孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

英独と中国の最近の摩擦 宙に浮くEU・中国の包括投資協定

2022-09-17 23:19:44 | 欧州情勢
(【9月17日 ABEMA TIMES】12日に北京のイギリス大使館を弔問し記帳する中国・王岐山国家副主席)

【弔問で英議会にメンツを潰された中国 それでも王岐山国家副主席参列で関係改善を図る】
****エリザベス女王弔問客の列が8キロの長さに 一時受付停止****
イギリスのエリザベス女王を弔問するための列がおよそ8キロに達し、政府は一時的に新たに並ばないよう呼びかけました。

エリザベス女王のひつぎはロンドンのウェストミンスターホールに安置されていて、市民は、国葬が営まれる19日早朝までいつでも弔問できます。

16日は、サッカー元イングランド代表のベッカムさんの姿もありました。
サッカー元イングランド代表 ベッカムさん 「皆、女王の人生をたたえるためにここにいます」

列がおよそ8キロに達したため、政府は16日午前、6時間は列に加わらないよう呼びかけました。現在は再開されていますが、待ち時間は22時間にも及ぶということです。(後略)【9月17日 TBS】
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私は8キロの列とか、22時間待ちとか聞くと気が遠くなってしまいますが、それだけイギリス国民にとって故女王が大きな存在だったということでしょう。トイレとか食事は・・・まあ、簡易トイレなどが大量に設置されているのでしょうが・・・。

当然ながら、「弔問外交」も活発に行われていますが、物議を醸しているのが人権問題で対立する中国との関係。

****英、議会と政府で中国対応割れる 議事堂の弔問拒否 国葬は招待*****
英BBC放送は16日、エリザベス英女王のひつぎが安置されている場所への弔問について、英議会が中国政府代表団の立ち入りを拒否したと伝えた。

ひつぎは国会議事堂のあるウェストミンスター宮殿のホールに安置され、一般市民が14日から弔問に訪れている。一方、英政府は19日にウェストミンスター寺院で行われる国葬には中国も招待しており、議会と政府で中国への対応が分かれた格好だ。

英国は昨年、新疆ウイグル自治区での人権問題を理由に中国当局者への制裁を発動。これに対し中国側は一部の英議員の中国入国を禁じて対抗した。

今回は英議員への制裁に反発するホイル下院議長が、中国代表団による追悼を拒否したと報じられている。安置場所のホールは議会の管理下にあるという。

一方、英政府は既に習近平国家主席に国葬の招待状を送っており、19日の国葬については拒否しない方針だ。中国からは代理で王岐山国家副主席が参列する見通しと伝えられている。だが議会内にはこの政府判断を問題視する声もあり、一部の議員はクレバリー外相に「国葬招待は不適切」との書簡を送ったという。

BBCによると、中国外務省報道官は16日、「英国はホスト国として、外交儀礼や適切なマナーを分かっているはずだ」とコメントした。

英政府は19日の国葬について、ウクライナに侵攻したロシアとその同盟国ベラルーシのほか、ミャンマー、シリア、アフガニスタンなどは招待していない。イラン、北朝鮮は招待したが、国家元首級ではなく大使級の招待にとどめている。【9月17日 毎日】
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日本なら「弔問を断るのは・・・」とウヤムヤになりそうですが、その点英議会の対応は明確なようです。
ウイグル人権問題だけでなく、香港問題で中国にさんざんコケにされた怒りもあるのでしょう。

興味深いのは、メンツを潰されたような中国側の対応が、いつになく抑制的なこと。
議事堂の弔問が拒否されても、王岐山国家副主席が参列するようです。

王氏は最近は陰が薄くなった感がありますが、かつては習氏の看板政策である“虎もハエも叩く”「反腐敗」を主導した盟友で、習近平政権を支えた実力者です。

“バイデン米政権が中国への圧力を強め主要7カ国(G7)などに結束を呼びかける一方、習指導部は欧州や周辺国との外交を強化して切り崩しを図ってきた。外交樹立50年を迎えた英国との関係も強化したいのが本音だ。”【日系メディア】というように、メンツより実をとった形です。

【独連立政権 中国企業の港湾ターミナル買収問題で内部対立 経済界は中国との関係を求める】
欧州と中国の関係で言えば、ドイツと中国の関係もちょっと“揉めて”います。
ドイツ政連立政権内部で中国との関係について意見の対立があるとか。

