孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  イスラエルの大規模空爆に、後に引けないハマス 紛争激化の懸念

2008-12-29 12:05:38 | 国際情勢

(ガザ地区の少女 “flickr”より By smallislander
http://www.flickr.com/photos/28722516@N02/3142813863/)

【息を潜めるガザ地区住民】
27日、イスラエル軍はパレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスを標的とした大規模な空爆を実施。
死者は200人越え、28日もイスラエル軍の空爆は続行されています。
イスラエル軍はガザ地区境界に戦車部隊を集結させているとの報道もあります。

“(ガザ地区の)市民の間には、終わりの見えないイスラエル軍攻撃への不安が広がっている。商店の大半がシャッターを閉めたままの一方で、開店中のパン屋の前には買いだめに走る人々が殺到した。多くが外出を避けて家の中に閉じこもり、「家族全員、死ぬのも生き残るのも一緒だ」(地元住民)と息を潜めているという。”【12月28日 AFP】

戦争の恐怖は知る由もありません。
子供の頃、家が倒壊する台風に襲われたことがあります。明かりが消え、きしむ家の中で、夜が開けて台風が通り過ぎるのを家族がじっと息を殺して待ちました。そんな息苦しさを思い出します。

【読み違い?】
イスラエルは半年続いた停戦の延長を望んでいましたが、「停戦の公約を尊重せず、ガザ地区の封鎖を続けている」としてハマスが拒否。
その後、ハマスなどの武装勢力はイスラエルに対するロケット弾攻撃を激化させていました。

ハマスも政治部門は停戦再発効を模索していたようですが、軍事部門がこれを拒否。【12月29日 朝日】

****ガザ空爆 報復合戦“悪夢再び” ハマス、強硬路線裏目****
停戦の失効に伴い、ハマス武装部門を中心としたガザの武装勢力は連日、ロケット弾をイスラエル領に撃ち込んでいた。戦闘状況を悪化させることで、次の「停戦」に向けて国際社会の介入を呼び込み、「封鎖解除の徹底」などハマス側の求める条件を交渉に反映させたいとの狙いがあったとみられる。

イスラエルの総選挙が2月に予定されていることから、ハマスは投票日近くまで戦闘を長引かせ、戦闘が続く中で投票日を迎えたくないイスラエル中道右派の与党、カディマから譲歩を引き出せると計算したとの指摘もある。世論調査によると対パレスチナ強硬派の右派リクードとカディマの支持率は拮抗(きっこう)しており、戦闘が長引けば国内世論は右に振れ、リクードに有利に働く可能性があるからだ。

こうしたハマスの狙いを読んだカディマと、連立与党の中道左派・労働党は激しい反撃に出ることで、「次の停戦交渉でも決して妥協はしない」との姿勢を明確にしたものとみられる。
ただ、攻撃の犠牲者が大規模であったことから、パレスチナやアラブ世界の「反イスラエル世論」が沸騰し、ハマスは当面、武力衝突を激化させざるを得なくなったばかりか、逆にハマスのアラブ世論内での政治的立場を強める可能性もある。自爆テロ再開も含めて、状況が双方の思惑を超えて制御不能の事態に陥る可能性も否定はできない。【12月29日 産経】
*********************

選挙後の新政権ができるまで政府を率いるイスラエル・オルメルト暫定首相は、ガザへの本格攻撃に慎重と見られていました。
ロケット弾攻撃を激化させてイスラエルの反撃を誘い、逆にイスラエルによるガザ地区封鎖の“非人道性”を国際社会に訴えることを狙っていたハマスにとって、“想定以上”の被害が出たことも“裏目”のひとつとされています。
200人以上の犠牲を出したハマスは、もはや後に引けなくなった形です。
シリア在住のハマスの指導者マシャル氏は、パレスチナ人に「第3次インティファーダ(反イスラエル闘争)を呼びかける」と語っています。

イスラエル政府が28日の閣議で軍事作戦の準備状況などを検討するため、同日以前の攻撃開始はないと伝えられていたことで、ハマス側にとって予想外の攻撃となり、“想定以上”の被害を出す結果となったとも報じられています。【12月28日 毎日】

【弱腰批判を恐れるイスラエル与党】
総選挙を控えて“弱腰”との批判を受けたくないイスラエル与党の事情が今回の攻撃の背景にあります。
“イスラエル政府を率いる中道右派カディマは来年2月の総選挙を前に、ロケット弾攻撃の阻止を求める世論から「及び腰だ」と厳しく批判されてきた。対パレスチナ強硬派の最大野党リクードが支持率を伸ばすなか、最近では和平推進派の左派政党メレツでさえ「ガザ攻撃やむなし」と主張する状況だった。”【12月28日 毎日】

