(11月18日、ソマリア沖でタイの漁船を「海賊の母船」と誤認して撃沈したと言われているインド海軍のフリゲート艦“Tabar” なお、“Tabar”とはサンスクリット語で、闘いに使う斧の意味とか。 “flickr”より By DEEPAK>
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【海上、更に陸上も】
実質的な無政府状態が続くソマリア沖での海賊行為の横行に対する国際的な取組みが報じられています。
国連安全保障理事会はアメリカ・フランスの主導(日本も共同提案)で12月2日、1年間の期限付きでソマリア領海内での実力行使を含む制圧行為などを加盟国に認める決議を全会一致で採択しました。この決議は各国がソマリア領海内で海賊の取り締まりのために「必要なあらゆる措置」を取ることを認めています。
更に16日、国連安保理はアメリカの主導で、ソマリア領海に加え陸上・領空での軍事作戦を承認する決議案を全会一致で採択しました。これで各国は海賊制圧のため陸海空から部隊を展開できることになりました。
“主権国への他国軍の侵入を許す異例の決議の背景には、ソマリアが無政府状態に陥っていることがある。作戦はソマリア暫定政府の許可を得て実施される。ライス米国務長官は決議について「(海賊に)非常に大きな打撃を与える」と評価した。しかしAP通信によると、米軍は現時点で地上攻撃などは視野に入れていないという。”【12月17日 毎日】
国際的な海賊封じ込め活動の一方で、海賊はその活動範囲を拡大しているとの報告もあります。
国際海事局海賊情報センター所長は、これまでソマリア沖を拠点としていた海賊らは、東はケニア沖640-800キロから南はタンザニア沖まで、活動範囲を東方および南方に大きく拡げていると指摘しています。【12月9日 AFP】
【EU海軍始動】
こうした国際的流れのなかで、先ず行動を起こしたのがEUです。
EUは8日の外相理事会で、ソマリア沖の海賊対策のため軍艦と航空機を派遣し、EU初の海上作戦を行うことで合意しました。
派遣されるのは英国、フランス、ギリシャの軍艦各1隻と、フランス、スペインの偵察機各1機。ドイツも同国議会の承認が得られ次第、軍艦1隻を派遣することになっており、最終的には、少なくとも8加盟国が参加する見通しとのことです。
この海域では、既に北大西洋条約機構(NATO)の艦船4隻が海賊防止・パトロールなどを実施していましたが、これらの任務はEU艦隊に引き継がれました。
併せてEU艦隊は、人道支援物資をソマリアに届ける国連世界食糧計画(WFP)の貨物船の護衛も行います。
EUはこれまでアフリカやバルカン半島での平和維持・人道支援活動を行ってきましたが、陸上作戦に限られており海上作戦は初めての取組みです。
このEUの行動を【12月24日号 Newsweek誌】は若干の皮肉をこめて報じています。
“EUは国連からコンゴ東部の紛争地域に部隊を送ってほしいと要請を受けている。だが、景気後退による財政難などを理由に、一部加盟国は派遣に難色を示している。ところがアデン湾での海上作戦に反対の声は殆どなかった。EUにとって目下の課題であるシーレーン防衛に力を入れることができるからだ。何より重要なのは“EU海軍”の力を誇示するいいチャンスになるということだろう。大したコストもリスクも伴わずに。“
【ソマリア海賊とコンゴ東部紛争】
ソマリアの海賊は経済的に大きな問題です。
ただ、海賊の目的は身代金ですから、基本的には生命に危害を及ぼすことはしていません。
海賊の基地となっている町には、拘束している者のためのレストランまであるそうです。
一方、コンゴ東部の紛争は大勢の犠牲者が発生しており、更に多くの人々が難民となって逃げ惑っています。
また、ソマリア海賊が元漁師が軽武装した集団であるのに対し、コンゴの反政府勢力は政府軍を相手に戦う“軍隊”です。
コンゴでは1万7000人規模の国連平和維持部隊が活動していますが、国連はEUに対し、国連の増強部隊が到着するまでの4カ月間、約3000人の部隊の派遣を要請しています。
しかし英独が反対するなど、EU各国はこの要請に消極的な姿勢を見せています。
どちらがより深刻で早急の対策が必要な事態かという点については、そのような比較は軽々にはできないとの考えもあるでしょう。
しかし、どちらがEUにとってメリットがあり、どちらがコストが低く、どちらがリスクが少ないかという比較の答えは考えるまでもなく明らかです。
【日本へも要請】
なお、EU艦隊のフィリップ・ジョーンズ司令官(英国)は9日、日本の海上自衛隊の艦船がEUの海上作戦に参加する可能性について、日本政府と協議していることを明らかにしています。
司令官は「EU部隊に参加する可能性のある(EU域外の)欧州、アフリカ、極東の国々と協議している。日本はその一つだ」と述べています。【12月10日 毎日】
おそらく日本政府も、イラク空自撤収後の活動として、シーレーン確保・海自海外派遣の実績づくりのメリット・アフガン派遣などに比べたら格段にコスト・リスクが低いことなどを検討しているところかと思われます。
【中国も艦船派遣 米中軍事交流】
ソマリアには中国も艦船派遣を決定しています。
“中国国防省は20日、海賊事件が多発しているアデン湾などソマリア沖海域に、海軍の駆逐艦2隻と補給艦1隻を派遣すると正式に発表した。
26日に海南島・三亜から出航する。外務省の劉建超・報道局長によると、自国船舶のほか、人道支援物資を運ぶ国際機関の船舶護衛を主な任務にするという。”【12月21日 読売】
中国海軍として初の遠洋での警備活動となります。
この中国の艦船派遣は中国にとってのプレゼンス誇示となるだけでなく、米中軍事交流という側面もあるそうです。
****米中軍事交流の改善に期待、米太平洋軍司令官 中国艦隊のソマリア派遣で****
米太平洋軍のティモシー・キーティング司令官(海軍大将)は18日、中国がソマリア沖の海賊対策のためアデン湾周辺海域に艦隊を派遣する準備を進めていることについて、米中軍事関係の修復につながるとして歓迎する意志を示した。
中国は、米国の台湾への武器売却に抗議し、10月から米国との軍事交流を中止しているが、キーティング司令官は記者団に対し、「(アデン湾では)中国海軍と緊密に協力することになるだろう」と述べ、中国艦隊のソマリア沖派遣が、米中軍事交流の復活につながるとの期待を示した。
キーティング司令官によると、中国人民解放軍がアデン湾で活動するにあたっての情報提供について、すでに軍や政府の諸機関と連絡を取り合っているという。【12月19日 AFP】
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ソマリア海賊は、自分達の意図しないところで、EU、日本、中国、アメリカなど各国の様々な思惑を導いているようです。