孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  民主化勢力との関係改善図る姿勢を見せる政権側

2011-08-25 20:31:12 | ミャンマー

(8月19日 スー・チーさんと会談したテイン・セイン大統領 “8月20日 livedoor ニュース”より)

地方遊説黙認
このところミャンマー政府のアウン・サン・スー・チーさんや民主化運動勢力への“寛容”な対応が目に付きます。
スー・チーさんは14日、昨年11月の自宅軟禁解除後初めての地方遊説を行いましたが、国営紙を通じて「混乱や暴力が起きかねない」と断念するよう強く警告していた政権側は、結局これを黙認しました。

****スー・チーさんが地方演説 軟禁解除後、ヤンゴン外で初*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが14日、最大都市ヤンゴンから北に約80キロのバゴーを訪れて演説し、今後も政治活動にかかわっていく意向を表明した。ヤンゴン以外での政治活動は、昨年11月の自宅軟禁解除後初めて。

スー・チーさんは、自身が率いる国民民主連盟(NLD)幹部らと車でヤンゴンを出発し、バゴーでNLDによる図書館開設の式典に参加。AFP通信などによると支持者ら数千人が出迎える中で演説し、「(政治活動に)最善を尽くしてきた。これからもできる限りのことを続ける」などと述べ、団結を訴えた。

2003年からの軍政による3度目の拘束・軟禁のきっかけは地方遊説だったが、この日は政権側の妨害はなかった。スー・チーさんと政府は12日、国の発展や民主主義の進展に双方が協力するとの共同声明を発表。政治活動を徐々に広げるスー・チーさんに対し、政府はこれまでのところ容認姿勢を見せている。【8月15日 朝日】
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国外活動家の「帰国を歓迎する」】
17日にはテイン・セイン大統領が首都ネピドーで行われた社会政策などに関する会合で講演し、軍事政権時代に国外へ脱出した民主化活動家に対して、「帰国を歓迎する」と述べ、恩赦の可能性を示唆しました。

****ミャンマー:大統領、恩赦示唆 国外活動家の帰国促す****
ミャンマー国営放送によると、テインセイン大統領は17日、首都ネピドーで開かれた会合で演説し、軍事政権時代に国外に脱出した民主化運動活動家に帰国を促した。大統領は活動家たちが帰国を望めば、過去の罪について「考慮する」と恩赦の可能性を示唆した。

帰国が容認されれば、民主化へ向けた大きな一歩となる。ただ、国際社会が強く求める2000人以上の政治犯釈放については言及しておらず、政権内で保守派と改革派のせめぎあいが続いているとの情報もあり、恩赦の実現性については懐疑的な声もある。
ミャンマーでは88年の民主化運動が軍事政権の弾圧で崩壊した後、学生など多数の運動指導者が国外へ逃亡。日本などで事実上の亡命生活を送りながら母国の民主化運動を続けている。

ミャンマーでは今月に入り、記者会見を初めて開催。また民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんの8年ぶりの地方遊説も黙認された。背景には、米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑もありそうだ。【8月17日 毎日】
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また、テイン・セイン大統領は、政府軍との交戦が続くカレン、カチン族など、少数民族の武装勢力に対し、和平交渉も呼びかけています。
ただ、“和平交渉は政府とではなく、関係各州などとの間で行われるべきだとしたため、少数民族側は「政権は停戦を本当に望んではいない」(カチン族関係者)と逆に反発している”【8月20日 産経】とも。

こうした政権側の“寛容”な対応は、上記記事にもあるように、“米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑”があるという見方が一般的です。

大統領は「真の肯定的な変化を望んでいる」】
政権側の柔軟姿勢は更に加速する形で、ミャンマー政府は19~21日に首都ネピドーで開かれた経済発展に関する会議にスー・チーさんを招待し、19日には3月の民政移管で就任したテイン・セイン大統領と初めての会談も行われました。

