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資本主義の終焉と歴史の危機

2014-08-20 | 気になる本

水野和男(2014)『資本主義の終焉と歴史の危機』集英社新書
 この本は資本主義の始まりから、今日のグローバル化した資本主義の行き詰まり、コントロールが効かず成長の限界は来ていて、資本主義はやがて終焉する、と鋭い分析で多くの論点に共感するところも多いです。輪読し討論してみたい本です。
 資本主義の始まりはイギリスと理解していましたが、著者はイタリア・フィレンツェの利子から始まったという節を支持しています。大きな事件として01年9.11、08年リーマン・ショック、11年3.11原発崩壊をあげています。シェールガスは今後資本主義を延命させるかも知れない、と言ってますが長くても「100年」(p49、ちょっと長いかも?)としています。EUの危機と、中国の経済破綻は時間の問題としています。何よりもグローバル化で、後発国の利益をむさぼる先進国の成長主義は終わったということが一番の主題でしょうか。成長を見込まず定常型経済にどう移行するかです。アベノミクスは異次元の緩和、成長至上主義(株価連動内閣)であります。資本主義の終焉の後の社会はどうなるか、そこまでは著者1人では予測できないとして、現状での被害をどう食い止めるか提起しています。個人的には「格差と貧困」の問題にあると思います。以下、気になる論点を拾っていきます。(括弧内は筆者のコメント)
 第1章 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
 日本は0金利が続いています。ずばり、利子率の低下は資本主義の死の兆候と指摘しています。アメリカの「電子空間元年」は1971年です。この年ニクソンショックでドルと金は切り離され、ペーパーマネーとなりました。アメリカの金融帝国化は中間層を豊かにすることはなく、むしろ格差拡大を進めてきました。資本配分を市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やすから、富める者は富み、貧しい者はより貧しくなるのです。リーマン・ショックを経た現在のアメリカは、積極財政と超低金利政策で成長を取り戻そうとしました。実物経済の利潤低下がもたらす低成長の尻拭いを「電子・金融空間」の創出によって乗り越えようとしても、結局バブルの生成と崩壊を繰り返すだけです。(しかも、借金は増えて責任が取られない)グローバリゼーションが加速したことで、雇用者と資本家は切り離され、資本家だけに利益が集中していきます。グローバリゼーションの帰結は中間層を没落させる「成長」にほかなりません。多くの人の所得が厳守する「中間層の没落」(自治体の市民所得の推移を見てもわかる)は、民主主義の基盤を破壊することにほかなりません。オバマの輸出倍増計画は挫折する。その理由は、グローバリゼーションによって新興国が台頭してきている以上、新興国で消費されるものは新興国で清算せざるをえない。そうでないと新興国の雇用が増えず、また経済のパイが拡大しないとなれば、新興国の政治体制が危うくなるからです。(日本も円安になっても貿易黒字は減っている)1章のまとめとして、バブル崩壊は結局、バブル期に伸びた成長分を打ち消す信用収縮をもたらします。その信用収縮を回復させるために、再び「成長」を目指して金融緩和や財政出動といった政策を総動員する。(今の日本)つまり、過剰な金融緩和と財政出動をおこない、そのマネーがまた投機マネーとなってバブルを引き起こす。先進国の市場は飽和状態で、資産や金融でバブルを起こすことでしか成長出来なくなっています。
 第2章 新興国の近代化がもたらすパラドクス
興味あるテーマで特に中国のバブル崩壊は近く、世界への影響は大きいとしています。個人的にはシンガポールのモデル、タイの近代化モデル、そして人口の膨張するフィリッピンの行方も興味があります。1つは、名目GDPが増えれば雇用者報酬も増えていたが、99年以降この関係は崩壊しました。企業の利益は増えても、雇用者報酬は減少している。企業の利益と労働者報酬は分離した。(トリクルダウンはなくなり、労働分配率が減り大企業の内部留保の増大である)資本側は国境を越えて生産拠点を選ぶことができる。景気回復も資本家のためのものとなり、民主主義であったはずの各国の政治も資本家のために法人税率を下げたり、雇用の流動化といって解雇をしやすい環境を整えたいしているのです。もう1つの論点は価格革命で、2030年代前半に中国の1人当たりの実質GDPが日米に追いつき、資源価格の上昇と新興国のインフレ、つまり「価格革命」は収束すると予測しています。
 第3章 日本の未来をつくる脱成長モデル
まず資本主義は70年代半ばを境に「実質投資空間」の中で利潤をあげることができなくなったとしています。日本の例では、1人の粗鋼消費量が73年にピーク、74年合計特殊出生率が総人口維持できる2.1を下回ったことを指摘しています。(非正規、晩婚化、非婚化、長時間低賃金、低家賃住宅不足などが大きな要因だと思います)いまだに「成長がすべての怪我を癒す」という近代資本主義の価値観にひきずられている。成長に期待をかけ、資本が前進(利潤増大は資本の本性、論理か)しようとすればするほど、雇用を犠牲にする。グローバル化が資源の高騰によって、先進国は実物経済から高い利潤をあげられない。過去の成長イデオロギー(まさにアベノミクスでは)にしがみつき猛進すれば、日本の中間層はこぞって没落せざるをえません。著者は、デフレも超低金利も経済低迷の元凶とは考えていません。資本主義の成熟の証拠で、退治すべきでなく新たな経済システムを構築する与件と考えるべきだとしています。国の1000兆円の膨大な債務は、成長を過剰に追い求めた結果です。「脱成長」、「ゼロ成長」を目指すべきとしています。
 第4章 西欧の終焉では、欧州危機がリーマン・ショックより深刻
主権国家システムが支持されるのは、それが国民にも富を分配する機能をもつからでした。絶対王政から、市民革命を経て、資本主義と民主主義が一体化し、主権在民の時代となり、国民が中産階級化していきます。グローバル資本主義では「国民」という枠組みを取り払って、国家を大きくして対応しようとしたのがEU方式といえます。ベックは「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、貧者には新自由主義で臨む」とし、近代資本主義の限界を超える試みも、資本の論理を超えていないのです。ドイツがギリシャ、スペインの救済をせざるをえないのは、ヨーロッパの理念「蒐集」をやめられないからです。
第5章資本主義はいかにして終わるのか
公共事業にかってのような乗数効果が見込めない現在にあっては、財政赤字を増加させると同時に、将来の需要を過剰に先取りしている点で、未来からの収奪に他なりません。リーマン・ショックは信用力の低い人々の未来を奪い、原発事故は数万年までの後の未来にまで放射能と言う災厄を残しました。資本主義は、未来世代が受け取るべき利益もエネルギーもことごとく食いつぶし、巨大な債務と共に、エネルギー危機や環境危機という人類の存続を脅かす負債も残そうとしているのです。バブルが崩壊すると、国家は資本の後始末をする。資産価格の上昇で巨額の富を得た企業や人間が、バブルが弾けると公的資金で救われます。その公的資金は税という形で国民にしわ寄せが行きますから、今や資本が主人で、国家が使用人のような関係です。財界は法人税を下げろの1点張りで、法人税を下げても利益は資本家が独占してしまい、賃金に反映されません。国家の財政を健全にして、分配の機能を強めていくほうが多くの人々に益をもたらすはずです。
資本主義の次の社会システムは「定常社会」としています。(J.Sミルや、広井良典2001『定常型社会』岩波新書との関連は述べられていません。ゼロ成長でやっていける政策・ビジョンが国民に浸透するかです。)著者は若干の処方箋を提起しています。無産階級の増大、0金利をどうするか。(浜矩子は利率を上げろと言ってます)増える非正規、生活保護に対し、働く場所をつくるのに労働時間規制をし、ワークシェアリングの方向に舵を切らなくてはなりません。長時間、「ただ働き」、過剰労働をなくすよう規制強化をすれば、相当数の雇用が確保されるはずです。(安倍政権は逆行しようとしています)ダンテ(?)、シェイクスピア(?)、スミス、マルクス、ケインズなどの思想家が、資本主義の欠陥を是正しようと命がけでたたかってきたから長く支持されてきました。

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