伊東光晴(2014)『アベノミクス批判-四本の矢を切る』岩波書店
著者はケインズ研究者で86歳という高齢ですが、アベノミクスに騙されている世論を危惧し、病弱でありながら4本の矢を折るために書かれたものです。そのことは、はしがきに良く表れています。それは理論的根拠が全くないこと、株価上昇と為替正常値はアベノミクスと関係がないこと、公共事業のばらまきの逆流、成長戦略は原発再稼働、労働法の規制緩和、TPP算入、法人税減税である。そして安倍政権は例外的な「極右政権」であり、中国への侵略戦争を認めないことであると、主張は具体的で明快です。その要点を列記します。( )内は私見です。
第1章では、日銀の「量的・質的緩和」は景気浮揚につながらない。第2章では、安倍・黒田氏は何もしていないとして、なぜ株価が上がり円安になったのか説明している。株式は外国人筋の動きで決まる。海外投資家は、日本株を所有するとはいえ、企業経営を行おうなどとは、つゆほども思っていない。第2章では、安倍・黒田氏は何もしていないとして、(アメリカも輸出を増やそうとしていたので円安を良しとしていなかったが、)円安のための円売り、ドルなどの買い、そのドル等は外国国債、ほとんどがアメリカの長短期国債に換えられる。これがアメリカ政府の望むところなのである。
2013年トヨタの決算は、営業利益1兆3200億円で、内訳は販売増6,500億円(全利益の49%)、コスト削減(34%)、円安効果1500億円(11%)である。円安効果は少なく、利益の大部分は自己努力(下請け、非正規へのしわ寄せ)である。(トヨタは5年間法人税0、法人市民税も1割程、そればかりか消費税の還元が毎年1500億円程度ある)cf藻谷「金融緩和の罠」
第3章では、国土強靭化政策にかかわるもので、10年間で200兆円が確保できるのか、小泉改革で減らしてきたのに、財源は国債の一層の累積である。90年代と同じ減税と公共投資政策による財政破綻である。東北以外にもばらまき、画一的な高い堤防であり、高台移転も成果が出ていない。古い自民党の利権構造の復活である。第4章では、人口減少化の経済で、労働慣行を壊し成長となるのか?現実成長率は高まらない。トヨタは13決算で社長が国内市場の縮小を言明した。住宅数の増加と空家率の増加がともに進んでいる。日本は住宅(街も)のストックがなく、若者が自分の家を建て続けなければならない。低賃金の派遣労働増大によって国内需要は低迷し、02年からの景気上昇が好況感を伴わなかった。(同感である。猿田編08.4『トヨタ企業集団と格差社会』)21世紀の経済は量でなく質の時代である。90年代以後、日本経済の分配関係が悪化し続けている。財政赤字は先進国中最高、最悪である。今の政策は成長願望でなく、成熟社会に見合った政策である。有料職業紹介所を廃止し、派遣労働を禁止し、福祉社会(生活保障制度充実)を施行することである。
第5章予算から考えるでは、日銀の長期国債の大量買い入れは、低金利を持続させるものの、今までの大量の国債発行による予算編成を続けるためにすぎない。金利が正常に戻ると、国債の利払いが巨額になり、予算編成が不可能になる。問題を将来に先送りするだけである。(消費税を増税しても福祉は切り下げ、軍事費は増大、法人税は下げるというアベコベの予算編成です)
第6章3つの経済政策を検討するで、①原子力政策は国内の再稼働を認め、インド、トルコなどに設備、技術を売り込もうとしている。放射性廃棄物の処理技術がないのに、地震国日本で地下深くに埋めることが可能であろうか。(豊田市小原地区も候補地で「手付金」を毎年貰っている)原発のコストは安くない。②労働政策の逆転では非正規の増大が有る。非正規雇用に安住する企業は必ず将来報いを受ける。若者を大切にしない企業は必ずその対価を払うことになるだろう。(新車は売れない、結婚できない、少子化、住宅は持てない、犯罪の増加など社会不安は広がると思う)国益にならない③TPPに参加しようとしている。