****スー・チー氏、ミャンマー大統領と面会 双方に対話姿勢****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが19日、首都ネピドーで、テイン・セイン大統領と初めて面会した。政府筋が明らかにした。政権トップとの面会は2002年以来。双方の対話姿勢を国内外に印象づける動きとして注目される。
政府筋によると、面会は大統領府で行われた。内容は明らかにされていない。(後略)【8月19日 朝日】
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約1時間の会談の内容は明らかにされていませんが、大統領の側近は「国民和解へ向けた重要なステップだ」と語っています。
また、その後、スー・チーさんはテイン・セイン大統領との会談について「満足している」「大統領との会談は非常にうれしく、勇気づけられた」とも語っています。

****ミャンマー:スーチーさん、大統領との会談「満足*****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(66)は20日、首都ネピドーで地元記者団に、前日のテインセイン大統領との初めての会談について「満足している」と語った。
「今後も大統領との対話を続けるのか」との質問には「そうしたい」と述べ、政府との対話や協力関係構築に前向きな姿勢を示した。

会談について19日夜の国営テレビは「異なる意見を脇に置いて、友好的かつ率直に今後の協力への道筋を探った」と報じた。スーチーさん率いる国民民主連盟幹部は毎日新聞に「スーチーさんと政府の対話の始まりとなるだろう」と歓迎した。

スーチーさんは20日午前、初めて政府主催の経済改革会議に出席。地元記者によると、リラックスした様子で同席した政権の閣僚と笑顔で言葉を交わしていたという。この後、初のネピドー訪問を終え、自宅のあるヤンゴンに戻った。

一方、国連人権委員会でミャンマー問題を担当するキンタナ特別報告者が21日から5日間の日程でミャンマーを訪問する。ミャンマー政府がキンタナ氏の入国を許可したのは昨年2月以来。大統領が民主化勢力との対話・協調路線を加速させる中、前回訪問時は拒否されたスーチーさんとの会談も、今回は認められる見通しだ。【8月20日 毎日】
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上記記事にある国連人権委員会でミャンマー問題を担当するキンタナ特別報告者と会談したスー・チーさんは、記者会見で、テイン・セイン大統領について「真の肯定的な変化を望んでいる」と述べ、高く評価する考えを示しています。

*****スー・チーさん、大統領を評価 「変化望んでいる*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは24日、最大都市ヤンゴンで、19日に初会談したテイン・セイン大統領について「真の肯定的な変化を望んでいる」と述べ、高く評価する考えを示した。
AFP通信によるとスー・チーさんは、自宅で国連人権理事会のキンタナ特別報告者との会談後、集まった報道陣に語った。
ミャンマーを21日から訪問しているキンタナ氏は、昨年2月の訪問の際は、当時の軍事政権からスー・チーさんとの面会を拒否されていた。今回は「ミャンマー政府の協力を得られている」と述べた。【8月25日 朝日】
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なお、国連人権委員会のキンタナ特別報告者は、スー・チーさんとの会談後の24日、ヤンゴン郊外にあるインセイン刑務所を訪問し、収容されている政治犯と面会しています。

スー・チーさんは、大統領との会談後、政府官僚・学者・経済関係者らが参加し、経済改革の方向性などについて議論する政府主催の経済改革会議に出席しています。

****スー・チーさん、政府の経済会議出席 貧困対策など議論****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは20日、首都ネピドーで開かれた政府主催の経済改革会議に出席した。前日のテイン・セイン大統領との初会談に続き、政府と協調する形となった。
会議では、貧困対策などについて有識者や政府高官が議論した。出席者によると、スー・チーさんは閣僚らとともに最前列に座り、周囲の人たちと談笑していたという。 (後略)【8月25日 朝日】
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【「文民政府であることを示したいのだ」】
また、政権側は、前年の総選挙をボイコットして解党したスー・チーさんの国民民主連盟(NLD)に、合法政党として登録するよう呼びかけているそうです。