今後、ハマス側の自爆テロなどの攻撃が激化すると、後に引けなくなるのはイスラエルも同じです。
“イスラエル領内で再び自爆テロが起きればイスラエル世論が強硬になるのは必至で、現政権はさらに激しい攻撃をしなければならない状況に追い込まれる可能性がある。”【12月28日 毎日】
“ただ、イスラエル軍が空爆だけでハマスを崩壊させるのは不可能で、大量の地上兵力を投入して「再占領」をする必要がある。この場合にはイスラエル兵自身の多大な犠牲も覚悟しなければならず、強硬な対応が逆に選挙に悪影響を及ぼす恐れもある。” 【12月29日 朝日】

来年1月に誕生する米国のオバマ次期政権は、イスラエルによるガザへの本格的な軍事攻撃には慎重な姿勢と見られているため、イスラエルがオバマ氏の就任前に駆け込みの軍事攻撃をした・・・との見方も各紙が報じています。

【イスラエル批判の中東、理解を示す米英】
国連安全保障理事会は28日未明、ガザ地区における全ての軍事活動の即時停止と、全当事者に人道危機に対処することを求める声明を出しました。
当初ロシアが提出した声明案の文言は米国の強い求めで表現が弱められ、最終的な声明文ではイスラエルとハマスのいずれにも言及しないことで合意されたとのことです。【12月28日 AFP】
また、“議長声明”にアメリカが難色をしめし、公式文書ではない報道機関向け声明の形になりました。

中東諸国はイスラエル非難を強めており、アラブ22カ国・機構で作る「アラブ連盟」は来年1月2日にカタールの首都ドーハで緊急首脳会議を開く方向です。
また、イラン最高指導者ハメネイ師は28日、イスラエルはイスラム諸国によって罰せられなければならないとして、パレスチナ人を守るようイスラム教徒に訴える声明を出しています。

一方、アメリカのライス国務長官は27日、ハマスのイスラエルに対するロケット攻撃を強く非難し、「停戦違反とガザにおける暴力の再燃はハマスの責任だ」と指摘、ガザの情勢悪化は全面的にハマスの責任との見方を示しています。【12月28日 時事】
イギリスのブラウン首相は27日、イスラエルのオルメルト首相と電話会談し、パレスチナ自治区ガザでの軍事作戦で自制を示すよう促す一方で、同日の声明では、「ガザの民兵に対し、イスラエルへのロケット攻撃を即時停止するよう求める」として、イスラム原理主義組織ハマスを非難。
「イスラエル政府には、自国民を守らなければならないという義務がある」として、イスラエル側に理解を示しています。

フランス・サルコジ大統領は声明でパレスチナ側の「無責任な挑発行為」と、イスラエルによる「過度の武力行使」を非難し、「イスラエルへのロケット弾攻撃と、イスラエルのガザ砲撃の即時停止」を求めています。

こうしたハマス支持の中東諸国、イスラエルに理解をしめす米英・・・という構図のなかで、日本の河村官房長の「非常に残念だ。ゆゆしいことだ。」という発言は、責任・白黒を明確にしない日本らしい表現で、不謹慎ですがユーモラスでもあります。

【グルジア紛争とパレスチナ 闘いはいつも・・・】
イスラエルの譲歩を狙ったハマスのロケット弾攻撃、弱腰との国内批判を受けたくないイスラエル、予想に反したイスラエルの即時・大規模反撃、想定外の被害、後に引けなくなったハマス、今後のハマスの反撃次第でイスラエルも泥沼に引き込まれる懸念、イスラエルの過剰反応を非難する中東諸国、先に手を出したハマスを非難する米英・・・グルジア紛争の展開を思わせるものがあります。
グルジアでも、ロシアの反応を読み違えたグルジア側の先制攻撃で紛争が始まり、グルジア・ロシア互いに後に引けない状況においこまれました。弱腰と批判されたくない政権基盤の弱いメドベージェフ大統領の事情もあったと推察されます。

“相手の出方を読み違う”“想定外の展開で後に引けなくなる”“弱腰との国内批判を恐れる”・・・そのうち状況は制御不能に激化する・・・戦争はいつもこうして始まります。

【和平を望まぬ武装組織 それを支持する世論】
イスラエルとの共存を認めず武闘路線に走るハマスがガザ地区を支配する限り、パレスチナに平和はないように思います。
血であがなわれるインティファーダとイスラエルの侵攻があるだけです。
おそらくハマスのような武装組織は、闘争自体が目的であり、闘争においてこそ存在意義が発揮される組織ですから、市民生活の安定・和平を望むインセンティブがそもそも欠落しているのではないでしょうか。
“平和になってもらっては困る”と本音では考えている・・・というのは言いすぎでしょうか。

今回のような衝突によって、パレスチナ人のハマス武闘路線支持が更に強まることが予想されます。
“既に東エルサレムやヨルダン川西岸自治区でパレスチナ人による抗議デモが頻発。西岸の中心都市ラマラでは、数十人のパレスチナ人がイスラエル軍に投石し、軍がゴム弾などで応戦する事態に発展した。西岸の別の町ヘブロンでも同様の衝突が起きた”【12月28日 毎日】
暴力の連鎖を選択するのであれば、パレスチナの苦しみの責任の一端はパレスチナ人自身にもあります。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする