(インド側カシミールのトラック・・・とは言っても、これはラダック地方のヒッチハイクの様子のようです。 印パ国境での交易にあたるトラックもこんな感じでしょう。 “flickr”より By deeptrivia
http://www.flickr.com/photos/deeptrivia/214129641/)
いま最もホットな話題のひとつが、インド・ムンバイでのテロ後のインド-パキスタン間の関係悪化がどこまで行くのかということでしょう。
“偽電話”なども登場して賑やかです。
ただ、両国とも核保有国であることを考えると、由々しい事態でもあります。
****空爆警告電話は本物? 印パ非難合戦、事態悪化も***
インド・ムンバイでの同時テロを受け、パキスタンがインドに対する牽制を強めている。
ハッサン駐英大使は6日、英BBC放送とのインタビューで、インドがテロ直後、パキスタン国内のイスラム過激派の訓練キャンプを急襲する計画を持っていたと語った。大使は「パキスタンに教訓を与えるために、インドがパキスタン国内にある訓練キャンプなどに対し、空爆などを計画していた証拠がある」と述べた。
また、パキスタン政府高官はロイター通信に対し、ザルダリ大統領が11月末、インドのムカジー外相からパキスタンへの軍事行動を示唆する電話を受け、パキスタン軍がその後24時間、厳戒態勢を敷いたことを認めた。パキスタン情報相は6日、電話は間違いなくインド外務省からだったとしている。
これに対し、ムカジー外相は7日、改めて声明を発表し、そのような電話はしていないとしたうえで、「一連の動きは、ムンバイのテロを実行したパキスタンに拠点を置くテロリストグループから、注意をそらしたい人間によるものだろう」と述べ、パキスタン側の姿勢を批判した。
ただ、7日付のインド紙ヒンズーによると、インドのシン首相は先週訪印したマケイン米上院議員に対し、パキスタン政府が容疑者引き渡しに応じない場合、パキスタンに空爆を加えると伝えたという。同議員が6日、パキスタンのラホールでの講演で明らかにした。
いまのところ、インド、パキスタン両国とも部隊の国境地帯への移動などは行っていないが、非難合戦から事態がエスカレートする可能性もある。【12月8日 産経】
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【非難の応酬】
インド当局は、パキスタンを拠点とするイスラム過激派「ラシュカレ・トイバ」の犯行との見方を示していますが、5日付のインド各紙はインド情報機関筋の話として「事件にパキスタン軍情報機関(ISI)が関与した」と報じています。
ニューヨーク・タイムズ(電子版)も3日、米政府の複数の情報機関が、パキスタン国軍、特にその傘下の情報機関「軍統合情報局(ISI)」の元将校らが実行犯を訓練、支援していた、との判断に達したと報じています。
こうした報道に対し、“パキスタン各紙はこぞって反論。「パキスタンへの非難は、インド情報機関(RAW)が事件を防げなかった無能力ぶりを隠ぺいするため」(英字紙ドーン)などと応酬する。民間テレビ「ジオ」は、ISI元長官の「アフガンの対テロ戦にインド軍を参加させるため、米国が事件を起こした」とする謀略説まで放送した。”【12月6日 毎日】という状況です。
パキスタン政府は、パキスタンを拠点とする過激派による犯行であるとの具体的な証拠を提示するようインド側に求めています。
【アメリカによる調整】
悪化する両国関係を憂慮するアメリカはライス国務長官を派遣して、事態の沈静化をはかっています。
****「テロに国内組織関与なら摘発」 パキスタン大統領*****
パキスタンのザルダリ大統領は4日、イスラマバードを訪問したライス米国務長官と会談し、インド・ムンバイの同時多発テロに国内組織が関与していることが判明すれば取り締まることを表明した。ライス長官はパキスタン政府の協力を評価し、テロ後に緊張が高まっている印パ両国が協力してテロに対処する必要性を強調した。
ライス長官がインドに続きパキスタンを訪問したのは、同時テロを機に関係が悪化している両国に自制を求めるのが狙い。
パキスタン政府によると、ザルダリ大統領はインド側への捜査協力を改めて表明し、「パキスタン領土をテロ活動に使わせない」と述べた。また「攻撃に関与したことが判明したどのようなパキスタンの組織に対しても強い措置を講じる」と説明した。同時テロにはパキスタンのイスラム過激派「ラシュカレ・トイバ」の関与が疑われている。 【12月4日 朝日】
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こうした流れのなかで、インドからの批判をかわす狙いか、パキスタン軍は7日、同国が実効支配する北部のアザド・カシミールの拠点都市ムザファラバード近郊で、インド・ムンバイの同時テロに関与したとされるイスラム過激派ラシュカレ・トイバのアジトを急襲、爆破したと報じられています。【12月8日 時事】
【偽電話】
ここ数日の主な動きは以上ですが、いくつか思うこともあります。
先ず、第一に、“偽電話”の件。
インド・ムカジー外相が電話したのか、しなかったのか、真相はわかりません。
どちらかがウソをついているならいいですが、これが本当に“偽電話”だったとしたら、つまり、インド・ムカジー外相の名をかたる偽電話が実際にザルダリ大統領のもとにあったとしたら、それは非常に怖い話のように思えます。
パキスタン・ザルダリ大統領がどの程度パキスタン国軍を把握しているのかは心もとないところですし、パキスタンで核使用がどのようになされるシステムなのかは全く知りませんが、いずれにしても核保有国大統領のもとに、対立国外相の名前で偽電話がかかる・・・そんなことが実際ありえるのなら、とんでもない事態を引きおこしかねない危険性を孕んでいると言えるでしょう。
もし、今以上に軍事的に緊張した事態で、不審者による偽電話があり、その内容が“インドはイスラマバードに核攻撃を行う”というものだったら、パキスタン側もニューデリーへの攻撃態勢にはいるのでしょうか?