第1の矢の量的・質的緩和は、株価の上昇、為替の変化に何の関係もない。第2の矢の国土強靭化政策は予算化されていない。第3の矢の経済成長政策は具体化の姿が見えない。
第7章安倍政権の狙うもので、安倍政権は戦後最も右に軸を置いた政権である。戦争責任の取り方でドイツとの違いは何か。戦争遂行の最高責任者は責任を問われなかった。国家神道の中心靖国神社も、これを支えた神官も批判されなかった。それに代わって一億総懺悔であった。国旗も国歌も変わることなく、戦前が戦後につづいていく。アメリカの対日政策が再軍備と国境問題の背後にある。冷戦の進行とともに、日本の自衛隊にアメリカの軍事力の一部を担わせるという動きがアメリカに生まれた。それを受けて日本は軍事力を強める。政権交代に期待を持たせたのは鳩山の時だけであった。アメリカの圧力も加わり、鳩山から菅になると、通産官僚の意のままに海外に原発を売り歩いた。野田になると何のための政権交代だったのか、解散時期を誤り国際感覚もない。彼は右の思想の持ち主で、前原と同じく松下政経塾の出身である。
安倍の「日本を取り戻す」、「戦後レジームからの脱却」は平和国家や憲法9条の改正で、軍隊を認め交戦権を認めることである。維新の党は自民党より右、極右政党である。安倍首相の政治家としての資質はどうか、虚勢を張り、大見えを切るのが好きである。東日本大震災から3年目、「復興住宅は計画の3%」であり、増え続ける汚染水、メルトダウンの恐ろしさを分かっていない。「コントロールできている」とは口先だけである。権力は分散しなければならない。言論は政権から独立しなければならない。NHKのトップ人事を政治のトップが決めるなどあってはならない。戦前の一元国家神道による支配の危険性を感じさせる。
著者はケインズ研究者で86歳という高齢ですが、アベノミクスに騙されている世論を危惧し、病弱でありながら4本の矢を折るために書かれたものです。そのことは、はしがきに良く表れています。それは理論的根拠が全くないこと、株価上昇と為替正常値はアベノミクスと関係がないこと、公共事業のばらまきの逆流、成長戦略は原発再稼働、労働法の規制緩和、TPP算入、法人税減税である。そして安倍政権は例外的な「極右政権」であり、中国への侵略戦争を認めないことであると、主張は具体的で明快です。その要点を列記します。( )内は私見です。
第1章では、日銀の「量的・質的緩和」は景気浮揚につながらない。第2章では、安倍・黒田氏は何もしていないとして、なぜ株価が上がり円安になったのか説明している。株式は外国人筋の動きで決まる。海外投資家は、日本株を所有するとはいえ、企業経営を行おうなどとは、つゆほども思っていない。第2章では、安倍・黒田氏は何もしていないとして、(アメリカも輸出を増やそうとしていたので円安を良しとしていなかったが、)円安のための円売り、ドルなどの買い、そのドル等は外国国債、ほとんどがアメリカの長短期国債に換えられる。これがアメリカ政府の望むところなのである。
2013年トヨタの決算は、営業利益1兆3200億円で、内訳は販売増6,500億円(全利益の49%)、コスト削減(34%)、円安効果1500億円(11%)である。円安効果は少なく、利益の大部分は自己努力(下請け、非正規へのしわ寄せ)である。(トヨタは5年間法人税0、法人市民税も1割程、そればかりか消費税の還元が毎年1500億円程度ある)cf藻谷「金融緩和の罠」
