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林他編「交通・都市計画のQOL主流化」と豊田市

2024-07-09 | 気になる本

林、森田、竹下、加知、加藤編(2,021)『交通・都市計画のQOL主流化』明石書店

先日の豊田市の新総合計画の中間報告会のシンポは、市長は挨拶だけで帰り、報告書の説明はなく抽象的で何が問題点なのか、参加した私には理解できなかった。

現在の自治体の総合計画・都市計画マスタープランの都市構造は、立地適正化計画後はコンパクトシティ+ネットワークで主である。つまり人口が減少し、経済成長も望めない、従って市街地を縮小し、駅周辺に住宅や都市施設を集約しようという発想である。それは今までの線引きを見なおし、さらに誘導的に集約することと、核となる地域拠点(駅や支所など)を交通ネットワークで結ぼうというものである。本では触れていないが、中山間地を抱える自治体では、過疎化とどう向き合うかというテーマがある。中山間地の人口減少は激しく、一定の住める人口維持をどう支えるか?学校、交通、営農林、自然エネ、コミュニティなど限界にきている。能登半島地震での復興の遅れに、過疎問題が大きな要因に思う。

QOL(quality of life生活の質)については、以前の豊田市の総合計画ではテーマになっていた。大企業のある豊田市では、一応不正があってもトップ企業であり、影響力は大きい。林、加藤さんは中部の人で、加藤さんとは以前会い、話を聞いたこともある。

この本で気になるポイントはQOLの評価である。2部ではヨーロッパの事例が中心にある。都市の事業の評価は難しくわかり難い。例えば、豊田市ではラグビー大会やラリー選手権などイベント起爆剤に、都心開発に多大な予算を使っている。市民の6割以上が、魅力と賑わいに疑問を持っている。しかし、市は経済波及効果や都心の歩行者交通量、住戸の増加をあげ効果があったと一面的に評価している。以下本書のポイントとコメントである。

はじめにで林は、「経済成長から個人の幸福」への移行を掲げ、その評価法を提案しているがやや専門的で理解しにくい。豊田市の解析を市が委託して報告して頂きたい。感じとしては豊田市の都市思想とは対立するようにも思うが、異なった意見が対比されれば市民も理解されやすい。豊田市長は中核市の中で幸福度1位と選挙公報で書いていたが、財政力、投票率など評価基準は何か、が問題である。

コンパクト+ネットワークは対立するという見解はなるほどと思った。豊田市の場合はコンパクト(都心整備、幹線道路促進)が優先で、過疎対策は疎かでである。幹線道路は市に推進室を置くほど熱心であるが、生活道路は自治区を通さないと要望も受け付けない。ネットワークでは鉄道、バス以外にも多様な方法が模索されている。著者の指摘する通勤者だけでなく、高校生、高齢者の交通弱者の視点が重要である。

1-2 現行の費用便益分析による事業評価の矛盾 で、手法のミスマッチ、幸福要因の変化を指摘する。2章のQOLは本書の肝である。専門的であるが表2-3での評価指標、求人倍率、家賃、通勤・通学時間、買い物と病院と病院の所要時間、駅への所要時間、住宅の広さ、公園までの時間、騒音、自然災害の発生度、交通事故の遭遇頻度、大気汚染の度合い、交通手段のやさしさ、生物多様性、居住地区の清潔感など、具体的である。点数化してどう評価するかは不明である。交通具の質の評価指標では、所要時間、渋滞、乗り換え、自由度、安全性、料金などをあげている。また、別の表で運転しやすさ、歩きやすさの指標も示している。豊田市の都心整備の評価では、歩行者数が増加したとあるだけで、科学性もなく乱暴である。4章ではドイツのQOLの事例や、歩きやすさの指標がデータ整理されている。豊田市も参考にして数値で公表して欲しい。

名古屋圏の事例から、都市構造に関する課題として、拡散型都市構造が進展した理由を、①郊外地に手ごろな戸建て住宅が入手、②車を自由に使うライフスタイル、③自然の近くで子育て、④大規模集客施設や公共施設が郊外に立地、を指摘する。豊田市も労働力として流入した人が、郊外に住宅、団地、学校など作って、「低密度の分散型市街地」を形成してきた。そして、線引き都市計画でコントロールできたのか、立地適正化計画への連動などの評価・分析がされていない。国家高権の規制緩和(高さ、容積率、日照など)で建築自由が進み、デベロッパーの利益優先で都市の計画があるとは言い難い。表4-3-6では、QOLの評価要因が示されている。これを使って豊田市の都市を評価し、他市と比較すればわかりやすいのではないか?

都市構造のシナリオによる分析(4-3加藤、戸川)では、持続可能性評価システムを活用して定量的な評価を行う、としている。人口・世帯数の算定方法、将来人口の推計結果、人口の集約化シナリオをなど名古屋市でグラフの事例が分かりいやすい。シナリオ別CO2排出量とか住宅タイプ別割合、交通機関指標は分かりやすく、豊田市でも作成し学区別に説明して欲しい。わかりやすい資料で説明しないと行政の計画について、市民参加や意見が集まらない。表4-3-13事例として、住宅購入費等の助成と住宅整備支援で、富山市、金沢市、福井市、岐阜市がある。多治見市では公共住宅の補完として民間賃貸の補助制度が参考になる。

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