そのとき電話の真偽を確認する時間的余裕はありません。
偽電話と言えば、昔の田中前首相逮捕がらみで三木首相にかけられた鬼頭判事補の事件を思い出します。
中曽根幹事長逮捕という嘘の情報を伝えて三木首相から指揮権発動の言質を取ろうとしたもので、会話は1時間に及んだそうです。
最近では“偽”ではありませんが、アメリカ共和党下院議員がオバマ次期大統領からの電話を、いたずら電話と間違えて一方的に切ってしまったなんて話題もありました。
【テロリストの思う壺】
緊張する印パ情勢に思うことの二点目は、両国の対立はテロリストの思う壺にはまっているように思えることです。
印パ関係はこれまでも何度も危機を経験しましたが、今年10月21日からは61年ぶりにカシミールでの印パ交易が復活したばかりでした。
****カシミール地方の印パ貿易、再開*****
インドのジャンムー・カシミール州とパキスタン領カシミールの間で10月21日から再開される越境貿易に関して、両国の当局は20日、最終確認を行った。
19日には、停戦ラインにかかる「平和の橋」を意味する橋「Aman Setu」が大型トラックの重さに耐えられるか確認するため、両側からトラックをテスト走行させた。
パキスタン政府が承認したトラックが21日に、「Aman Setu」を渡って、インド側に新鮮なフルーツやそのほか日用品を運んでくる。カシミール渓谷で、双方から輸送用トラックが往来するのは、実に61年ぶりのことである。
分断前に両側の見本市で商売をしていた、現在85歳になるライナワリ出身の男性は、「これでジャンムー・カシミール州の歴史も新しく塗り替わるのだろうけど、思い出すのは、60年余りの間にパキスタン領で亡くなったカシミール地方の人たちのことだ」としみじみ話した。彼らは1947年にパキスタン側で拘束されてから、家族にも会うことができなくなったと、その老人は語る。(後略)【10月21日 インド新聞】
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今現在この交易がどうなっているのかは分かりません。
ただ、61年ぶりの“雪解け”ムードが吹き飛んだことは間違いないでしょう。
テロリストの目的は知りません。
もし報じられているようにカシミールで活動していた「ラシュカレ・トイバ」が関与しているのであれば、彼らにとって自分達の施設への政府軍攻撃以上に受け入れ難いのは印パ間の友好関係進展でしょう。
その意味で、最近の両国の対立には大喜びしているところでしょう。
あるいは、インド国内では事件の衝撃から、アフガニスタンでのイスラム武装組織を掃討する米国主導の対テロ戦に参加すべきだとの声が出始めているとも言われています。
しかし、印パ国境をはさんでインドと長年対峙するパキスタンにとって、自国の“背中側”のアフガニスタンにインドが軍事展開することは容認しがたい事態です。
そうなれば、印パ関係が更に緊張するだけでなく、アメリカの主導するテロとの戦いの枠組みが崩れてしまいます。
これまた、テロリストが喜ぶ展開でしょう。
【煽り立てるマスメディア 激昂する世論】
もひとつ思うことは、マスメディアの対応、それによって誘発される“世論”というものについてです。
インド、パキスタン双方の国内紙は、こぞって相手側を非難する記事を掲げています。
もともと対立の根が深い両国のことですから、国民の間で“パキスタンの起こした事件だ!”“インドはいつもパキスタンのせいにする!”という非難・不信感は容易に燃え上がります。
センセーショナルに煽るのがマスコミと言うもので、強硬な論調ほど読者に喜ばれるものだと言ってしまえばそれまでですが、政治家は世論の動向をみながら政策決定する“民主的社会”にあって、煽られた“世論”は国を危険な道にも導きます。
激昂する世論をなだめ、落ち着かせるようなメディアのあり方・良識はないのでしょうか?
まあ、今回は政治家自体が最初からパキスタンを非難する方向で誘導していましたので、マスメディアだけの責任ではありませんが。