****ドイツ連立政権、中国のハンブルク港湾ターミナル買収提案で対立****
ドイツ連立政権は、中国海運大手の中国遠洋運輸(COSCO)にハンブルク港湾ターミナルの権益取得を認めるかどうかを巡り意見が分かれている。複数の政府筋が明らかにした。

COSCOは昨年、ハンブルクのドイツ最大の港にある3つのターミナルのうち1つについて、35%権益取得に向けた買収提案を行った。政府の対応は、最大の貿易相手国である中国に対してどこまで強硬な姿勢を取るかを測るものと見られている。

中国に対して特にタカ派であるハーベック経済相(緑の党)は13日、ロイターとのインタビューで、この取引を許可しない方向に傾いていると語った。

一方、3人の政府筋によると、社会民主党(SPD)が主導する首相府は懸念への解決策を見いだしたい考えに傾いている。ショルツ首相は2011─18年にハンブルク市長を務めていた際、拡大する対中貿易を所管していた。

首相府にコメントを求めたが、返答を得られなかった。

中国外務省は、COSCOによる買収提案を政治化しないよう望むとコメントしている。

ハンブルク港マーケティングディレクターのアクセル・マターン氏は「特にCOSCOは近いうちに世界最大の海運会社になるため、(中国の投資は)危険というよりむしろ港にとって大きな利益となる」と述べ、拒否しないよう警告。ロイターに対し「中国に対する拒絶は港だけでなく、ドイツにとっても大惨事となる」と語った。【9月14日 ロイター】
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“ドイツの政界では「経済の対中依存からの脱却」を求める声が高まっているが、ドイツ商工会議所(DIHK)の貿易専門家であるトレイアー氏は、「投資を拒否する明確な基準がない中で、われわれにとってこれほど重要な貿易パートナーからの投資を禁止することは、投資先としてのドイツの魅力に悪影響を及ぼす可能性がある」と述べている。”【9月15日 レコードチャイナ】と、経済界は中国との関係を求めています。

****「脱中国」に舵を切るドイツ政府、経済界から異論「中国市場からの徹底は利益にならない」―独メディア****
独メディアのドイチェ・ヴェレは15日、ドイツのロベルト・ハーベック経済相がより強硬な対中路線を歩む中、経済界から「中国市場と全面的に関係を断つことはドイツの利益に合致しない」との声が上がっていると伝えた。

ドイツ財界アジア太平洋委員会(APA)のフリードリン・シュトラク委員長は15日、ロイターとのインタビューで「ドイツ企業の中国事業に対する政府の支援と保護は維持されなければならない」と語った。記事はこの発言について、「ハーベック氏が打ち出した新たな対中政策についてドイツ経済界が意見を異にしていることを示すものだ」と伝えた。

ハーベック氏は先日、対中強硬路線が実際の政策に転化されつつあると言明。「中国との貿易においてドイツはこれ以上、天真らんまんではいられない」との考えを示した。

記事によると、これに先立ち、ロイターは複数の消息筋の話として「ドイツ経済省は中国市場の魅力を低下させるための包括的な措置を策定している」と報道。

この措置の中には、中国で事業を展開するドイツ企業に対する投資・輸出保証の廃止、中国でのイベントの開催やマネージャーの訓練などを含む小規模プロジェクトの停止などが含まれるという。

ドイツのオラフ・ショルツ首相は今年8月の記者会見で、ドイツ企業に対してサプライチェーンの面でも貿易の面でも中国に依存しすぎないよう呼び掛け、「ドイツ企業はすでにこうした決定を下していると、私は信じている」と述べた。

一方、シュトラク氏は「成長の鍵となる市場である中国での適切なプレゼンスは個々の企業だけでなく、経済全体の視点からも重要だ」とし、「ドイツ政府が繰り返し強調している経済面での中国との“全面切り離し”はドイツの利益にならない」と訴えた。

また、「目指すべきは中国市場からの撤退ではなく、アジアや世界の他地域の成長可能性のある市場をさらに切り開くこと。むしろ、対外貿易の促進を拡大する必要がある」との考えを示した。【9月17日 レコードチャイナ】
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ドイツ経済はウクライナ問題での「脱ロシア」によってエネルギーコスト増大などの多大な負担を強いられています。

