(バングラデシュ・ダッカ 2006年、総選挙を控えてデモが頻発していた頃の写真のようです。 ただ、どういう趣旨のデモかはわかりません。 “flickr”より By colonos
http://www.flickr.com/photos/colonos/361717867/)
バングラデシュでようやく(2年ぶり)非常事態宣言が解除され、延期されていた総選挙が今月29日に行われることになりました。
****バングラデシュ:非常事態宣言2年ぶり解除 暫定政府*****
バングラデシュ暫定政府は17日、07年1月に発令した非常事態宣言をほぼ2年ぶりに解除した。29日に実施予定の総選挙に向けた措置。宣言発令は、2大政党のアワミ連盟(AL)とバングラデシュ民族主義党(BNP)の暴力的対立が理由だったが、非常事態下で新たな政治勢力は育たず、両党による旧来と同じ構図の選挙戦になりそうだ。
ALのハシナ元首相とBNPのジア前首相は非常事態宣言後、暫定政府による汚職摘発を受けて拘置状態にあったが、11月までに両氏とも釈放された。
06年10月にジア政権が任期満了を迎え、総選挙態勢に入ると、両党間の対立は激烈さを増し、選挙管理内閣(暫定政府)のアーメド大統領が非常事態宣言を発令し、総選挙を08年末に延期した。
この間、06年ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行のユヌス総裁が新党設立を計画して国内外の注目を浴びたが、両党の強い政治基盤を前に「勝てる見込みはない」と断念している。【12月17日 毎日】
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【腐敗した旧二大政党政治】
バングラデシュにおいては、バングラデシュ民族主義党(BNP)とアワミ連盟(AL)の二大政党が交互に政権を担ってきました。
07年7月18日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070718)でも紹介したように、この二大政党の党首はいずれも女性で、似たような経歴で、かつ非常に仲が悪いという特徴があります。
与党BNP党首は前首相のカレダ・ジア。
彼女はジアウル・ラーマン元大統領(軍部出身で、軍政から民政に移行させた。)の未亡人で、夫ジウル・ラーマン元大統領は軍部のクーデターで暗殺されました。
野党AL党首は元首相のハシナ・ワゼド。
彼女はバングラデシュ独立時の初代大統領ムジブル・ラーマンの長女で、父ムジブル・ラーマン元大統領も軍部クーデターで殺害されています。
両党による政治支配によって社会に汚職が蔓延し、私怨と利権目的の政治対立はしばしばハルタルと呼ばれる暴力的なゼネストの形をとって国民の生活を圧迫していました。
06年末の総選挙を控えてこの混乱を収拾すべく、選挙管理内閣(暫定政府)のもと、アーメド大統領が07年1月非常事態宣言を発令し、総選挙を08年末に延期しました。
【暫定政府 強権的腐敗一掃】
暫定政府は非常事態宣言のもとで軍部の力を背景に、これまでの腐敗・汚職、更に社会全般の犯罪行為を強権的に一掃することとし、ALのハシナ元首相とBNPのジア前首相を汚職の罪で告発する荒療治に出ました。
この間、汚職政治家の逮捕、犯罪者の検挙、物価の統制などの暫定政府施策に国民はおおむね好意的だったとも報じられています。
当初は両党首を国外亡命に持ち込むつもりだったようですが、両党首がこれに応じず、逮捕収監することになりました。
しかし、非常事態宣言のもと両党首が収監されたままでは総選挙には応じられないとするAL、BNP既存政治勢力の反発も大きく、結局、暫定政府側も総選挙実施のためには両党首の釈放、そして非常事態宣言解除も已む無しとの判断にいたったようです。
(ハシナ元首相は釈放後、病気治療のため渡米(自主的亡命にも等しいとも)したと報じられていましたが、現在どうなっているのかよくわかりません。)
既存政治勢力による腐敗・汚職構造を一掃しようとする暫定政府の思惑は、やや“尻すぼみ”に終わったようにも見えます。
もとより、選挙に基づかない暫定政府の強権的手法には問題も多々あったところです。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は今年8月、バングラデシュの特殊治安部隊(軍や警察の精鋭を抜粋して編成)がここ2ヵ月間に少なくとも50人にのぼる市民を非合法に殺害している疑いがあることを報告しています。
“HRWによると、特殊部隊による殺害は過去4年間で540人以上にのぼる。2007年から今年初めにかけては減少傾向にあったものの、ここ数ヶ月で急増しているという。
これらの事件について、バングラデシュ当局は「銃撃戦に巻き込まれて死亡した」と説明しているが、同団体は「実際には、市民を拷問の末に超法規的に殺害した上で、銃弾戦に巻き込まれたかのように偽装したに過ぎない」と非難。また、拷問・殺害等の行為によって刑事罰を受けた特殊部隊の隊員はいないという。”【8月27日 IPS】
【試される民主主義】
民主的な混乱か、強権的な秩序か・・・という選択は、しばしば悩ましい問題となります。
ただ、汚職・犯罪行為一掃のためなら何をしても、どういう手段でもいいという訳ではありません。
民意に基づかない強権は、治安回復をもたらしたように見えても、長い目で見ると民主政治と国民の権利を圧殺してしまいます。
来るべき総選挙による民政復帰が、今回の経験を糧として、従来の混乱・汚職・腐敗から少しでも遠ざかるものになることを願います。
もし、国民が“これなら、やはり暫定政府の強権政治のほうがよかった・・・”と思うようなことになれば、政党関係者は自分たちの手で民主主義を絞め殺しことに他なりません。