孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  分離壁の聖地ベツレヘム、観光客回復 変わる中東和平交渉メンバー

2008-12-19 16:38:56 | 国際情勢

(昨年のクリスマス・イブのベツレヘム “flickr”より By nickolette22
http://www.flickr.com/photos/nickolette/2180026413/)

【観光客は回復したものの、相変わらずの“監獄”】
クリスマスも近いので聖地ベツレヘムの話題。

****パレスチナ:ベツレヘムに客足戻る 今年の観光、100万人突破*****
イエス・キリスト誕生の地とされるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムの観光客数が今年、100万人を突破した。パレスチナの反イスラエル抵抗闘争(第2次インティファーダ)が起きた00年以来の最高記録で、クリスマスを目前に控え、主要ホテルはどこも予約で満室の状態だ。治安の回復が観光客を呼び戻しているといい、地元は「早く真の平和が実現してほしい」と願いを強めている。(中略)
しかしベツレヘムの町は、イスラエルが自国の治安維持を理由に建設した「分離壁」に取り囲まれ、厳しい移動制限を強いられたままだ。タマリ・ベツレヘム県知事は「今こそパレスチナとイスラエルが共存を実現する歴史的な機会だ」と強調した。【12月19日 毎日】
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ベツレヘムにはイエスが生まれた洞窟の場所に建つとされる「聖誕教会」があり、世界中からキリスト教の巡礼者や観光客が訪れます。
名前はよく耳にする場所ですが、私はベツレヘムがイスラエル領内にあるものとなんとなく思っていました。
実際は、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にあって、エルサレムのすぐ南に位置しています。
内外を結ぶ道路にイスラエルが78カ所の検問所や土盛りを設け、記事にもあるようにイスラエルが建設する分離壁に周囲を囲まれています。

人口は約3万で、キリスト教徒は市街地で41.3%、地方全体で26%。
2000年9月からの第2次インティファーダ、2001年~2002年のイスラエル軍侵攻という混乱が続き、ウィキペディアによると、2000年からの6年間で1万人が海外に移住したといわれます。
紛争は観光産業に壊滅的な打撃を与え、2000年には月9万人を超えていた観光客が04年は月7200人と激減。ホテルの稼働率は3%に届かず、失業率は07年頃でも6割を超える状態と言われていました。

そのことからすると、冒頭記事にある観光客年間100万人というのは、2000年当時の水準に回復してきたことが窺われます。
ただ、分離壁によって隔離された状態は相変わらずで、旅行者の話では街中でも更に壁の建設が進み、街の居住者でも往来がままならない状況になってきているとか。
04年、ローマ・カトリックのサバハ・エルサレム総大司教はクリスマスメッセージで「分離壁はベツレヘムを巨大な監獄にした」と語っています。

【正真正銘の“監獄” ガザ地区】
観光客増加を可能にしたベツレヘムの最近の治安回復は、武力闘争を主張するハマス勢力がヨルダン川西岸地区から移動してガザ地区に集中したことによるのでしょう。
このことは、今度はガザ地区を正真正銘の“監獄”状態にしています。

イスラエル軍は経済封鎖だけでなく、ガザ地区との境界沿いに1500メートルの範囲で、『Sentry Tech』(ハイテク歩哨)と呼ばれる監視塔による「自動殺傷ゾーン」を建設しているとか。

「敵対行動をしているとおぼしき標的を検知し、それがSentry Techにある武器の射程範囲にある場合、指定された標的を攻撃し殺傷する。複数の施設を1人のオペレーターで操作できるので、オペレーターが確認と査察、さらに標的との交戦を行なう際に複数の監視塔を使用できる」[過去記事によると、1カ所の指令センターは最大15カ所の銃座をコントロールできるが、将来的には承認不要の全自動式も検討しているという。銃座は数百メートル間隔で配備]【12月8日 WIRED VISION】
“承認不要の全自動式” 「自動殺傷ゾーン」・・・相当に不気味です。

それはともかく、ここ半年イスラエルとハマスの間で停戦が維持されていましたが、18日、ハマスは停戦終了を宣言しています。

【停戦終了 出口はどこに?】
****ハマス、ガザ地区でのイスラエルとの停戦終了を宣言
パレスチナ自治区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは18日、ガザ地区でのイスラエルとの6カ月間の停戦が終了したと宣言した。これにより、ガザ地区での衝突が激化することも予想される。
ハマスは声明で、停戦終了の理由は「敵(イスラエル)が義務を順守しなかったため」と説明している。
一方、イスラエルはこれまで、停戦がパレスチナ人の利益となり、無期限に継続されるべきと主張している。
ガザ地区では11月に入り、イスラエル側とパレスチナ側の衝突が再び始まり、今週に入って双方に死傷者が出るなど、緊張が高まっている。【12月19日 ロイター】
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イスラエルの経済封鎖によって巨大な“監獄”と化しただけでなく、更に銃弾が飛び交い新たな血が流される事態も懸念されます。
イスラエルによって土地を奪われたパレスチナ人の怒り・悲しみも、長年の迫害を耐えてようやく安住の地を手にしたユダヤ人の思いも、ともに共感できるところです。
しかし、自分たちの主張のみを力で押し通し相手の存在を認めようとしない立場からは、出口がまったく期待できないことは明らかです。

どんなに不満足でも互い銃を置き、違法な入植地や分離壁建設を止め、イスラエルに対するテロ攻撃を放棄し、交渉のテーブルに着くことでしかパレスチナ住民の生活を守る途はありません。
ブッシュ大統領による中東和平は不調に終わりましたが、オバマ次期大統領の指導力に期待したいものです。

【変わる交渉当事者】
ただ、交渉当事者がイスラエルも変わります。
汚職疑惑で退陣を表明したオルメルト首相の後を受けて、与党第一党カディマ(中道右派)のリブニ党首によって新たな組閣交渉が行われていましたが、結局組閣を断念、来年2月10日に総選挙が実施される運びとなっています。
“日刊紙イディオト・アハロノトが10月27日に発表した世論調査では、現時点で選挙を実施した場合、与党第1党で中道右派のカディマが最大議席数を維持するものの、野党の右派リクードが躍進し、中道左派の労働党を大きく引き離して2番手につけている。”【10月29日 AFP】
右派リクードが躍進ということになると、中東和平のハードルが更に高くなりそうです。

一方のパレスチナ側もアッバス議長の地位が微妙になっています。
議長の任期は原則4年で、05年1月に就任したアッバス議長は来月で任期満了となります。
ただ、選挙法の改正で次の議長選は2010年1月に予定される評議会選と同時に実施するという例外が設けられ、議長はこれを根拠に残留の構えです。
一方、ハマスは原則通りの議長選実施を要求。実施しない場合、アッバス氏は失職し、議長代行が就任すると主張しています。代行にはハマスのドウェイク評議会議長(イスラエルに拘束中)が有力だとか。

****パレスチナ:アッバス議長の任期切れめぐり内政が混迷******
1カ月後に迫ったアッバス・パレスチナ自治政府議長の任期切れをめぐり、パレスチナ内政が混迷している。議長は法改正で任期を1年延長する構えだったが、対立するイスラム原理主義組織ハマスが反発。議長は、ハマスが第1党を占める評議会(国会に相当)の解散をちらつかせて圧力をかけるなど、権力闘争の様相を強めている。
(中略)
アッバス議長は年内に和解が進展しなければ「議長、評議会の両選挙を実施する議長令を来年初めに出す」と表明。議長筋は「ハマスがガザでの選挙を妨害するなら西岸だけでも実施する」と強気の姿勢を見せている。
だが、ダブル選挙を強行すれば、逆に分断状況を強め、中東和平交渉にも影響しかねない。パレスチナ情勢は正念場を迎えている。【12月6日 毎日】
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イスラエルに対する武装闘争を誤りだったと明言し、軍事手段によらない解放闘争の必要性を訴えてきたアッバス議長ですが、そのことが過激派の反発を強め、また、ファタハ支配の腐敗もあって、 アッバス議長の指導性が発揮できないファタハ・ハマスの分断状態が続いています。
記事のような政治混乱状態となれば、中東和平は更に遠のきます。

【「神の地である当地が、ある者にとっては命の地であり、別の者にとっては死、排斥、占領、政治的牢獄の地であってはならない」】
アッバス議長は例年、ベツレヘムの教会で行われるクリスマスの深夜ミサに参加しています。
昨年のクリスマス、アッバス議長も参加した生誕教会でのミサで、サバハ総大司教は世界中から集まった数千人の信者を前に「神の地である当地が、ある者にとっては命の地であり、別の者にとっては死、排斥、占領、政治的牢獄の地であってはならない」「歴史の主たる神の名においてここに集まった者すべてが、この地に命、尊厳、平穏を見いだすことができなければならない」と語りかけました。
大司教はイスラエルに交渉を促す意味で、「弱者が服従し、搾取される生活が続くことがあってはならない。すべてを手にしている者には、本来弱者に属すべきものを自ら手放し、弱者に与える務めがある」と問いかけていますが・・・。


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