(荒れ狂うギリシャの若者 “flickr”より By murplej@ne - under deconstruction
http://www.flickr.com/photos/murplejane/3098761766/)
【単なる暴力事件・・・ではなかった】
多くの事件がそうでしょうが、発生当初はその意味するものに気づかず、漫然と見過ごしてしまいます。
ギリシャで6日から続く若者の暴動もそんなひとつです。
****アテネで「黒覆面団」が暴徒化、ギリシャ各地に広がる*****
ギリシャの首都アテネ中心部で6日夜、警察と衝突した黒覆面の一団が暴徒化し、観光客に人気のあるエルムー通りの商店のガラス戸やショーウインドーを破壊したり、放火したりした。
暴動は北ギリシャのテッサロニキ市など5都市に拡大した。
警察の発表によると、約30人の黒覆面の一団が、アテネ市内を車でパトロール中の警官と口論の末、ビールの空き瓶や石を投げたのが発端。警察側の発砲で16歳の少年が死亡し、一団は、応援に駆けつけた特別機動隊と衝突したという。ほかに死傷者は出ていない。
黒覆面団は、大半が極右、極左の過激派。警察国家反対や反グローバル化などを唱え、労組や学生らのデモにも加わって、しばしば騒動を起こしている。【12月7日 読売】
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“黒覆面の若者の暴徒化”という記事を目にして、日本のあちことで起きる単なる暴力事件の類といった印象で、全く関心を持ちませんでした。
しかし、暴動は収まることなく、海外へ、更に反政府運動・ゼネストへと拡大していきます。
【国外へ飛び火 国内ではゼネスト】
****ギリシャ暴動、国外に飛び火 ベルリン市内の領事館占拠*****
ギリシャの暴動は8日、国外にも飛び火した。政府に抗議する若者らがベルリン市内のギリシャ領事館を占拠したほか、ロンドンやキプロスのニコシアでも抗議活動が行われた。【12月9日 朝日】
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ベルリン、ロンドンのほか、パリ、ローマなどの欧州各地や、モスクワやニューヨークでもデモが行われています。
“暴動はギリシャ国外にも波及している。トルコのイスタンブールにあるギリシャの領事館には左派系グループによって赤ペンキがまかれ、モスクワやローマのギリシャ大使館には火炎瓶が投げつけられた。スペインやデンマークではデモが起き、計40人以上が逮捕された。”【12月12日 産経】
中道右派政権を率いるカラマンリス首相は9日、最大野党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のパパンドレウ党首と緊急会談を行い、危機克服への結束を訴えましたが、同党首は「国民は政府への信頼を失った」として首相退陣を要求。
左派野党・労組側は10日、ゼネストに突入、国の大部分で交通・行政機能がマヒする事態に陥いる事態となりました。
こうした問題の拡大の背景には、政治家の汚職まん延、経済危機による雇用不安への若者たちの怒りがあるとされています。
【怒れる若者】
****ギリシャ:アテネ暴動6日目 目的なく暴れる若者 未来への不安抱えネット情報で集結****
「理由なき革命というのか、こんなことは初めてだ」。中心街のオモニア広場に近い新聞社「アポキフマティニ」のマキス・デリペトロス編集次長(48)は疲れ切っていた。暴動発生以来、社屋が3度も暴徒に襲われたためだ。
毎日続くデモには、インターネット情報で学生、労働者に加え、アナキスト(無政府主義者)と呼ばれる若者が集まり、無秩序な固まりとなる。「何かを要求すれば政権も応えようがあるが、スローガンなしに暴力に走る」
「我々は政権退陣を求めるデモをしに来たんだ」。そう語るアテネ大のマリオさん(22)らは暴徒を押しとどめようとするが、らちがあかない。高級レストランの前で、暴徒は強化ガラスをたたき「いい物食いやがって」などと叫ぶ。客たちが奥に逃げていく。
「1日9時間働いて月700ユーロ(約8万5000円)。暴動の原因は貧しい若者の怒りだ」。毎日来ているというアントニーさん(30)はヘルメットをかぶり、ポケットの石を見せた。
世界経済危機で先の見通しは暗く、国営企業の合理化で失職者も多い。「具体的に何をという事を言えなくても、若者たちは漠然と未来を恐れている」。デモを見に来たナイトクラブ店員、タキスさん(63)は「彼らの暗さはギリシャだけの問題じゃないと思う。この世代が何を恐れているのか、くみ取る必要がある」と話した。【12月12日 毎日】
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中道右派のカラマンリス政権は「小さい政府」志向で、国有企業民営化、労働市場自由化を進めましたが、その一方で“格差”が拡大、規制緩和で労働者への保護制度が減らされ、特に、20歳代若者の失業率は21%にもなっています。
****燃え広がる若者の怒り クリスマスどころじゃない****
「初任給は低い。大学の卒業証書はトイレットペーパー並み。結婚するためには仕事を2つ、3つ掛け持ちしなければならない」。10日、暴動についての民間テレビの討論会で、出演者の青年が若者を代表して不満を語った。
ギリシャの若年労働者の初任給は 700ユーロ(約8万5000円)程度だ。1人当たり国民総所得は2006年で約2万1700ドル(約 200万円)で、欧州最大の経済国ドイツはこれの約 1.5倍。だが、01年のユーロ流通後、物価上昇が続き、生活必需品の値段は両国ともほぼ同じ水準という。
就職できるのはまだ幸運だ。地元紙カティメリニによると、失業率7%台のギリシャでは特に20代の若者の失業率は高く、21%に達する。大学生の半数が卒業後就職できない厳しさだ。
さらに、世界的な金融危機による景気の落ち込みが国民を直撃。AP通信によると、世論調査の回答者の4分の3が将来を悲観していると答えた。
中道右派のカラマンリス政権は「小さい政府」志向で、国有企業民営化、労働市場自由化を進め、年金改革などによる歳出削減も計画。インフレを抑え込み企業活動を活発化させたとの評価がある一方、貧富の差が拡大した。現在は国民の約2割が貧困層との統計もある。”【12月13日 共同】
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“「なぜ暴動を起こすのか」との問いに「生活も、職も医療も何もない」と、タオルで顔を隠した学生らが口々に話した。”【同上】
【ギリシャだけでなく・・・】
若者の苦境は欧州共通の現象です。
“隣国イタリアでは、非正規雇用の広がりで月収千ユーロ(約12万円)以下で暮らす高学歴の若者が「千ユーロ世代」と呼ばれて社会問題化しているが、ギリシャではさらに収入が少ない「600ユーロ世代の若者」が話題だ。
スペイン28%、フランス20%など同年代の失業率の高さは欧州に共通する。” 【12月13日 朝日】
暴動鎮圧のため、ギリシャ警察は既に4000発以上の催涙弾を使用。残りが少なくなったとしてイスラエルに発注したそうです。
こうした事態に各国政府も事態の推移を注視しています。
サルコジ仏大統領は与党議員との会合で「ギリシャで起きていることに注意すべきだ」と語ったと報じられています。
労働市場自由化に伴う格差の拡大、非正規雇用の増加、一部若者の貧困化・・・これらは日本でも進行している事態です。
“ワーキング・プア”が問題になってきましたが、派遣・期間社員の解雇が進む昨今の不況・雇用縮小のなかで職を失えば、単なる“プア”です。
ほかの問題はともかく、経済的には概ね成功を収めたはずの戦後日本において、“貧困”が今語られるようになっています。
ギリシャの若者の暴動は、このような社会のあり方について、あらためて考えることを求めています。