****対ロシア制裁で大赤字の独天然ガス企業、政府に再び「救難信号」****
2022年9月9日、中国中央テレビ(CCTV)は、ロシアに対する制裁の影響で巨額の損失を抱えているドイツの天然ガス輸入企業最大手のウニパーが、ドイツ政府に再度の支援を求めたことを報じた。

同局はニュース番組の中で「ウクライナとロシアの軍事衝突、西側による対ロ制裁の影響により、欧州の天然ガス価格が大幅に値上がりしている」とし、すでに巨額の損失を抱えているドイツ最大のロシア産天然ガス輸入業者であるウニパーが先日、ドイツ政府に対して改めて資金援助を求めたと紹介。

同社のCEOが「天然ガス価格の高止まりによって損失が増え続けており、ドイツ政府から支援を受けた70億ユーロ(約1兆円)も9月末に底をつく可能性がある」と語ったことを伝えた。

そして、同社がドイツエネルギー企業の大手であることから、ドイツ世論では同社の倒産がエネルギー業界全体の崩壊を引き起こし、より広範な経済分野に衝撃が拡大するのではないかとの懸念が広がっているとした。

また、ドイツでロシアからの天然ガス供給が激減したことで、同社は高価な現物市場にて天然ガスを購入して契約を履行せざるをない状況となっており、今年1〜6月期の報告では120億ユーロ(約1兆7400億円)の赤字が出て、ドイツ企業史上最大規模の赤字額となったことを紹介。ドイツ政府は先日すでに大規模な支援策を打ち出し、同社に大量の融資を行っていたと伝えている。

記事はさらに、エネルギー価格の高騰がイタリアの各産業にもダメージを与えているとし、43業種の零細企業88万社以上、約350万人の雇用が危機にさらされ、陶磁器、ガラス、コンクリート、冶金、化学工業などのエネルギー集約型産業への影響が特に大きくなっていると紹介した。【9月12日 レコードチャイナ】
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ロシアとの関係も断たれたうえに、中国との関係も抑制されたら、「いったいどうしたらいいのか!」といったところでしょうか。

「脱化石燃料」の動きやロシア・中国との関係など、政治が経済に優先する傾向への不満が経済界にはあるのかも。

【凍結状態にあるEUと中国が大筋合意した包括投資協定(CAI) 中国は「パートナーであり、経済的競争相手であり、体制上のライバル」】
各国で中国との関係には事情・差異は当然ありますが、総じて言えば、2020年12月30日にEUと中国が大筋合意した包括投資協定(以下、CAI)が凍結状態となっているように、EUは中国との関係について警戒感を強めています。

****変わるEUの対中スタンス****
(中略)
2――宙に浮く包括投資協定(CAI)-何が問題だったのか?
1|経緯
EUにとって、CAIは、加盟国が個別に締結した投資協定に替わり「EUと中国間の投資関係で一貫した法的枠組みを構築」すること、すなわち加盟各国が個別に締結した二国間投資協定が並存する分散状態を改めるものである。

最大の狙いは中国におけるEU企業の競争条件の公平化にあった。EUの会社法・競争法がEU企業と非EU企業を区別せず、官民も無差別であるのに対して、中国では外資と国内民間企業と国有企業を差別し、国有企業を優遇していることが問題となってきた。中国市場へのアクセスに関わる様々な障壁、制度・政策面での予測可能性の低さや不安定さも問題となってきた。

(中略)こうした背景から、20年下半期、EU加盟国が半年毎の輪番制で務めるEU理事会の議長国であったドイツのメルケル首相(当時)が「相当強引にまとめ上げた」と評価されているが、「駆け込み合意」、「人権よりカネ」という印象を与え2、域内外で波紋が広がった。(中略)

協定は、双方が必要な手続きの完了を通知した日から2カ月後に発効するが、大筋合意から1年半となる今も発効の目途は立っていない。EU側の手続きが凍結されているためだ。

EUの場合、欧州議会による同意、EU理事会(閣僚理事会)の承認手続きが必要だが、欧州議会は21年5月20日にCAIの批准手続きを賛成599対反対30という圧倒的多数で凍結することを決めた。

