豊田の生活アメニティ

都市デザイン、街歩き・旅行、くらし

「人口減少社会のデザイン」

2020-03-20 | 気になる本

 広井良典(2019)『人口減少社会のデザイン』東洋経済新聞社
 彼の著書は「コミュニティを問い直す」、「定常型社会」を読んだ程度である。歴史的社会変化、資本主義社会の限界から他分野の研究で、今日テーマに焦点をあてて論点と政策提起をしている。人口減少社会のテーマは新しくないが、その原因は何か、どう対応するかの理解によって、取り組む課題や政策は違ってくる。
 政府の借金を他人事と捉えない。福祉を求め、将来の世代に借金をツケとして回している。最優先で取り組む課題としているが、終章で消費税をヨーロッパ並みにあげろ、と言っている点は同意できない。もっとも、高いヨーロッパの税率で福祉と教育が完全に保障されているのか、生活必需品は0%にするのかは不明である。日本のように消費税をあげても社会保障は良くならないばかりか、法人税の引き下げに使っている。また、アメリカからの武器の爆買いもしている。政府は企業の優遇税制で雇用の拡大、賃上げ、設備投資で税収も増えると考えているのであろう。この点は「定常型社会」とどう対置するかである。ポスト資本主義もその模索をすべきである。つまり、資本(大企業)の利潤追求姿勢、自動車中心のものづくりの偏りからどう抜け出すかでもある。以下、本文を引用し豊田市に引き寄せてコメントする。
車の街豊田市でもAIやIoT、ウォーカビリティ、スマートシティなど掲げるが、ベースが違い上滑りしていると思う。本ではドイツの人口約50万人のハノーファーを事例に、都市の中心部から自動車が排除され、「コミュニティ空間」となっている。ぜひ訪れてみたい都市が増えた。他にもフランクフルトなどの事例を紹介している。(交通政策の転換、「新都市H24年3月号」)これまで豊田市は都心に駐車場を4400台も作り、車乗り入れから一転、フルモールを目指すとした。それだけで、賑わいが出来るのか疑問である。これまで都心には再開発事業で35年間1千億円以上投資してきた。綺麗になったが賑わいはない。賑わうのはラグビーのワールドカップとサッカーの試合が年10回程度あるその時だけで、一過性のまちづくりである。せめてトランジットモールではないか?ここでは姫路市の事例が紹介されている。(「建築雑誌」2017根年6月号内平他)
荒川区自治総合研究所では「幸福度」の総合指標を研究し、100の自治体が幸福の政策を検討している。豊田市では都市データパックの「幸福度」中核市ランキング1位を自慢しているが、この指標は財政力、選挙投票率、雇用などが含まれ指標の再検討が必要であると思う。日本の高齢化率が高いのは、少子化が問題である。少子化の原因は未婚化と晩婚化である。若い世代の生活や雇用の不安定ないし困窮が、少子化の要因の1つになっていて、若い世代への支援というテーマが重要である。豊田市では出生数が減っている。また家族形成世帯が岡崎、みよしの近隣市へ転出超過も問題である。公営住宅は入居待ちが100世帯を超え、聖心町、樹木町の若者向け住宅では空きがある。保育園は当初の入園待ちはないが、年度途中は待機となる。また、公立保育園が多かったが、公設民営化を増やしている。小中の少人数学級は市民運動で進んできたが、小4~6年生は未実施である。隣のみよし市は完全実施である。昨年度は小学6年生が2人一緒に自殺するという、痛ましい事件があった。
 「一層の小局集中」に向かうのか、「多極集中」に向かうのか分岐点にある。「一局集中」、「多極分散」でもなく、「集約的」で歩行者中心の「コミュニティ空間」を提案している。豊田市は立地適正化計画を受け、「多核ネットワーク」で鉄道駅を核にして、人口を駅近くに誘導しようとしている。さらに「選択と集中」の名のもとに、都心へ重点的な公共投資を集中している。
 ポスト資本主義のデザイン。資本主義は市場経済であり、もう一つが限りない拡大・成長への志向である。重要なのは、「私利の追及を肯定的にとらえる」ということと「経済全体のパイが拡大していく」という二者は表裏の関係にある。「定常型社会」は止まった社会でなく、「量的に拡大しなければ退屈だ」ということではない。資本主義の多様性で、日本はアメリカ、ヨーロッパと違い、「理念の不在と先送り⇒ビジョンとその選択制に関する議論の必要性」。
 あとがきのまとめで、気になる論点が2つある。1つは、都市と農村が非対称的で、「都市と農村の持続可能な相互依存」をすべきで、都市・農村間の再分配システムを導入する。政府がするかどうかは別にして、同感である。2つは、企業行動ないし経営理念の軸足を「拡大・成長」から「持続可能」にシフトしていく。Sustainable developmentをどう理解し、実行するかは評価が分かれるところでもあるが、同感である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日航123便墜落 遺物は真相を... | トップ | コロナ肺炎の対応と対策に思う »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

気になる本」カテゴリの最新記事