****反政府勢力に歩み寄るミャンマー政権、その真意は****
ミャンマー政権は、同国の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんら体制批判者に歩み寄ることで、国際社会で孤立した国というイメージを拭い去ろうとしている。だが、政権が実質的な改革を行うかどうかは依然、不透明なままだ。

新政権には、選挙に立候補するために軍籍を離れた者が多い。形の上では非軍事政権であるミャンマー政権は、スー・チーさんと親密な関係を築こうと最近になってさまざまな手を打っている。
スー・チーさんは19日、首都ネピドーで、テイン・セイン大統領と初めて会談した。会談の申し出にはスー・チーさん本人も驚いた。1時間に及んだ2人の会談の詳細は明らかになっていないが、専門家は政権にとって大きな一歩だと指摘する。

タイのシンクタンクVahu Development Instituteのアウン・ナイン・ウー氏は、政権は、軍部ではなく自分たちが国の責任者であることを示したいのだと語る。同氏は、「彼らは国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」と述べ、背後にどんな思惑があるにせよ、会談はミャンマー政府と反政府勢力が和解する上で「極めて重要だ」と指摘した。

■次々と歩み寄り姿勢示す「非軍事政権」
スー・チーさんはこの数週間で、ヤンゴンで労相兼交渉担当相と2度にわたって会談し、首都で大統領と会談し、ヤンゴン市外に出て支持者数千人を前に遊説した。ミャンマー当局はさらに、前年の総選挙をボイコットして解党したスー・チーさんの国民民主連盟(NLD)に、合法政党として登録するよう呼びかけてさえいる。

また新政権は、国連人権理事会の特別報告者、トマス・オヘア・キンタナ氏と政府高官との協議を1年ぶりに再開することを決めたほか、少数民族の反政府勢力にも和平交渉を呼びかけている。

この動きについて、米国を拠点とするミャンマーの研究者、ウィン・ミン氏は、反政府勢力への政権の対応に改善が見られたとはいえ、「新たな門出なのか、それとも空疎なジェスチャーなのか」を判断するのは時期尚早だと指摘する。「(新政権は)反政府勢力の一部の活動を容認し、開発問題について反政府勢力と協力することで、地域や国際社会に受け入れられたいと考えている」

軍部の政治的代弁者であるミャンマー政権は、次期総選挙の1年前にあたる2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国となることを目指している。
ある専門家は、ミャンマー政府は総選挙を前にASEAN議長国としての威信を手にしたいと考えているが、過去半世紀近くにわたって軍事独裁政権が支配したミャンマーで政治的自由や少数民族武装勢力との和解といった根本的な改革を進めるには、長い時間がかかるだろうと述べた。【8月23日 AFP】
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“政権が実質的な改革を行うかどうかは依然、不透明なまま”とは言え、一連の政権側の対応は、これまでの軍事政権の対応からすれば考えられないほどの柔軟姿勢であることは間違いありません。
民政移管については、実質的な軍事政権の延長と見られていますが(実際、制度的には軍部の意向が国の方向を決められるようになっており、軍幹部が軍服を脱いで選挙に出た議員も多数いますが)、人間は軍服を脱げばそれなりの変化はおきます。

非常に素朴ではありますが、政権側に関する“「彼らは国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」”という指摘は、案外重要なことかと思います。

テイン・セイン大統領も軍部出身で、タン・シュエ前議長の「忠実な部下」「典型的なイエスマン」【ウィキペディア】とも評されていますが、“「実務家肌で軍中心の利権構造への関係が薄く、改革を進めても自身は失うものがない」(外交筋)とされる。軍政当時から首相として国際会議に出席し、国際社会の雰囲気にも通じている”【8月20日 毎日】とのことです。

政権側が民主化を本当に実現する考えがあるのかどうかを論じるより、この機会を利用して民主化に向けた動きを少しずつでも積み重ねていけるようにすることが、将来における“民主化”を実現する道を切り開くのではないでしょうか。

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