃情報がある。翌日には、葬儀に参列した若者と警察が衝突した。事態を受け、イスラエルとパレスチナ自治政府は15日、各地で厳戒態勢を敷いた。
イスラエルとの中東和平交渉では、難民帰還権が中核的な議題の一つだが、交渉は昨年9月から途絶えている。イスラエルは48年5月14日に建国を宣言した。【5月16日 毎日】
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イスラエルが実効支配し、シリアが返還を求めているゴラン高原でこうした衝突が起きるのは異例のことです。
“シリア側から数千人規模のデモ隊が流入しようとしたため、イスラエル兵が発砲。1974年に両国が兵力引き離し協定に合意して以来、最悪の事態となった。”【5月16日 AFP】
****ゴラン高原で衝突 数十人死傷****
イスラエルが実効支配するゴラン高原北部で15日、パレスチナ難民中心の反イスラエルのデモ隊がシリア側からイスラエル側へ越境、同国軍部隊からの発砲を受け、フランス通信(AFP)によると2人が死亡、数十人が負傷した。ゴラン高原で衝突が起きるのは異例。
ゴラン高原は1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領、74年に停戦ラインが引かれた。事件について同国当局者は「シリア政府が(越境を)組織している」と指摘、シリアはイスラエル軍の発砲を「犯罪行為」だと非難した。
レバノン国境付近でも同日、パレスチナ難民とイスラエル軍が衝突し、ロイター通信によると10人が死亡した。この日は、イスラエル建国に伴い大量のパレスチナ難民が発生した「ナクバ(大惨事)」記念日で、パレスチナ自治区でも反イスラエルデモが相次いだ。【5月16日 産経】
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シリア政府は、流血の事態に対する「犯罪」行為については全面的にイスラエルに責任があると、イスラエルを非難する声明を発表しています。
また、レバノン政府も「ユダヤ人国家による侵略と挑発を阻止するため」との理由で、国連に苦情申し立てを行っています。
これに対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、テレビ演説のなかで、「彼らの闘争は1967年に画定した国境をめぐるものではない。彼らが絶対に解決せねばならない大惨事と呼ぶものは、イスラエルの存在そのものを問題視することにほかならない」と述べ、「破壊を企てる者から、断固として国境と主権を守る」と言明しとのことです。【5月16日 AFPより】
【現実的には殆んど解決不可能な帰還問題】
中東和平交渉は、イスラエル側の入植問題で、昨年9月から途絶えていますが、難民帰還問題は大きな問題のひとつです。
ただ、現実問題としては、ユダヤ人国家を目指すイスラエル側が多数の難民を受け入れることは考えられず、今や解決が殆んど見込めない問題でもあります。
表向きの発言は別にして、パレスチナ自治政府側にも、交渉を現実に進めるためには一定に譲歩せざるを得ないとの認識もあるようです。
****難民帰還権でも譲歩と報道=パレスチナ内部文書―英紙****
英紙ガーディアン(電子版)は24日、中東の衛星テレビ局アルジャジーラが入手したとする2009年3月24日付のパレスチナの内部文書で、アッバス自治政府議長が「500万人はもとより100万人のパレスチナ難民の引き受けをイスラエルに求めるのは論理的でない」と述べ、中東和平交渉の最大の争点の一つ、「難民問題」で、難民の帰還数制限を認めていたと報じた。
同紙はアルジャジーラと協力し、内部文書に関する報道を行っている。【1月25日 時事】
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