その危機感が示されているのが、デービッドソン氏がアメリカ議会に提出した米中の戦力の比較などをまとめた資料です。
戦力という点で、台湾海峡を含む東アジアにおけるアメリカ軍の優位性が急速に崩れていると主張しています。
東亜戦力比較
資料には、この20年あまりのアメリカ軍と中国の人民解放軍の戦力バランスの変化がわかりやすくまとめられています。
いまから23年前の1999年にさかのぼると、アメリカ軍はこの地域で1隻の空母のほか、強襲揚陸艦を4隻配備していました。
これに対して、中国にそうした艦艇はありません。
中国の影響力がおよぶ範囲は、沖縄や台湾を結ぶ第1列島線と呼ばれるラインにとどまっていました。
実際に、1996年に起きた「台湾海峡危機」ではその差がものをいいました。
李登輝 元総統
当時、台湾では、独立姿勢を強めていると中国が警戒した李登輝総統が初の民主的な選挙で選ばれる可能性が高まり、中国は台湾海峡のふたつの海域を封鎖して、演習としてミサイルを発射。
軍事力を誇示して、選挙を控える台湾に圧力をかけたのです。これに対して、アメリカは台湾周辺に2隻の空母を派遣、中国は力で押さえ込まれるかたちとなりました。
それから20年あまりがたった去年、2021年時点では、米中の戦力のバランスは中国側に傾いています。
アメリカの戦力は大きく変わらないのに対して、中国は空母を2隻保有するようになりました。
そのほか、強襲揚陸艦や潜水艦、それに戦闘機の数でもアメリカを上回るまでに増強されています。
それに伴い、中国の影響力は、第1列島線を越え、グアムなどを結ぶ第2列島線と呼ばれるラインにまでに到達。日本もその範囲のなかに入っています。
そして、さらに、いまから3年後の2025年の戦力比の予測では、その影響力は西太平洋全域に広がると指摘しています。
中国が、この戦力の差を背景に、力で台湾統一を押し進めようとしたとき、アメリカはそれを思いとどまらせることができないおそれがある。
それがデービッドソン氏が伝えたかった懸念です。
デービッドソン氏が指摘した2027年までの期間は、いまでは軍事関係者などの間で“デービッドソン・ウインドー”とも呼ばれ、危機までの残された時間、という捉え方をされるようにもなっています。
デービッドソン前司令官
「この地域でのアメリカと同盟国の能力の低下を懸念している。台湾での危機は地域全体の危機にもなる」
台湾で懸念が高まる中国の脅威 台南空軍基地
では、台湾では中国の侵攻の可能性への懸念は高まっているのでしょうか?台湾で取材すると、中国の軍事的な圧力が強まっている一端が見えてきました。
取材をしたのは、台湾南部にある台南空軍基地。
日本のメディアが取材を認められるのは初めてです。
基地は、台湾の南西空域を管轄していて、スクランブル=緊急発進で戦闘機が飛び立つ回数は、台湾の基地のなかで最も多くなっています。
(続く)
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