(北京オリンピックが開催される中国での人権抑圧に抗議するため、今年8月アテネで始まり、世界各国を回った「人権トーチ・リレー」 “flickr”より By Steve Rhodes
http://www.flickr.com/photos/ari/2394988467/)
【世界人権宣言60周年】
「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である・・・」という書き出しで始まる世界人権宣言。
1948年12月10日の第3回国連総会で採択されました。
【ウィキペディア】によれば、世界人権宣言は条約ではなく総会において採択された決議であることから、法的拘束力がないのではないかという問題があるそうですが、“宣言が採択された当時は拘束力がなかったものの、その後に宣言を基礎にした各種人権条約の発効や各国の行動によって現在は慣習国際法になっているとする説”が現在は多くの支持を得ているそうです。
宣言が決議された12月10日は毎年「世界人権デー」とされていますが、先日10日で宣言採択から60年を迎えました。
****世界人権宣言60周年、国連総会で決議採択****
世界人権宣言が採択されて60年の10日、国連総会は記念の本会議を開き、「人権や基本的な自由がいまだに全世界で守られていない現状に遺憾の意を示す」とともに、宣言に盛り込まれた人権の実現を誓う決議を採択した。
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は声明で、「宣言は国連のアイデンティティーの中核をなすものだ。我々は宣言に盛り込まれた人権を守るために、共に行動しなければならない」と訴えた。【12月11日 朝日】
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【中国「08宣言」】
ところで、中国における人権問題については多々論じられているところですが、それらの問題の根幹には、自由な意見・批判を許さない共産党一党独裁という政治システムがあるように思えます。
****中国で一党独裁の終了求め署名 作家や弁護士ら303人****
世界人権宣言の採択から60周年となる10日、中国で共産党の一党独裁体制の終了や人権保障などを求める文書がインターネット上で発表された。「08憲章」と題し、著名な中国人作家や弁護士ら計303人が署名している。中国で、これほど多数の人が実名で公に一党独裁を批判するのは異例。香港の人権団体によると、署名した著名作家で民主活動家の劉暁波氏は既に拘束されたという。【12月10日 共同】
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上記「08憲章」は「共産党が政治、経済、社会の資源を独占し、政治改革を拒否し、官僚は腐敗、道徳も荒廃し、社会が二極分化している」と主張し、全面的な民主選挙の実施や司法の独立など19項目の要求を掲げています。
署名は海外14カ国・地域に広がり、国内外の440人が新たに追加署名しています。
当局は「民主化勢力」と「社会不満分子」との結びつきを強く警戒しているそうで、起草者とみて拘束した著名作家で民主活動家の劉暁波氏について、国家政権転覆扇動罪を適用し正式に逮捕するかどうかは、高いレベルの政治判断に委ねられるもようとのことです。【12月12日 産経】
広東省深セン市で、民主活動家グループが「国家改革建議書」と題する民主化要求の文書を街頭で市民に配ったのに対し、当局は配布を妨害せず、事実上黙認したといった動きもありますが、一方で、12月4日の「法制宣伝日」に、各地で相次ぐ不当な土地強制収用や公安当局者らによる市民への暴行などに抗議するため地方から集まった100人以上の陳情者が、中国国営の中央テレビ前で拘束され、バスに強制的に乗せられて連行された・・・といった記事も相変わらずよく目にします
人権問題の根深さは地方に行くと更に際立ちます。
“中国の新京報は8日、同国東部山東省新泰市当局が、地元当局の不正行為を中央政府に訴えた市民をこれまでに少なくとも18人拘束し、精神病院に監禁していると報じた。なかには抵抗したため薬物を投与され衰弱させられた人もいるという。訴えを取り下げると解放された。”【12月8日 AFP】
こうした人権侵害・社会問題の根本的な解決のために、自由な批判・議論が政治的に保障されることが必要ですが、「08憲章」への対応にみられるように、当局は政治の根幹に触れる動きに対しては頑なな姿勢を崩していません。
天安門事件のような多くの流血を繰り返さないと“北京の春”はやってこないというのでは残念なことです。
【死刑廃止への流れのなかで】
日本の関係で人権問題が国際的に指摘されるのが死刑廃止の問題です。
****国連委:死刑停止決議を採択 支持増加、日本は反対****
国連総会第3委員会(人道問題)は(11月)20日、死刑執行の一時停止などを求める決議案を賛成多数で採択した。同種の委員会採択は2年連続で、支持は6カ国増えた。日本は07年に続き反対した。12月の総会で採択され正式な決議になるが、死刑執行停止を求める国際社会の圧力は確実に増加している。
決議案は欧州連合(EU)やオーストラリア、イスラエルなどが提案し、賛成105(07年99)、反対は日本、米国、中国、イランなど48(同52)、棄権はキューバなど31(同33)だった。決議に強制力はない。
決議案は、07年に採択した決議を再確認し、潘基文(バンギムン)事務総長が先日、総会に提出した報告で、死刑廃止は世界の流れであるとして執行の一時停止を提案し、停止が難しい場合でも執行に厳しい規制をかけるよう推奨したことを歓迎。2年後の総会で、その時点での死刑廃止状況と死刑を存続させている国への働きかけ方について、改めて話し合うよう求めている。
委員会の協議で、死刑維持派のシンガポールやエジプト、スーダン、シリアなどは「司法制度の選択は主権国の権利であり、外部から押しつけるべきでない」と主張。一方、イタリアやフランスなどは、「人命尊重の観点から、死刑執行を停止すべきだ」と説明した。日本は決議採択後、「わが国の世論調査では、死刑が支持されている。死刑については国際的合意もない」と反対理由を説明した。
国連の報告によると、7月1日現在、死刑を廃止もしくは事実上廃止している国・地域は141に上っている。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、89年に100カ国だった死刑執行国は、07年には24カ国にまで減少した。国連の規約人権委員会は10月30日、死刑廃止へ向けた取り組みを日本政府に求める勧告を盛り込んだ「最終見解」を公表している。【11月21日 毎日】
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ガザ封鎖を行っているイスラエルが死刑執行一時停止決議案の提案国というのもなんとなく・・・という感もありますし、殆ど弁護らしい活動もないまま公開処刑をしているような国と一緒にされたくないなとの思いもありますが、まあ、よその国の話はともかく、日本のことです。
“国際的な流れを背景に、死刑を維持する日本への風当たりは強まっている。国連で日本の人権状況が取り上げられる際には死刑制度が最大の焦点だ。関係者は「フランスが81年に廃止した時も世論調査では過半数が死刑維持派だった」と指摘し、死刑制度維持の理由に世論を挙げる日本への不快感を隠さない。
今年5月に行われた人権理事会の対日審査でも、各国から死刑廃止や執行停止を求める意見が続出。日本が「(死刑囚)本人への(執行の)事前通知は苦悩する時間を増やし、かえって残酷」などと抗弁した時には、議場に失笑が広がった。”【11月19日 毎日】
確かに、“死刑が妥当じゃないか”と私自身も思うような残忍な事件が多いことも事実です。
ただ、被害者家族を前面に押し出して“極刑しかない!”と大合唱するTV番組等の昨今の社会的風潮は、B級西部劇の“奴を吊るせ!”と迫る群衆のようで、馴染めないものも感じます。
日本の常識がときに海外では非常識になることもある・・・そういうことも含めて考えるべき問題なのかも。