第3章では、国土強靭化政策にかかわるもので、10年間で200兆円が確保できるのか、小泉改革で減らしてきたのに、財源は国債の一層の累積である。90年代と同じ減税と公共投資政策による財政破綻である。東北以外にもばらまき、画一的な高い堤防であり、高台移転も成果が出ていない。古い自民党の利権構造の復活である。第4章では、人口減少化の経済で、労働慣行を壊し成長となるのか?現実成長率は高まらない。トヨタは13決算で社長が国内市場の縮小を言明した。住宅数の増加と空家率の増加がともに進んでいる。日本は住宅(街も)のストックがなく、若者が自分の家を建て続けなければならない。低賃金の派遣労働増大によって国内需要は低迷し、02年からの景気上昇が好況感を伴わなかった。(同感である。猿田編08.4『トヨタ企業集団と格差社会』)21世紀の経済は量でなく質の時代である。90年代以後、日本経済の分配関係が悪化し続けている。財政赤字は先進国中最高、最悪である。今の政策は成長願望でなく、成熟社会に見合った政策である。有料職業紹介所を廃止し、派遣労働を禁止し、福祉社会(生活保障制度充実)を施行することである。
第5章予算から考えるでは、日銀の長期国債の大量買い入れは、低金利を持続させるものの、今までの大量の国債発行による予算編成を続けるためにすぎない。金利が正常に戻ると、国債の利払いが巨額になり、予算編成が不可能になる。問題を将来に先送りするだけである。(消費税を増税しても福祉は切り下げ、軍事費は増大、法人税は下げるというアベコベの予算編成です)
第6章3つの経済政策を検討するで、①原子力政策は国内の再稼働を認め、インド、トルコなどに設備、技術を売り込もうとしている。放射性廃棄物の処理技術がないのに、地震国日本で地下深くに埋めることが可能であろうか。(豊田市小原地区も候補地で「手付金」を毎年貰っている)原発のコストは安くない。②労働政策の逆転では非正規の増大が有る。非正規雇用に安住する企業は必ず将来報いを受ける。若者を大切にしない企業は必ずその対価を払うことになるだろう。(新車は売れない、結婚できない、少子化、住宅は持てない、犯罪の増加など社会不安は広がると思う)国益にならない③TPPに参加しようとしている。
第1の矢の量的・質的緩和は、株価の上昇、為替の変化に何の関係もない。第2の矢の国土強靭化政策は予算化されていない。第3の矢の経済成長政策は具体化の姿が見えない。
第7章安倍政権の狙うもので、安倍政権は戦後最も右に軸を置いた政権である。戦争責任の取り方でドイツとの違いは何か。戦争遂行の最高責任者は責任を問われなかった。国家神道の中心靖国神社も、これを支えた神官も批判されなかった。それに代わって一億総懺悔であった。国旗も国歌も変わることなく、戦前が戦後につづいていく。アメリカの対日政策が再軍備と国境問題の背後にある。冷戦の進行とともに、日本の自衛隊にアメリカの軍事力の一部を担わせるという動きがアメリカに生まれた。それを受けて日本は軍事力を強める。政権交代に期待を持たせたのは鳩山の時だけであった。アメリカの圧力も加わり、鳩山から菅になると、通産官僚の意のままに海外に原発を売り歩いた。野田になると何のための政権交代だったのか、解散時期を誤り国際感覚もない。彼は右の思想の持ち主で、前原と同じく松下政経塾の出身である。
安倍の「日本を取り戻す」、「戦後レジームからの脱却」は平和国家や憲法9条の改正で、軍隊を認め交戦権を認めることである。維新の党は自民党より右、極右政党である。安倍首相の政治家としての資質はどうか、虚勢を張り、大見えを切るのが好きである。東日本大震災から3年目、「復興住宅は計画の3%」であり、増え続ける汚染水、メルトダウンの恐ろしさを分かっていない。「コントロールできている」とは口先だけである。権力は分散しなければならない。言論は政権から独立しなければならない。NHKのトップ人事を政治のトップが決めるなどあってはならない。戦前の一元国家神道による支配の危険性を感じさせる。