21年3月22日に少数民族ウイグル族への人権侵害を巡りEU外相理事会が中国に制裁を決めたことを受け、中国政府がただちに報復制裁に動いたことを受けた決定だ。

欧州議会は、中国の制裁が解除されない限り、審議には応じない方針だが、中国はEUが「人権の先生」として振る舞うことへの反発を強めている。

ロシアによるウクライナ侵攻は、次節で見る通り、中国とEUの価値観を巡る溝を際立たせる要因となっており、協定の発効は極めて困難な状態に陥った。(中略)

3――変わるEUの対中スタンス-合意から一方的手段、代替案へ
1|戦略的自立への指向を強めるEU
19年12月に就任したフォンデアライエン欧州委員会委員長は、自らの率いる欧州委員会を「地政学的欧州委員会」と位置づけている。

EUにとって、地政学的な最大の脅威はロシアだが、地経学的な警戒の対象は中国にある。(中略)

EUは「体制上のライバル」としての中国への意識を強めざるを得ない状況となっている。コロナ禍によって、医療防護具等の中国依存のリスクが露呈したこと、コロナ禍の起源や政策対応の巧拙を巡って、中国が自己主張を強め、体制上の優位性を強調するようになったこと、さらにウクライナ侵攻で、西側が主導して形成してきた既存の国際秩序に対する不満というロシアと中国の共通項が浮き彫りになったからだ。(中略)

4|ドイツの新政権と2022年上半期EU理事会議長国フランスの動き
EUを牽引してきたドイツとフランスは、共にCAIの凍結解除には否定的で、戦略目標実現のための規制強化、通商政策の活用を支持する。

ドイツで21年12月に発足したショルツ政権は、16年にわたる在任期間中に12回訪中するなど、中国への傾斜を強めたメルケル政権に比べて中国に強硬な姿勢を採ると見られている。

連立を構成する3党の協定には、メルケル首相が取りまとめに尽力したCAIのEU理事会による承認は不可能としている。

連立協定には、南シナ海、東シナ海、台湾海峡に関する記述のほか、「台湾の国際機関への実質的参加支持」、「新疆ウイグル自治区の問題を含む中国の人権弾圧に対してより明確に発言」、「香港の一国二制度の復活を目指す」など、中国政府の反発を招きかねない文言も盛り込まれた。

外相に、人権問題により厳しい立場をとる緑の党のベーアボック氏が就任したことも、ショルツ政権が中国に対して強硬な姿勢を採るとの思惑につながっているようだ。

ショルツ政権も、EUと同じく中国を「パートナーであり、経済的競争相手であり、体制上のライバル」と位置付けている。(中略)エネルギーの脱ロシアも急務であり、対中政策はやや後景に退いている感がある。(中略)

中国とのCAIについてはフランスでも早期発効への政治的機運は失われている。マクロン大統領は、CAIの大筋合意に至ったテレビ会談に、ミッシェルEU首脳会議議長、フォンデアライエン欧州委員会委員長、当時の議長国であるドイツのメルケル首相(当時)とともに参加している。

メルケル首相の招待によるものとされるが、マクロン大統領も、この時点では、合意を積極的に支持していたと思われる。しかし、合意からおよそ1年後の演説では、CAIへの言及はない。

リステール貿易・誘致担当相はメデイアのインタビューで「中国の対応が変わらない限り、批准はできない」との見方を示していた。(後略)【7月12日 伊藤 さゆり氏 ニッセイ基礎研究所】
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EUは台湾問題でも中国批判を強めています。

****欧州議会、台湾海峡の中国実弾演習を非難 決議採択****
欧州議会は15日、中国による台湾海峡での実弾演習を非難する決議を賛成多数で採択した。 決議は欧州連合(EU)と台湾の関係緊密化を呼びかけるとともに、中国に対し台湾海峡や地域の安全保障を脅かす行動の自制を求めている。 

中国は先月、ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに反発し、台湾海峡で実弾射撃などの軍事演習を実施した。 

台湾外交部(外務省)は決議採択を歓迎。台湾海峡の平和と安定に対するハイレベルで党派を超えた関心を示すものだとして、台湾への支持に謝意を表明した。 

決議は台湾の通商上の戦略的地位や、半導体など主要ハイテク分野のサプライチェーン(供給網)における主導的な役割に言及し、EUに台湾との関係強化を要請。 台湾に通商代表部を開設するリトアニアの計画を歓迎し、他の国に追随するよう促した。【9月16日 ロイター】
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