NHKスペシャル取材班(2023)『中流危機』講談社現代新書
以下その抜き書きである。( )内は筆者コメント。
第4章 非正規雇用 負のスパイラルはなぜ始まったのか
1990年代初頭に起きたバブル崩壊に端を発し景気低迷、好循環が逆回転を始める。そして経済のグローバル化と中国などの新興国の台頭である。日本企業の徹底した合理化で人件費の削減に着手し、お家芸だったエレクトロニクスや半導体など、中国や韓国に後塵を期す。製造業の海外移転が進み、産業の空洞化が進んだ。デフレ不況化において会社員の給料を一律引き上げるベースアップはなく、中間層の賃金減少、消費減、価格引き下げ、利益減と投資減、イノベーション減、賃金の更なる減少という負のスパイラルが継続してきた。
1985年のプラザ合意をきっかけに、為替市場で円高ドル安の流れが加速した。「新しい日本的経営」の1995年には80円を切った。年功序列と終身雇用はコストが高すぎて持続できないという状況になってきた。競争に勝つためにはコスト削減しかないので、いかにコスト下げるかということが一番の問題だった。
労働者派遣法の改正が雇用の劣化を生み、低賃金につながってしまうという懸念は、派遣法の生みの親ともいわゆる経済学者も、早々に指摘していた、派遣法の対象業務を専門的な知識、技術または経験を必要とする業務などに限定し、賃金相場を高めることだった。1999年改正の時に、理念が歪められ派遣法の立法の原点を忘れた。(2004年には製造業まで拡大した。派遣法と共に職安法も1999年に民営化等が改悪された。)
2008年リーマンショックによる派遣切りが社会問題となり、派遣労働者が雇用の調整弁として扱われていたことが表面化した。
そのツケが、今になって表面化している、と駒村教授は話す。問題は賃金だけに留まらず、将来展望がなくなれば消費控えや少子化にもつながり、不満が貯まれば自分よりも恵まれた人たちを引きずり降ろせばいいんだ、といういわゆるポピュリズム的な政治の動きにつながり、社会の分断が進むことになる。賃金が伸びず中間層が沈み込めば大きな会不安になると懸念する。
コメント
現在、少子化はアベノミクスの失敗と労働法制の改悪である。子育て支援、少子化対策は効果なく、豊田市でも出生数の激減と若者の市外転出である。2月の市長選挙では学校給食無償化、18歳通院医療費無料化など子育て支援が一歩前進した。しかし、非正規の削減、学生の奨学金援助、労働時間の削減など抜本策はこれからの課題である。
非正規雇用の拡大が負のスパイラルを招き、日本経済の停滞の大きな要因であることの経過は理解できる。ではどうするか?誰が頑張るべきか、その処方箋がリスキリングではミスマッチである。アベノミクスの金融緩和、さらには日米安保と経済従属、武器爆買いなど踏み込まないと日本沈没である。
この責任は労働法制を改悪した自公政権にある。また、国民がそれを選んだことにも、間接的に責任はある。では、労働組合はどうであった?連合は非正規の問題に取り組んだのか?中部産政研2014年春巻頭言で理事長の東政元氏が、「非正規労働について考える」で非正規労働者を削減する提言は、正論である。トヨタ労組も一時期は期間工の問題を取り組んだが、その後は無視した。長い目で見れば非正規削減は負のスパイラルにならず、会社の利益にもなったはずである。